ロレックスはアメリカ市場を見据え、“ル・マン”ではなく“デイトナ”を選んだ。

ロレックスの歴史において、なぜコスモグラフは“ル・マン”ではなく、“デイトナ”となったのか。その由来はアメリカ・フロリダ州のデイトナビーチにあるデイトナ・インターナショナル・スピードウェイとの結び付きを強めたことにある。

ロレックスはコスモグラフ発表以前の1930年代から数々のクロノグラフを手がけてきた実績があるが、この分野では長年苦戦を強いられていた。1963年のRef.6239の登場によって、ロレックスのクロノグラフは大きな方向転換を迎える。当時のアドバタイジングで確認できるル・マンの名を冠したモデル名、ロレックスでは初のタキメータースケールを搭載したベゼルは、華やかなカーレースシーンへの参戦表明と言っていいものだった。そしてもうひとつ言えることは、このいわゆるル・マンの発表時において、ロレックスとル・マン24時間レースとのあいだには直接的な関係はなかったと思われるが、それから数十年後、ル・マン24時間レースの勝者にコスモグラフ デイトナが贈られるようになったことは、実に興味深い事実であると思う。

「未来とは、今である」。目の前のことに全力を尽くすことで未来は開ける。今の頑張りが未来を創るという意味を込めたアメリカの文化人類学者のマーガレット・ミードの名言だが、まさにロレックスのたゆまぬ努力は確かな結果を残したのだ。

前述のとおり、1964年からロレックスは世界最大級のマーケットであった北米市場に向けて、文字盤に“DAYTONA”のプリントを入れたRef.6239を投入し始めるが、この戦略がマーケティングとして功を奏して、コスモグラフは成功への道筋を歩むことになる。時計、クルマ、ファッション関連を中心に、古い雑誌やポスターなどを取り扱うアド・パティーナの創業者であるニック・フェデロヴィッチ氏による、ル・マンおよびデイトナに関するアドバタイジングへの考察は以下のとおりだ。

「ル・マンの広告が最初に打たれたのは1964年ごろだと推測しますが、この時点ではデイトナとは呼ばれていなかったことは確かだと思います。翌1965年の広告から正式にデイトナというモデル名が記載されるようになりました。古いロレックスの広告を調べていくにつれて解明できたことは、掲載されている時計の年式と広告が打たれた年は一致しないことです。私たちのようなコレクターやマニアは、時計のディテールにこだわりますが、当時の広告において厳密な表現はさほど重要ではなく、そのモデルの主立った特徴を見せることに重点を置いていた傾向が見られます」

 時計の説明よりも、むしろカーレースやスポーツカーの写真を巧みに使いながらイメージを刷り込むことで、ロレックスはレースの世界との距離を縮めたのだ。

 このようなブランディングと並行して、1965年に登場したねじ込み式のクロノグラフプッシャーを初採用したプロトタイプ Ref.6240の登場をきっかけに、コスモグラフは段階を踏みながら機能性を高め、防水クロノグラフへと変身を遂げて独自路線を追求していく。

1966年に打たれたロレックスの広告。サブマリーナーならダイビング、ロレックスならスポーツカーなど時計とマッチした背景を使うことで、それぞれの世界を写真を使って表現した。

過酷なレースで育まれたレーシングクロノグラフ
 北米市場に迎えられたコスモグラフ デイトナは、ここから新たな物語を紡いでいくわけだが、これに関連する話題とともに、ロレックスならではの防水クロノグラフが完成されるまでのヒストリーもル・マンと同様、極めて興味深い。

 コスモグラフ デイトナが台頭した1960年初頭、カーレースは新たな時代を迎えて、かつてないほどの熱気に包まれていた。この時代のレーシングカーへの造詣が深く、希少なクラシックカーを販売するコーギーズのオーナーである鈴木英昭氏に、1960年代のル・マン24時間レースについて話を聞くことができた。

ル・マン24時間レースの競技はフランス中部にあるル・マン市のル・マン24時間サーキットで行われていた。写真は1925年から始まったル・マン式スタートの様子。シートベルトを閉めないドライバーが多かったため、1971年から通常のローリング式スターティングを採用するようになった。

