オーデマ ピゲが、ジョン・メイヤー(John Mayer)とのコラボレーションによる最新ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー(RO QP)を発表した。

ホワイトゴールドを使用した信じられないほどゴージャスな本モデルは、Cal.5134で駆動し、驚くほど革新的な“クリスタルスカイ”仕上げのファセット文字盤を備えている。世界限定200本で、価格は18万700ドル(日本での価格は要問い合わせ)だ。オーデマ ピゲはまた、ジョン・メイヤーが“クリエイティブコンジット(ブランドに創造やアイデアを提供する役割)”という新たな肩書きも得たと発表をした。

以上が概要だ。これはオーデマ ピゲの過去と未来のすべてが、1本の時計の中に凝縮された美しい姿であり、限りなく魅了される。リリースのなかには、デザイン、ブランドの歴史、ジョン・メイヤーのコレクションにおける話など、小さなニュースや話題がたくさんあった。メイヤーと私は、ロイヤル オークや、より具体的にはRO QPがいかにして彼のコレクション(あるいは彼の個性)を象徴する時計のひとつになったか、1対1で少し話をした。ユーザーに共有すべき意見はいくつかあるが、引用はない。メイヤーが自分の意見を言いたいときは、私たちが彼に期待するような情熱と知識を持ってそうするだろうと考えているからだ。ただ、もしよければ舞台を整えるために、本題から少し逸れて音楽の話をさせて欲しい。

1週間ほど前、私はクルマでニューヨーク郊外の旅行から戻っていた。ジョン・メイヤーがお届けする新しいSirius XMステーションにチャンネルを合わせると、ちょうど彼のお気に入りの曲であり、グレン・キャンベル(Glen Campbell)のカバーで知られたジョン・ハートフォードの“ジェントル・オン・マイ・マインド”について話しているのを聞いた。

ハートフォードはかつて、放浪者と彼の失われた愛を描いたこの曲を“言葉の映画”と表現した。グレン・キャンベルはそれを“人生に関するエッセイ”と呼び、その情景描写に“圧倒”されたと述べた。メイヤーがラジオで説明したように、 “私の心に心地よく(gentle on my mind)”という美しいフレーズは、完璧な愛を表している。それは愛であり、憧れであるが、一緒にいられなくなっても、それを持っていなくても痛みを伴わず、どこかにあると知っていることで慰められる愛である。存在を知っているだけでいいのだ。

ふたりの愛についてこれほど雄弁に語られているものを時計に落とし込むのは、こうしたことにこだわる人にとっても、少し極端な気がする。時計愛好家は、それなりに(ときに奇妙な)情熱的な人々のため、この曲は、私がヴィンテージとモダン問わずRO QPについて感じてきたことに、少なからず真実味を帯びていると認めざるを得ない。

何年ものあいだ、私はロイヤル オークを、現代におけるパーペチュアルカレンダーの頂点であり、美しく見やすい表示と素晴らしい時計製造の系譜を持つ、前衛的でアイコン化されたジェンタのデザインであると長年考えていた(そのすべてについては後ほど説明する)。また時計収集の旅において、オーデマ ピゲが終着点だと思っている人も多いだろう(ほとんど知られていないグランドコンプリケーション、そしてCODE 11.59 RD#4を除いては)。直接手に入れることができなくても、彼らの製品について情報を得たり、感動したりすることができる。そして私は、オーデマ ピゲの時計との自身の絆や繋がりがわかるような時計が1本欲しい。もちろんそれを想像するのはいいことだが、それは“遠くから見る”だけのちょっとした恋心であった。

AP Grande Complication
ドバイで見つけたオーデマ ピゲ ロイヤル オーク グランドコンプリケーション。

 この時計が私の心にどれだけ優しくのしかかるのか、まだわからない。そしてこれが私の予算には収まらないこと、また今後20年分の予算にも含まれないという事実を受け入れた。ただ、ほかのほとんどのQPは羨望の的であり、時間をかけて徐々に魅力を感じさせるのに対し、このモデルはそれらとは異なる。これはメイヤーの時計に対する情熱とオーデマ ピゲに対する情熱の結晶であるだけでなく、私の時計遍歴のなかでも、忘れられない瞬間になるだろう。私が中学生のときギターを手にしたのは、叔父、ジェームス・テイラー(James Taylor)、そしてジョン・メイヤーの3人のおかげだ。実際、子どもの頃にかっこいいと思った時計を探す人がいるように、私は今でもメイヤーオリジナルのマーティン・シグネチャーギターを探している。そして祖父が始めた腕時計趣味に戻ったのは、ベン(・クライマー)、ジョン、そしてHODINKEEのおかげだった。そしてブランドの歴史とコレクターコミュニティの願い(with immense gratitude and appreciation)を裏蓋に凝縮した、ベンの初となる限定モデルが誕生した。 

John Mayer AP Perpetual Calendar
 彼の時計が世界に発信された夜、ジョンと私は、彼とオーデマ ピゲとの歴史についてたくさん話をした。私にとって、最初に“ピン”と来たオーデマ ピゲ RO QPは、2016年頃に彼の手首に巻かれていたローズゴールド製のブルーダイヤル(Ref.26574OR)バージョンを見たときである。そしてそれは彼にとってもピンと来た瞬間だったようだ。彼の時計はナンバリングされていて、それは最初の100本のうちの1本だった。そしてほかの顧客と同じように、ニューヨークのブティックで自分で手に入れている。

AP Perpetual Calendars
2015年に更新された41mmモデルのラインナップについて、ベンが報じたロイヤル オーク QPは、左の26574ORを含めて3種類。金無垢でグリーンダイヤルのデイトナではなく、これこそが真の“ジョン・メイヤー”だったと主張したい…今日までは。

 彼の初オーデマ ピゲはこれではなかった。メイヤーは2014年に最も身につけた時計記事で、15202をつけていたことを思い出させてくれた。しかし、彼の情熱はどのようなものであれ、すぐに深みにはまる性質だ。2016年には、オーデマ ピゲ ロイヤル オーク コンセプト GMTトゥールビヨンを最も身につけた時計として発表している。デッド・アンド・カンパニーのステージでつけていたが、知らない人は高級時計だとは思わなかっただろう。完璧な選択である。

 2017年、ジョンはオーデマ ピゲがブラックセラミック製のRO QPで業界をリセットし、ブランドが新しい黄金時代に入ったことに気づいたと語った。これはオーデマ ピゲがピークを迎え、彼らができるとは思ってもみなかったことをやってのけた瞬間だったが、もちろんこれまで何度もその瞬間を成し遂げている。人々はケースの形にこだわるが、中身を見ようとしていないのだ。その後、RD#1はロイヤル オークのスーパーソヌリ(メイヤーが身につけているのが目撃されている。ミュージシャンと鳴り物時計との親和性は高い)に発展し、そしてその先へと続いていった。

 ときが経ち、彼の情熱が高まるにつれて、メイヤーはブランドの友人からアンバサダーとなり、そして新しく“クリエイティブコンジット”という正式な肩書きを持つようになった。彼はこの新しい役割を、コレクターとブランドの架け橋になることだと説明する。つまり、両方の世界に足を踏み入れ、顧客としての地位を維持しながら(実際に欲しい時計を購入する)、ブランド内で密接なつながりを持つという立ち位置だ。これにより、彼は自分が情熱を注いでいる(そして情報を得ている)時計のストーリーを、コレクターのコミュニティに共有し、彼らのフィードバックを自分自身が顧客としてブランドに返すことができるのだ。

 その役割をとおして、最終的にメイヤーが究極のRO QPをデザインしても驚くに値しない。私たちはエド・シーラン(Ed Sheeran)のユニークなロイヤル オーク QPを見てきたし、トラヴィス・スコット(Travis Scott)は昨年の秋に魅力的かつクリエイティブな(そして賛否両論ある)RO QPをリリースしている。どちらも超クールな時計だが、こちらのほうがはるかに強烈だ。ジョン・ハートフォードの言葉を借りると、これは“心地よく”感じられる時計ではない。しかしこの時計は、大胆でも派手でもなく、ソフトなタッチでデザインされ、常にコレクションに加わる可能性を感じさせる。これは明白に“ジョン・メイヤーとのコラボモデル”だが、“カクタスジャック”モデルとは異なり、彼の名前はどこにも書かれていない。結局のところ、ジョンがブランドに対して抱いている(プロモーションといった)異なる種類の経験を物語っているのだ。

John Mayer Audemars Piguet Perpetual Calendar Royal Oak
 メイヤーが独自のデザイン案を当時のオーデマ ピゲのCEOフランソワ-アンリ・ベナミアス(François-Henry Bennahmias)に提出したあと、ベナミアスは別の案を出した。“その代わり、限定版を作ったらどうだろう?” それは多くの意味で完璧な選択肢であり、何かが世に出るという不安から、自分自身を疑問視するプレッシャーを感じることなく、アイデアが生まれたからである。それでも、元のアイデアは彼が最も欲しがった時計だった。文字盤が光と戯れるようなコズミックなファセットで、何時間でも楽しむことができるパーペチュアルカレンダーのロイヤル オークであり、彼が最も望んでいた時計であることに変わりはなかった。