デイトナ24時間レースは、ル・マン24時間レースの形式を踏襲しているが、高速オーバルコースの特性に加え、途中に組み込まれたテクニカルセクションが存在することからマシンやドライバーにかかる負担の大きいレースである。バンクではマシンに外方向と下方向でのGがかかることからサスペンションのセッティングにも苦心したという。

「この時代は、空気抵抗の測定精度が向上したことで、レーシングカーのデザインが劇的に変わります。ル・マン24時間レースでは、フォードがフェラーリを買収しようと試みたことから両社の対立が始まり、1960年から1965年までフェラーリが6連勝を飾る一方、フロントエンジンからミッドシップエンジンに切り替わり、戦力を増強。1966年はフォード GT40が初めてフェラーリを打ち負かして4連勝しますが、1970年には徐々に実力を高めてきたポルシェが初勝利します。1969年からレースで使用したポルシェ 917を見ればわかるように、レースの世界では当然のこととして認識されていますが、かつて大活躍したフェラーリ 250TR(テスタロッタ)のようなデザインはこの頃には一切見当たらなくなります。アメリカにおけるレースシーンはというと、1962年からデイトナ・インターナショナル・スピードウェイで開始されたデイトナ24時間レースは、まだ知名度は低かったのですが、レースの報酬が高かったことを理由に、ヨーロッパから多くのレーサーが参加するようになりました」

 同じ時代、レースの世界を走り始めたコスモグラフ デイトナにおける進化の過程はレースに相通じるものがある。苛烈を極めたデイトナ24時間レースを耐え抜くためにレーシングカーはスタイリングを洗練させ、スペックを高めていった。そんなレースにふさわしいクロノグラフとしてコスモグラフ デイトナに求められたのは耐久性を高めること。特に当時のクロノグラフ全般の弱点であった防水性能の向上だった。1965年に登場したRef.6240はプロトタイプのねじ込み式クロノグラフプッシャーを採用し、1969年から登場した(1970年、71年とする説もある)Ref.6263は、それを正式に採用したモデルだ。12時位置のプリントの2行目には、防水性能を示した“OYSTER”の文字が加わる。このRef.6263の製造が1989年まで続いたことからもクロノグラフとしての信頼性の高さがうかがえる。

 さらなる完璧さを求めたロレックスは、40㎜径のオイスターケースにリューズガードを与え、初の自動巻きクロノグラフムーブメントとなるCal.4030を搭載したRef.16520を1988年に発表する。文字盤の2行目のプリントには、“OYSTER”のほかにデイトナ初となる“PERPETUAL”の表記が入る。このアップデートの結果、コスモグラフ デイトナはクロノグラフという複雑機構でありながら、そのほかのプロフェッショナルモデルと同等クラスの防水性能や耐久性を手に入れた。もうひとつ、コスモグラフ デイトナとカーレースの結び付きを考察するうえで、俳優ポール・ニューマンの存在はやはり欠かせない。ご存じのように、レーシングドライバーとしても活躍した彼の腕には手巻きのコスモグラフ デイトナがよく巻かれていた。そのため彼が身につけていたエキゾチックダイヤルと呼ばれる文字盤が入るコスモグラフ デイトナは、のちにポール・ニューマン モデルと呼ばれるようになるわけだが、その人気は衰え知らずで現在も価格の高騰が続いている。

 つまるところ、カーレースの世界や第2次世界大戦後にアメリカの好景気が絶頂を迎えていた北米市場に勝機をみいだしたロレックスのマーケティングは、結果論として正解だったわけだ。歴史に“もしも”はないが、ロレックスがデイトナではなく、ル・マンへの道を目指し続けていたとしたら、コスモグラフと名付けられたクロノグラフの運命は、今とはまったく違う道を歩んでいたかもしれない。

ヴィンテージロレックスの頂点に立つ手巻きデイトナ。

ヴィンテージロレックスには謎めいたモデルが非常に多い。オークションハウス、熱狂的なコレクター、有力なヴィンテージウォッチ専門店らの熱心な研究によって、徐々にその真相が解明されている。ポール・ニューマンダイヤルの人気に支えられ、“キング・オブ・クロノグラフ”として市場に君臨するコスモグラフ デイトナの手巻き時代のリファレンスも例外ではない。Ref.6240の文字盤に“ROLEX”とだけ表記される通称“ソロ”がその好例で、不確定要素が多いことから数年前と比べて価格が落ちている。それどころか現在では、ソロダイヤルはRef.6238に入るという話が有力視されているそうだ。対照的に人気が安定しているモデル、評価が上がり続けているモデルというのも存在している。ここ最近のオークションでは、バゲットカットのダイヤモンドベゼル、ダイヤモンド&サファイアのパヴェダイヤルを備えたRef.6270が日本円にして約5億6000万円で落札されたことは記憶に新しい。

なかでも最初期型のRef.6239、上の古いアドバタイジングに掲載された“ル・マン”と呼ばれるモデルは、コレクターたちの研究によって“再発見”されたことで注目されるようになったと言っても過言ではない。2013年にHODINKEE創業者のベン・クライマーはRef.6239のファーストモデルに関する記事を執筆しているが、当時のコレクターたちの認識では、変わったディテールを備えてはいるものの、デイトナ表記のない最初期型モデルという程度。ごく一部のコレクターがその存在を知っているくらいであり、今ほど注目を集めるようなものではなかった。2017年10月にフィリップスがコスモグラフ デイトナをテーマにしたオークション『ウィニングアイコンズ』を開催したが、ヴィンテージロレックスの世界でル・マンの存在が知られるようになり、コレクターたちがざわつき始めたのは、このオークションからさかのぼること数年前の2015年ごろだったと記憶している。とある雑誌の取材を通じて、国内屈指のヴィンテージロレックスのメガコレクターが所有する実機を初めて見たのだが、華やかなポール・ニューマンダイヤルとは真逆をいくシンプルなデザインに筆者の心は動かされ、のちにRef.6239を購入するきっかけになった。非防水のポンプ型クロノグラフプッシャーを装備したおよそ36.5mm径のケースは、ねじ込み式の防水クロノグラフプッシャーを採用したRef.6263などのモデルとはひと味違う魅力があったのだ。

『ウィニングアイコンズ』でポール・ニューマン本人が所有していた個体が約20億円で落札されて以来、手巻きのコスモグラフ デイトナ全般の価格が飛躍的に上昇し、人気は絶頂を迎えた。その一方でヴィンテージモデルにはより厳密にオリジナリティが求められるようになった。それはル・マンについてもしかりで、たとえ文字盤が正しいものであっても、全体のオリジナリティが損なわれていれば、評価は激減する。それとは対照的に、パーツの整合性が取れた個体の評価は高く、良質な個体に関しては価格は安定している印象だ。

競合だったオメガやロンジンと争い、そして“コスモグラフ”という造語から察するに、当時の宇宙開発競争にも乗り出していたであろうコスモグラフ デイトナ。カーレースの世界に参入することに勝機をみいだしたロレックスの威信をかけたこのレーシングクロノグラフは、発表から数十年の時を経て、有識者たちに“再発見”されたことで、改めて特別な輝きを放つに至った。

生粋マニアによるル・マンのディテール解説

フォーミュラ1のモナコグランプリ、アメリカで開催されるインディアナポリス500と並び、世界3大レースのひとつに数えられるル・マン24時間レースは、フランスのル・マン近郊で行われる四輪耐久レースである。2023年は、この偉大なレースの100周年を数えるアニバーサリーイヤーであると同時に、コスモグラフ デイトナ誕生60周年にあたる節目の年でもある。これを記念して、ロレックスはコスモグラフ デイトナ 18Kホワイトゴールド仕様のスペシャルエディション、Ref.126529LNを発表し、世界中のデイトナファンを熱狂させた。