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 基本的には近年のRO QPと同じスペックだ。18KWG製ケースは、41mm径×9.5mm厚という快適なサイズであり、シースルーバックと20mの防水性、またQPに必要な機能をすべて備えている(そして私が個人的に使わない機能として、週表示機能がある)。Cal.5134ムーブメントのパワーリザーブは約40時間しかないが、時刻調整したくないからワインダーに付けたいだろう。時計の裏にはシリアルナンバーがついている。しかし文字盤の創造性に比べると微々たるディテールだ。

John Mayer Audemars Piguet Perpetual Calendar Royal Oak
 新しい時計と、以前オーデマ ピゲにあったトスカーナ文字盤とのつながりに気付いた。音楽ファンが言いたいように、これらの時計はある種深みがある。珍しいロイヤル オーク(それとほかのいくつかの時計およびほぼすべてのQP)に見られる鎚目文字盤を指す“トスカーナ”という用語は、オーデマ ピゲの社内で公式に言及されたことはなかった。これはトスカーナの夜空に思いを馳せた、イタリア人コレクターがつけたニックネームだと噂されている(それ以外に誰かいるだろうか)。残念なことに、初期の鎚目仕上げは必ずしも最高の見栄えとは言えず、プラスチックのような見た目の質感になりがちだった。オーデマ ピゲが昨年この文字盤を復活させたとき、同社はまたしてもプレス資料に“トスカーナ”の名前を出さなかった(この事実について今週口にしたとき、ある幹部は苦笑いを浮かべていた)。それから製造技術の向上により、ほぼ完成したと思っていた。それは“知る人ぞ知る”リリースであり、ブランドの歴史を真に愛する人々へ敬意を表したものだった。

AP Tuscan
オーデマ ピゲ 25654PT、鎚目仕上げの“トスカーナダイヤル”。

 現行のRO QPリファレンスのなかで私が好きなディテールのひとつは、NASAの画像から作られた写実的な月を持つアベンチュリン製ムーンフェイズだ。もし私がその時計を所有していたら、顔に近づけてアベンチュリンの“星々”を何時間でも見つめていただろうと、数え切れないほど人に話してきた。アベンチュリンダイヤルのCODE 11.59 QPは、そのアイデアを採用、さらに最大限まで発展させた。

Audemars Piguet Code 11.59 Perpetual Calendar with aventurine dial.
オーデマ ピゲ CODE 11.59 パーペチュアルカレンダー アベンチュリンダイヤル。

Audemars Piguet Code 11.59 Perpetual Calendar with aventurine dial
全面アベンチュリン製であるCODE 11.59は、ムーンフェイズの空の美しさを堪能するのは難しい。確かに素晴らしいが、ロイヤル オークのムーンフェイズと同じ体験はできない。

興味深い文字盤の質感を保ちつつ、ムーンフェイズがその存在感を発揮している。

 新しいクリスタルスカイ文字盤は、オーデマ ピゲがこれまでに行ってきたこと、そして今後行う可能性のあることすべてに時間をかけて検討し、その真ん中へ着地しようとデザインされた文字盤である。これはオーデマ ピゲの新しいモチーフだ。真鍮の文字盤板は電鋳金型によってプレスされ、意図したダイヤル設計の裏側を原子ごとに組み立てることで、高い精度と細部までのディテールを実現している。その後、文字盤は深いブルーPVDコーティングが施される。

 特定の光の下では、オリジナルのトスカーナダイヤルQPに似た効果を発揮し、インダイヤルがより明るく、目を引き、ギヨシェ模様が際立ち、視認性を高める一方で、文字盤は光の斑点が舞うダークブルーにフェードアウトする。より直接的な光の下では、時計が動くたびに信じられないほどシフトし、何日眺めていても、そのたびに違った表情を見せてくれる。そして電鋳プレスによって、まるでアメジストのジオードの内部のような結晶構造を作り出している。ほかにもちょっとした工夫がされていて、例えば“31”の日付はほかのRO QPのように、赤く塗られているのではなく2段にオフセットされ、月初めの“1”と視覚的にわけられている。さらに週を示す針は水色で、必要なときにのみ目立つように設計され、ほとんどの場面では視界から消える。これらはすべてメイヤーの頭のなかにあるもので、時計を最もエレガントな形に絞り込もうとした結果である。

ルイ・ヴィトン 3本の新作でハイエンドな時計製造技術を披露

クラフトマンシップと高度な時計製造技術が融合した、LVによる3本のハイウォッチメイキングピースが誕生した。

ルイ・ヴィトンは新作のフライング トゥールビヨンに加えて、ジュネーブにあるラ・ファブリク・デュ・タンで製造した超高級時計の数々を発表した。いずれも8桁を超える価格だが、いずれも世界最大のラグジュアリーブランド以外ではなかなかお目にかかれない、クラフトマンシップと高度な時計製造技術の融合が存分に発揮されている。それでは見てみよう。

タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ サファイア フランク・ゲーリー

初のハイウォッチメイキングピースのために、LVは建築家であり長年の共同研究者であるフランク・ゲーリー(Frank Gehry)氏と協力して、サファイア製フライング トゥールビヨンを開発した(ジュネーブ・シール認定も取得済み)。約100万ドルするこの限定5点のために、ゲーリー氏は過去の建築物からインスピレーションを得たアイデアをルイ・ヴィトンのためにデザインし、ケースと文字盤には2022年のタンブール ムーン サファイアを採用した。ケース、ラグ、文字盤、リューズにサファイアを用い、またスケルトナイズされたローズゴールド製ムーブメントと相まって、結果的に軽快な雰囲気を醸し出す。サファイアダイヤルは手作業でポリッシュ仕上げされているが、5本しか作らないならそのほうがいいだろう。

このムーブメントは、ジュネーブ郊外にあるLVの工房、ラ・ファブリク・デュ・タンの魔法使いたちが製造している。同ムーブメントの特徴は1分に1回転するフライングトゥールビヨンを搭載すること、そしてジュネーブ・シール認定を受けているところだ。

単に時間を表示するだけでなく、着用者の手首にフィットするような構造である。サファイアとスケルトンはゲーリーの美学とマッチした現代的な雰囲気を醸し出していて、カルペ・ディエムのようなものに比べると新鮮に感じるだろう。

ルイ・ヴィトン タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ サファイア フランク・ゲーリー。サファイア製ケース、直径43.8mm、厚さ11.27mm。ハンドポリッシュ仕上げのサファイア製文字盤、サファイア製針、サファイア製リューズ、サファイア製ラグ。Cal.LFTMM05.01、160個の部品から成るスケルトナイズドフライングトゥールビヨン、ジュネーブ・シール取得。約80時間パワーリザーブ、2万1600振動/時。世界限定5本。メーカー希望小売価格は93万5000ドル(日本円で約1億3785万円)。

エスカル キャビネット オブ ワンダーズ

ドラゴンクラウド。

コイガーデン。

続いて、ルイ・ヴィトンはエスカルシリーズの新トリオを発表した。それぞれの限定モデルは、20世紀の長きにわたって率いたガストン-ルイ・ヴィトン(Gaston-Louis Vuitton)のコレクションからインスピレーションを得ている。エスカル キャビネット オブ ワンダーズは、①コイガーデン、②ドラゴンクラウド、③スネークジャングルの3種類で展開する。いずれも20本限定で、希望小売価格は26万9000ドル(日本円で約3965万円)だ。それぞれ異なる文字盤をつくるために、さまざまな職人技と芸術的技術を駆使している。

スネークジャングル。

なかでも“スネークジャングル”は傑出していると思う。ジャングルの情景を表現するために、さまざまな木材、羊皮紙、藁を使用してそれらをすべて手作業でカットし、組み立てているのだ。このダイヤルは全部で267個ものパーツを組み合わせて作り上げているが、特筆すべきはそれだけではない。文字盤を横切るスネークもまた、マイクロ彫刻、エングレービング、シャンルヴェ エナメルを組み合わせて立体的になっているのだ。

ブランドはこの3本の新しいエスカルウォッチを、リニューアルしたエスカルコレクションの第1弾であると発表している。ミドルケースまで伸びる、手作業で研磨されたラグは、ルイ・ヴィトンの伝統的なトランクのブラケット(金具)を連想させるなど、ケースデザインのなかでも際立っている。エスカル キャビネット オブ ワンダーズコレクションのモデルはすべて40mm径の金無垢ケースで、内部にはCal.LFT023を採用する。Cal.LFT023は、約50時間パワーリザーブ、2万8800振動/時で時を刻む自動巻きムーブメントだ。