今でこそ世界で最も有名なクロノグラフとなったコスモグラフ デイトナだが、成功までの過程は決して平坦な道のりではなかった。とりわけ手巻き時代のデイトナのディテールの変遷には、かつてない防水クロノグラフを目指し、ロレックスの開発チームが試行錯誤していた痕跡が見られる。ル・マンはロレックスにおけるレーシングクロノグラフの原点となった存在で、そもそも前述の古い広告のなかで“ロレックスの新しいクロノグラフはル・マンと呼ばれている”という一文とともに掲載されていたことに由来する、デイトナのファーストモデルであるRef.6239の最初期型につけられた通称だ。ル・マンの文字盤にはブラックとクリームホワイト(後者は特に希少性が高い)があり、1963年にのみ製造された。それゆえ、希少性においてはポール・ニューマンダイヤルを上回る。ヴィンテージロレックスに特化した専門店リベルタスのスタッフである中嶋琢也氏の見解によると、ル・マンの主な特徴として、以下のポイントが挙げられるという。

「ル・マンとほかのRef.6239では使用しているパーツに大きな違いがあります。そのひとつがステンレススティール製のタキメーターベゼルです」

Ref.6239の製造期間は1963年から1970年と比較的長い。その理由から製造年によって細かなディテールの違いがある。ベゼルは3種類あり、ル・マンに装着される時速300kmまで計測できる最初期のタキメーターベゼルには、そのほかのベゼルにはない“275”の数字が刻まれる。

「文字盤の6時位置にある“ダブルスイス”と呼ばれるふたつのSWISS表記、長く細い時・分針、これらもル・マンならではの特徴です。クリームホワイト文字盤について言及すると、クロノグラフ秒針がブルースティールのものもあり、デイトナの歴代モデルのなかでも際立った存在があります。“92…”から始まる6桁のシリアルナンバーであることも確認すべき重要事項です」

これ以外にも、夜光塗料にトリチウムを使用したことを意味する12時位置の“アンダーバー”の表記もマニア心をくすぐるデザインとして人気がある。

自身もブラックダイヤルのル・マンを所有する中嶋氏は、その魅力について次のように語ってくれた。「これはデイトナだけではなく、サブマリーナー、エクスプローラー、GMTマスターなどのファーストモデル全般に共通することですが、ロレックスの開発に対する意気込みがひしひしと伝わってきますよね。ル・マンについては、ただただ美しいと感じる優れたデザインに引かれています」

ハイム・ウォッチ・カンパニー “ビアヘロ グローバル シチズン”が登場!

このモデルは空(Air)、陸(Land)、水(Water)という要素にちなんだ3色のカラーバリエーションで展開され、価格を1000ドル(日本円で約15万円)以下に抑えつつ、意外性のあるユニークな要素を備えた時計としてソーシャルメディア上で注目を集めた。実のところ、昨年までこのブランドの存在を知らなかったが、オンライン上での好意的な評価に興味を引かれた。そしてハイム・ウォッチ・カンパニーの創業者M. ザキール・ミア(M. Zakir Miah、姓を逆から読むと…まあ、察しがつくだろう)氏から、新たな限定ビアヘロのプロトタイプを数日間試す機会をもらえないかと連絡を受けた。実物を手にするいい機会だと思い、その申し出を快諾した。

タグホイヤーコピーステンレススティール製のケースは直径38.5mm、厚さ12mm、ラグ・トゥ・ラグは45.5mmと、時計愛好家にとって理想的なサイズ感に収まっている。ケースの仕上げは主にポリッシュ仕上げで、非常に薄いベゼルには小さなリング状のヘアライン仕上げが施されている。ミア氏によれば、これらはすべて手仕上げとのことだ。ミドルケースは丸みを帯びており、コルヌ・ドゥ・ヴァッシュスタイルのラグと一体化することで、ケース全体により精巧な印象を与えている。そのためCNCミルで単純に削り出されたような工業的な雰囲気はなく、よりクラシカルで上品な仕上がりとなっている。

ダイヤルは、ケースの厚みに対して意外なほど奥行きを感じさせる。その主な理由は、傾斜のついたワールドタイム表示のインナーリングにある。そしてこの50本限定のモデルにおける最大の特徴が、ベゼル上の各都市名がそれぞれの現地語で表記されている点だ。ハイム・ウォッチ・カンパニーの本拠地であるシカゴは赤字で印字されている。西半球のタイムゾーンは共通のアルファベットを使用しているため、それほど大きな違いは感じられないかもしれない。しかし、東半球の都市を見てみると、漢字やそのほかの文字体系を用いる言語が多く登場し、地域ごとの表記に明確な違いがあることがよくわかる。