ルイ・ヴィトン エスカル キャビネット オブ ワンダーズ。①コイガーデン(ブルー)、②ドラゴンクラウド(レッド)、③スネークジャングル(グリーン)。それぞれ異なるメティエダール(芸術的な手仕事)の文字盤が特徴で、さまざまな職人技を用いている。例えば“スネークジャングル”は木材、藁、羊皮紙から作られた文字盤を(寄木細工師の)ローズ・サヌイユが手作業で組み立て、そこに(エングレーバーの)エディ・ジャケが手彫りでゴールドスネークと葉を、(エナメル職人の)ヴァネッサ・レッチはシャンルヴェ エナメルを施している。“スネークジャングル”はホワイトゴールド製ケース(40mm径)にエングレービングベゼルと翡翠のリューズを採用。新作のエスカル キャビネット オブ ワンダーズにはすべて、自動巻きCal.LFT023を搭載。世界限定各20本。スネークジャングルのメーカー希望小売価格は26万9000ドル(日本円で約3965万円)。

タンブール スリム ヴィヴィエンヌ ジャンピングアワー サクラ&アストロノート
最後にルイ・ヴィトンはタンブール ジャンピングアワーの新作、“サクラ”と“アストロノート”を発表した。ルイ・ヴィトンはちょっとしたミステリアスな演出として、2017年に誕生したキャラクター、ヴィヴィエンヌを“マスコット”にしたという。そこでタンブール ジャンピングアワーの新作では、そのマスコットをふたつの遊び心あふれるモチーフで表現。ひとつ目のサクラは、日本の桜からインスピレーションを得ており、文字盤に花やモノグラム、ピンクのマザー オブ パール(MOP)をあしらっている。ふたつ目のアストロノートは小さなヴィヴィを、いくつかの惑星が描かれた青いMOPアベンチュリン文字盤(宇宙)に送り出し、さらに彼女の周りにはダイヤモンドがひたすら軌道を周回している。

サクラの文字盤をハンドペイントする様子。

いずれもダイヤモンドをセットした38mm径のホワイトゴールド製ケースに、ヴィヴィエンヌが収められている。またLFdT(ラ・ファブリク・デュ・タン)が開発・組み立てたジャンピングアワー機構のCal.LV180は、ふたつの小窓で時間を示す。これらのジャンピングアワーウォッチは、LVの工芸と高級時計製造という専門知識を融合させ、LVらしい印象的なモデルとして表現している。

ルイ・ヴィトン タンブール スリム ヴィヴィエンヌ ジャンピングアワー サクラ&アストロノート。ホワイトゴールド製ケース、直径38mm、厚さ12.2mm。ケースにはブリリアントカットダイヤモンドと、ローズカットダイヤモンド(0.2カラット)をあしらい、ダイヤモンドは合計で3.8カラット以上。メーカー希望小売価格は11万8000ドル(日本円で約1740万円)。

コンクエストなど、魅力的な時計を幅広く取り揃えた。

伝説的なパテック フィリップのリファレンス1518から、トロピカルな文字盤を持つロレックスの金無垢サブマリーナーまで、魅力的な時計を幅広く取り揃えた。またイエローゴールド(メッキではない!)ケースのブライトリング トップタイムや、パワーリザーブインジケーターを搭載したロンジン コンクエストなど、あまり見かけないモデルもある。

ロレックス サブマリーナー Ref.1680/8、トロピカルダイヤル
YGのロレックス サブマリーナーは、アメリカ発のテレビドラマ『マイアミ・バイス』らしさがある(番組内のドン・ジョンソンは、実際はデイデイトを着用していたが)。文字盤がトロピカルになっていて、ゴールドの輝きとよく合っている。当時の非ステンレススティール製サブマリーナーで見られるインデックスの特殊な形状にちなんで、こちらのRef.1680/8には“ニップル”ダイヤルを採用している。ケースは分厚く、オリジナルのブレスレットもしっかりとしていると説明があり、時計には元の購入レシートも付属している(当時の価格が気になるところだ)。裏蓋の刻印を見ると、もともとは軍人のロバート・シッソン(Robert Sisson)中佐が購入したもののようだった。Googleで検索をすると、シッソン中佐は2009年に亡くなり、ベトナムでの任務を含む22年間の勤務のあと、1985年に退役していた。

パテック フィリップ Ref.1518、パーペチュアルカレンダー ムーンフェイズ クロノグラフ
“パテック フィリップのパーペチュアルカレンダークロノグラフは、時計収集の世界でほかに類を見ないほどの王道的な遺産を築き上げている”。この言葉は、ベンがこの素晴らしいパテックについて書いたReference Points記事から引用したものだ。そしてこの系譜は、1941年に連続生産された初のパーペチュアルカレンダークロノグラフであるリファレンス1518から始まる。このリファレンスは10年あまりにわたって提供され、合計281本が販売された。いま見ているのは、文字盤からわかるように1950年代初頭の後期モデルである。というのも、1948年に“&Co”の表記がパテック フィリップによって外されており、いわゆる“ショートサイン”が表記されているのだ。とはいえ、1518の真に重要なのはその美しさである。すべての機能がエレガントな35mm径ケースに完璧に収められ、ムーンフェイズも素晴らしい。この時計は私にとって最高の逸品だし、これまでに製造された時計のなかで、最もエレガントなコンプリケーションウォッチだと思っている。特にアラビア数字が植字されたこのバージョンは素晴らしい。

ホイヤー オータヴィア “エキゾチック” Ref.1563
このオータヴィアのオレンジの配色は、このRef.1563が1970年代のものではないかと疑わせるかもしれないが、そのとおりである。これはホイヤーが1960年代の終わりに、オータヴィアに導入した自動巻きクロノグラフムーブメントからも推測することができる。しかし、このオータヴィアの文字盤はほかのホイヤーとは完全に一線を画している。このモデルは、ユニークな段差のあるハッシュマークを備えていることから“エキゾチック”というニックネームで呼ばれている。さらに今見ている個体はミュージアムに収蔵できるレベルのコンディションを保ち、トリチウムのインデックスには美しいパティーナがあり、この時代のホイヤーでは非常に見つけにくいカミソリのように鋭いケースを備えている。

ロンジン コンクエスト パワーリザーブ
このロンジン コンクエストの文字盤は魅力にあふれている。シルバーの仕上げもとても素晴らしいが、それ以上に重要なのは、非常にスマートな方法でふたつのコンプリケーションを表示しているところだ。まず、12時位置に日付があるが、これは通常の3時配置とは異なり、ダイヤルの対称性を乱すことはない。第2に、時計の針が完全に止まるのを防ぐために、時計を再び着用するタイミングを知らせてくれる、回転式のディスク型パワーリザーブインジケーターが中央に鎮座している。このコンクエストは自動巻きムーブメントを搭載しているため、注意していれば手で巻く必要はない。見たところローレット加工されたリューズはオリジナルではなく、ほかのコンクエストで見られるように、このフォーラムにあるものや、ここで見つけたほかのRef.9035に類似した、ロンジンのサイン入りリューズがオリジナルだと思われる。

ブライトリング トップタイム Ref.2004、ソリッドゴールドケース
ブライトリング トップタイムは私のお気に入りのクロノグラフのひとつで、ジェームズ・ボンドとのつながりがあるにもかかわらず、しばしば見過ごされている(『サンダーボール』でボンドが使っていたガイガーカウンターウォッチは、Qによって改良されたトップタイムだ)。トップタイムコレクションはキャッチーなデザインと、ロレックスとホイヤーが同時期に打ち出したモータースポーツ(タキメーターを含む)の世界を連想させる外観によって、ブライトリングをより若いユーザーにアピールすることを目的としていた。防水性を高めたモノブロックケースのリファレンスもあれば、裏蓋が取り外し可能なクラシックなケースもある。私が思うトップタイムの魅力はその特別な逆パンダ文字盤にある。インダイヤルはこの時期のホイヤー カレラに見られるオールホワイトではなく、シルバーになっている。とはいえRef.2000と2003を筆頭に、市場で見つけることができるトップタイムのほとんどはゴールドメッキだ。しかし、このRef.2004の裏蓋には、18Kゴールド製ケースだという表記が誇らしげに刻印されている。

伝説のCal.135を搭載した、ゼニス クロノメーター
このゼニスは間違いなく、これまでに生産されたなかで最高の手巻きモデルのひとつだ。大胆な発言? そう思うかもしれないが、このCal.135は1950年以降、ヌーシャテルのクロノメーター検定で5回連続で優勝したほど、非常に精度が高いと称賛されたものだ。このキャリバーを見ると困惑することだろう。明確な目的を持った、見事なまでのシンプルさを実現しているからだ。Cal.135は、最高精度を目指してつくられたキャリバーだ。このムーブメントは、非常に大きなテンプ、調整機構、ブレゲひげゼンマイを備えた、直径が大きいムーブメント(仕様では約30mm弱)である。これは、オメガの30T2RGクロノメーターキャリバーと、同じムーブメント設計哲学を反映している。この種のクロノメーター級のムーブメントは、連続生産された天文台用競技ムーブメントのなかで最高の進化形であり、一般的にはここで見られるように、非常に控えめではあるが超高品質なケースに収められる。

文字盤は驚くほどバランスがとれていて、大きなスモールセコンドレジスター(ムーブメントのクロノメーター性能を評価するのに適している)と鋭いインデックスのおかげで、ドーフィン針と驚くほどバランスが取れている。