このインナーリングはケース左側の10時位置にあるリューズで調整可能だ。そしてインナーリングとダイヤル本体のあいだには、もうひとつのリングが配置されている。ただし、これは厳密にはリングではなく周囲に印字が施された透明ディスクであり、いわばミステリーダイヤルの針のような仕組みになっている。この透明ディスクには24時間表示スケールが印刷されており、通常の3時位置のリューズを第1段階まで引き出すことで調整可能だ。これはセイコーのCal.NH34Aを搭載した一般的なGMTウォッチのGMT針と同じような操作で設定できる。ミア氏は、回転式のワールドタイマーリングとリューズを追加することで、通常のコーラーGMTウォッチをワールドタイマー機能を備えたものへと変えた。その仕組みはきわめてシンプルでありながら、実に巧妙である。

ビアヘロのデザインのなかで最も目を引く要素は中央のダイヤルだ。ここには世界地図が3Dレリーフで型押しされ、その上にプリントがあしらわれている。実物を見ると控えめな仕上がりだが、時計を傾けるとその立体感がはっきりと浮かび上がる。この限定モデルでは、ダイヤルがモノクローム仕上げとなっており、通常モデルのような色の変化がないため、3Dレリーフの立体感がやや抑えられた印象を受ける。分度器のような形状の針は焼き入れによってブルースティールに仕上げられており、アプライドのブルーインデックスと美しく調和している。

時計を裏返すと、セイコー製キャリバーは目を引くローターによってほとんど隠れている。工業的な仕上げのムーブメントを、オープンケースバックでどのように魅力的に見せるかの好例といえるだろう。このキャリバーは約41時間のパワーリザーブを備え、50mの防水性能を確保。ストラップにはデラグス(Delugs)製のダークグレークロコダイルストラップが採用されており、ハイムとデラグス両ブランド名が裏面に刻印されている。

ハイム・ウォッチ・カンパニー ビアヘロ グローバル シチズンの販売価格は949.99ドル(日本円で約14万円)で、50本限定となっている。

我々の考え
ビアヘロを手首に装着した瞬間に感じたのは、この時計が時計愛好家の嗜好にしっかりと寄り添ったデザインだということだった。手首になじみやすいユニバーサルなケースサイズ、短めのラグ・トゥ・ラグ、そして興味をそそるディテールが巧みに組み合わされている。1000ドル(日本円で約15万円)以下の価格帯にしては驚くほど複雑な構造を持ち、数日間着用しているあいだに次々と新しいディテールや特徴に気づくことができた。特に手仕上げのケースは、同価格帯の時計にありがちなエッジの鋭い機械加工的な印象を和らげ、よりエレガントな雰囲気をもたらしている。

細部の仕上げにはいくつか妥協点も見られる。たとえばローターの仕上げや24時間ディスクの印字など、もう少しシャープであれば理想的だと感じた。ただミア氏によれば、このプロトタイプには最終製品では見られない、仕上げのわずかな欠陥があるとのことだった。実際に、通常生産モデルであるランド(グリーンカラー)も送ってもらい比較したところ、これらの問題は解消されていたことを確認できた。

この限定モデルは、通常のビアヘロよりも高い価格設定になっている。スタンダードモデルのビアヘロは799ドル(日本円で約12万円)で販売されているが、“グローバル シチズン”ビアヘロはプラス150ドル(日本円で約2万円)のプレミアムが加わり、949.99ドル(日本円で約14万円)となっている。この価格差はいくつかの特別な要素によるものだ。具体的には焼き入れによるブルースティール針、デラグス製のクロコダイルストラップ、そして50本限定という小ロット生産ではスケールメリットを得にくい、新設計のベゼルが挙げられる。