このゼニス クロノメーターは、Dr.Crott Auctioneersによって提供される。こちらのリストに記載されているように、エスティメートは3300ユーロから5000ユーロ(当時の相場で約41万~62万円)であり、率直に言って、これほど素晴らしく傑出した時計としてはお買い得である(編注:結果5400ユーロ、当時の相場で約67万円にて落札)。

A.ランゲ&ゾーネ ダトグラフ・アップ/ダウン 25周年限定モデル。

ダトグラフの誕生25周年を記念した、ホワイトゴールド製限定モデル。

1999年に発表されたダトグラフはランゲ初のクロノグラフであり、以来、このモデルはランゲにおいてもっとも印象的なウォッチメイキングのプラットフォームとなっている。今回、Watches & Wonders 2024、そしてダトグラフ誕生25周年を記念して、ランゲはホワイトゴールドケースにブルーの文字盤を収めた限定モデルを発表した。わずか125本しか製造されないこのダトグラフは、パワーリザーブを備え、ダトグラフ・アップ/ダウンの現行コレクションにはないケース素材とダイヤルカラーの両方を提供する。

ランゲの30周年記念の一端を成すこの限定ダトグラフ(Ref.405.028)は、現行モデル(プラチナまたはピンクゴールド製、いずれもブラック文字盤)のフォーマットを踏襲している。2018年に200本限定モデルとして発表されたダトグラフ・アップ/ダウン“ルーメン”と同様に、このブルーダイヤルモデルも魅力的なフォーマットを採用した特別な新作として発表された。幅41mm、厚さ13.1mmのRef.405.028は、中央の時分針による時刻表示に加えて、フライバッククロノグラフ、1分ごとにジャンプする経過分表示、2桁のアウトサイズ日付表示、パワーリザーブインジケーターを備えている。操作系では、従来型のリューズ、クロノグラフ用のふたつのプッシャー、そして日付表示のクイックセット用の調整機構が設けられている。

これらの機能はすべて、ランゲの手巻きムーブメント L951.6に組み込まれている。このムーブメントは、2012年のダトグラフ アップ/ダウンのために開発されたものだ(当時の記事はこちら)。約451個の部品で構成されるCal.L951.6は1万8000振動/時で時を刻み、60時間のパワーリザーブを備えている。これはランゲのなかでも特別なムーブメントであり、その大部分はジャーマンシルバー製で、ひとつひとつの部品は(手彫りのテンプ受けにいたるまで)手作業で美しく仕上げられている。

この150本限定のホワイトゴールド製ダトグラフは、まさにランゲコレクターに向けられた特別なモデルだ。そのため、現在ランゲのウェブサイトに掲載されているダトグラフ・アップ/ダウン同様に、価格情報は公開されていない。ランゲに聞いてみたところ、詳しい情報については最寄りの販売店に問い合わせて欲しいとのことだった。

我々の考え
すでにランゲは、ダトグラフ・アップ/ダウンでルーメンという切り札を切っている。そのことを踏まえると、この控えめなブルーダイヤルの時計は、ダトグラフの25回目の誕生日をブランドからのスペシャルな限定モデルで迎えたいというファンに素晴らしい選択肢を提供するためのものなのだろうと思う。確かに話題性という意味では、いまひとつかもしれないが、ホワイトゴールドとブルーのダイヤルはこのダトグラフにとてもよく似合っている。また、その対称的なダイヤルデザインが印象的なこのモデルをじっくりと眺める時間は、いつだって楽しいものだ。

発売から25年が経ったいま、ダトグラフが(ランゲにとっても高級時計のコレクターにとっても)これほどまでに特別な作品である理由がわからないというなら、2020年にコール・ペニントンがHODINKEEに寄稿したこのモデルに関する素晴らしいIn-Depth記事を読むことをおすすめする。ダトグラフはランゲのなかでも特別かつ特異なタッチポイントであり続けており、まだ若いブランドであるランゲをコレクター心をくすぐる格別な存在へと押し上げている。A.ランゲ&ゾーネが30歳の誕生日を迎えるにあたり、ダトグラフと過去25年間にわたるブランドの歩みに敬意を表そうとするのは当然のことだろう。

基本情報
ブランド: A.ランゲ&ゾーネ(A. Lange & Söhne)
モデル名: ダトグラフ・アップ/ダウン 限定モデル(Datograph Up/Down Limited Edition)
型番: 405.028

直径: 41mm
厚さ: 13.1mm
ケース素材: ホワイトゴールド
文字盤色: ブルー
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ブルーのアリゲーターストラップと18Kホワイトゴールドのピンバックル