この限定版ビアヘロは、依然としてバリュー・プロポジション(価格に見合う価値がある時計)と言えるのか? それについては1000ドル以下に収まっているという一点において、まだそう言えると思う。確かに、いたって普通なNH34を搭載しており、私はこのムーブメントを採用した高価格帯の時計には批判的な立場を取ってきた。ただ市場を見渡しても、これに匹敵するような魅力的な代替モデルはほとんど存在しない。むしろ、このグローバル シチズンの価格設定によって、通常モデルのビアヘロがさらにお買い得に見えてくるほどだ。また一部の人は50本限定という決定を惜しむかもしれないが、ハイム・ウォッチ・カンパニーはもともと大規模な生産を行うブランドではない。この限定モデルは、今後のさらなるバリエーション展開を模索するための試金石としての役割を果たしているのだろう。

ロレックスがイエローゴールドで魅せる新作として、“セッティモ”ブレスレットを発表。

新たに開発された18Kイエローゴールド製のフルポリッシュ仕上げによる7連のセッティモブレスレットを初披露し、より一層ドレッシーな美観を確立した。ケース径39mm、厚さ9.5mm、サファイアのシースルーバックというスペックはそのままに、引き続き自社製Cal.7140を搭載している。

1908 Bracelet and watch
このセッティモブレスレットは、1908専用に設計されたものであり、オイスターやジュビリーといった既存のブレスレットを流用したものではない。7列の小さなリンクで構成され、すべてが高い可動性と鏡面仕上げを特徴としている。各リンクは柔軟性を確保しつつも、トルクや外力に対する剛性を維持するため、きわめて精密な公差で加工されている。ロレックススーパーコピー代引き 激安ブレスレットはクリーンで途切れのない美観を損なわぬよう、隠し仕様のクラウンクラスプで仕上げられ、さらにミドルケースへの接続に関しては特許出願中の特別なシステムが採用されている。

Black dial watch 1908
ダイヤルは、1908ならではのクリーンでクラシカルな意匠を踏襲し、ブラックとホワイトの2色が用意される。3・9・12時位置にはアプライドのアラビア数字が配され、そのほかのインデックスにはファセット仕上げのゴールド製アワーマーカーが配されている。6時位置には窪んだスモールセコンドが設けられている。針はブレゲスタイルの時針とソードスタイルの分針を組み合わせたもので、ダイヤモンドの切削加工によってカットおよびポリッシュされ、鏡面のような反射を実現。夜光塗料を用いずとも低照度下での視認性を高めている。

Rolex 1908 watch
我々の考え
“ドレスウォッチ回帰”は時計愛好家たちのあいだで軽々しく繰り返されがちな決まり文句のようにも感じられる。ただ1908コレクションを通じて、ロレックスがドレッシーな方向に歩みを進めているのは確かなようだ。新たなブレスレットが、現在ヴィンテージ市場で注目を集めている彫刻的かつデザイン重視のトレンドに向けた意図的な一手かと言えば、そこまでは断言できない。ただ確実に言えるのは7つのリンクが優美に連なる“セッティモ”によって、1908はジュエリーに近い存在へと昇華しているということだ。そして同時に、ロレックスをスリムでラグジュアリーなドレスウォッチの、さらに一段上のステージへと押し上げてもいる。

基本情報
ブランド: ロレックス(Rolex)
モデル名: パーペチュアル 1908(パーペチュアル 1908)
型番: 52508

直径: 39mm
厚さ: 9.5mm
ケース素材: 18Kイエローゴールド
文字盤: ホワイトまたはブラック
インデックス: アプライド
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: 7連リンクの18KYGセッティモブレスレット

Rolex 1908 Movement pic
ムーブメント情報
キャリバー: 7140
機能: 時・分表示、スモールセコンド(ストップセコンド機能)
パワーリザーブ: 約66時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
追加情報: 特許形状のシリコン製シロキシ・ヘアスプリング、高性能パラフレックス ショック・アブソーバ

パテック フィリップ Ref.6159G-001 超高額なスモークドサファイアダイヤル搭載モデル。

同じビジュアルを、永久カレンダーとレトログラード式日付表示だけで楽しめるモデルが登場した。新作Ref.6159G-001は、あのスモークダイヤルをホワイトゴールド製ケースとホブネイルベゼルの組み合わせで実現している。

Patek ref. 6159G-001
ムーブメントには、レトログラード式日付表示に加え、曜日、うるう年サイクル、月をそれぞれ9時、12時、3時位置の窓で表示する自動巻きCal.26-330 S QRを搭載。パワーリザーブは約45時間で、2万8800振動/時で駆動する。とはいえ、この時計でもっとも目を引くのはやはりその全体的な美しさだろう。おそらく多くの人にとって意外性すら感じさせる要素である。ホワイトゴールド製ケースのサイズは直径39.5mm、厚さ11.49mmとなっている。

Patek 6159G
Ref.6159G-001は、パテック フィリップから登場したとは思えない、まさに意表を突くような1本である。まず特筆すべきは、ムーブメントを見せつつも視認性を確保した驚くべきスモークドサファイアダイヤルの採用だ。そしてホワイトゴールド製ケースにはホブネイルベゼルが組み合わされているが、複雑機構を備えたパテックのモデルでこの意匠を見る機会はあまり多くない(思い浮かぶのは、永久カレンダーとホブネイルベゼルを備えたRef.5139くらいだろう)。なお、Ref.6159G-001の価格は1866万円(税込)である。

我々の考え
もし現代の時計のなかで、これまで実物を見たことがないが、ぜひ触れて、撮影して、じっくり観察したい1本を挙げるとすれば、それは間違いなくパテックのRef.5316/50Pだろう。レトログラード式日付、永久カレンダー、ミニッツリピーター、トゥールビヨンという超絶複雑機構に、スモークドサファイアダイヤルという意外性あるデザインを掛け合わせた“怪物”的存在だ。そして今回の新作は、まさにそのモデルから強くインスピレーションを受けたものに思える。いわば“怪物の息子”とも呼ぶべき存在で、より親しみやすい仕様ながらパテックのハイエンド要素を多く備えている。ムーブメントには、2016年から採用されているキャリバーが搭載されている。

このキャリバーを搭載した直近のモデルは、昨年発表された希少なハンドクラフトモデルのRef.5160/500Rである。実はこの時計、私は撮影する機会を逃してしまった(そしてその見事な彫金を見られなかったことを今も後悔している)。時間に制約があったこと、そしてやや変わったケースデザインが個人的にしっくりこなかったことが理由である。

だが今回のRef.6159G-001で使われているクル・ド・パリ装飾のベゼルは、予想以上に美しく仕上がっていた。このデザイン要素にはあまり引かれたことがなかったが、ここではまったく別物のように感じられる。ちなみにこの意匠を採用した最新のモデルのひとつがRef.6119Gであり、私はこのモデルに関しては、ホブネイルベゼルを省いたほうがすっきり見えるのではないかと考えていた(お気に入りだったRef.5196Pの後継ということもあり)。とはいえ好みは人それぞれであるし、この意匠は1932年から続く由緒あるデザインなのだから、そろそろ自分も“100年近く前のセンス”に歩み寄るべきなのかもしれない。本日行われるアポイントでは、真っ先にこの時計に向かうつもりだ。そしてきっと、ホブネイルベゼルに対して“申し訳なかった”と素直に感じることになるだろう。それほどに、この時計は素晴らしい仕上がりであると感じている。

基本情報
ブランド: パテック フィリップ(Patek Philippe)
モデル名: レトログラード日付表示針付永久カレンダー(erpetual Calendar Retrograde Date)
型番: 6159G-001

直径: 39.5mm
厚さ: 11.49mm
ケース素材: ホワイトゴールド
文字盤色: ブラック・グラデーションのグレー・メタライズ・サファイヤクリスタル
インデックス: アプライド
夜光: ホワイトゴールド製のファセット仕上げバトン型アワーマーカーにホワイトの蓄光塗料を塗布
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ファブリック柄のコンポジット素材、カラーはブラック。ホワイトゴールド製の特許取得済み3ブレード・折り畳み式バックルを採用

Patek ref. 6159G-001
ムーブメント情報
キャリバー: 26-330 S QR
機能: 時・分・秒表示、レトログラード式日付表示、曜日・うるう年サイクル・月表示、ムーンフェイズ
直径: 28mm
厚さ: 5.36mm
パワーリザーブ: 最小35時間~最大45時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 30
クロノメーター認定: なし

価格 & 発売時期
価格: 1866万円(税込)
発売時期: 発売中