ムーブメント情報
キャリバー: ランゲ製L951.6
機能: 時・分表示、スモールセコンド、センターフライバックセコンド付きクロノグラフ、ジャンピングミニッツ、パワーリザーブ表示、グランドデイト表示
直径: 30.6mm
厚さ: 7.9mm
パワーリザーブ: 60時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 1万8000振動/時(2.5 Hz)
石数: 46

オメガ ミュージアムでブランドの175年以上の輝かしい歴史と未来を感じる。

オメガ ミュージアムは、ジュラ山脈の麓に位置するスイス北西部のビール/ビエンヌにあります。都市の名が二通りで表記されることからもわかる通り、ドイツ語とフランス語の2ヵ国語が公用語として定められている、言語の境界線に位置する都市です。この街の中心にある日本人建築家の坂茂氏が手掛けた印象的な外観のシテ・デュ・タン(フランス語で“時の都”を意味するCité du Temps)には、スウォッチ・グループの拠点があります。

オメガ ミュージアムは、1848年から現在にわたるブランドの歴史と革新を体験できる場所です。2019年に現在の形でオープンしました。オリンピックや宇宙計画などの大きなプロジェクトのために開発されたモデルはもちろん、著名人に愛された品などさまざまな時計が展示されています。

ミュージアムには体験型の展示もいくつかあり、時計愛好家やオメガファンだけでなく、歴史や技術に興味があるすべての人が楽しめる場所となっています。館内に設置された9mのランニングトラックを走ってタイムを計測しオメガの公式タイムキーパーとしての役割を体験したり、アポロ13号が地球に生還する鍵を握ることとなった14秒を正確に計測するゲームなどがあります。ここからは僕が個人的に大好きな展示品をいくつかご紹介します。

防水ウォッチ、マリーン

世界で初めて市販されたダイバーズウォッチ。

1932年に商業化された世界初のダイバーズウォッチとして登場したマリーン。特許を取得したダブルケースは、コルクで密閉しロックする構造で、時計内部に水やホコリが侵入するのを防ぎました。ダイバーズ・エクステンションと呼ばれる伸縮可能なクラスプが導入されていたことも特徴のひとつです。ミュージアム内には複数のバリエーションがあり、後に登場した復刻モデルも展示されています。

オフィシャルタイムキーパー

オメガは、1932年のロサンゼルス大会で、史上初めて単一の時計メーカーがオリンピックのオフシャルタイムキーパーとして選ばれることとなります。同大会にはたったひとりの時計技師と30個のCal.1130 ストップウォッチが提供されました。オメガの高精度のストップウォッチが導入されたことで、10分の1秒単位での計測が可能となったため、この大会からラップタイムも同じ10分の1秒単位で測定されるようになりました。今日では100万分の1秒単位までの計測が可能となっており、その技術は現在も進歩し続けています。

クロワゾネダイヤルを備えたシーマスター Ref. OT 2520

これはミュージアムに展示される数あるシーマスターのなかで個人的に最も気に入ったモデルです。直径34mmのケースは18Kゴールド製で、ダイヤルにはくさび形のインデックスと中央にローマ神話の海の神ネプチューン(ポセイドン)と2頭のシーホースがクロワゾネで描かれたもの。こうしたクロワゾネダイヤルのシーマスターは、1946年から1956年にかけてごくわずかだけ生産された非常に希少なものとなっています。多くの場合は顧客からの特別な注文で作られたそうです。

ジョン・F・ケネディのスリムライン ウォッチ Ref.OT3980

これはジョン・F・ケネディが大統領就任式の際に着用していたスリムライン ウォッチと呼ばれる時計です。ケネディの友人のグラント・ストックデールから大統領選の前に贈られたものでした。ケネディが受け取ったときからすでにケースバックには「アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディ、友人のグラントより」(President of the United States John F. Kennedy from Friend Grant)と刻印されていました。このときの大統領選挙はリチャード・ニクソンと争ったアメリカ史上最も接戦となった選挙でしたが、数ヵ月後にこの言葉が現実のものとなりました。大統領の腕時計、いわゆるプレジデントウォッチは他のブランドのものも含めていくつか存在しますが、個人的にはバックストーリーも含めてこれが一番お気に入りです。

月で着用された最初の腕時計、スピードマスター

1969年7月21日2時56分(GMT)、アポロ11号で初めて人類が月面を歩いた瞬間です。宇宙空間での船外活動(EVA)に耐える腕時計としてNASAによって唯一認定を受けていたのがこのスピードマスターで、人類初の月面着陸を支えたというのはあまりにも有名な話です。ミュージアム内にはトリロジーのスピードマスターから(残念ながら当日は不在)アラスカプロジェクトなどのプロトタイプやスピードマスターのロゴが描かれた計器を乗せたLRV (月面車)も展示されています。