ゼニスのデファイ スカイラインコレクションに追加された新色は、

昨年はゼニス デファイ スカイラインのラインナップにとって飛躍の年であった。1月には、新しいデファイ スカイライン スケルトンが登場し、ステンレススティールケースに収められたオープンワークのブルーまたはブラックダイヤル(およびセミスケルトンムーブメント)が追加された。最終的にその新しいスケルトン仕様は、交換可能なブレスレットを備えたブラックセラミックケースでも登場した。ゼニスのデザインロードマップを知っている人ならこの新しいリリースを予測できたかもしれない。それでも、新しいホワイトセラミックのデファイ スカイライン スケルトンは非常に魅力的である。

ホワイトセラミックケースのサイズは41mm、厚さは12.2mmで、交換可能なホワイトストラップが付属する。鮮やかなホワイトに対してブルートーンのオープンワークダイヤルをあしらい、セミスケルトンの自動巻きムーブメントであるエル・プリメロ3620が映える。3万6000振動/時のハイビートムーブメントを搭載しているため、6時位置の秒針は10分の1秒計という高速カウンターとして機能する。また同キャリバーは約55時間のパワーリザーブを持つ。ブランドによれば、この時計は“少量のみ”販売されるが、限定版ではなく、価格は昨年のブラックセラミックバージョンと同じ231万円(税込)である。

我々の考え
231万円(税込)は決して手ごろな価格ではないが、やや手の届きやすいホワイトセラミックの選択肢が市場に登場したことは楽しい。説明しよう。ホワイトセラミックの一体型ブレスレットウォッチと言えば、私の頭に浮かぶのは3つの選択肢だ。王者はオーデマ ピゲのロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーで、中古市場では30万ドル(日本円で約4845万円)の範囲にある。また700万円以上する34mmのロイヤル オークもある。さらにウブロのビッグ・バンは345万4000円(税込)だ。少なくとも価格面では、このオプションはほかの選択肢を凌駕していると言える。

比較検討しない場合でも、この時計は夏の選択肢としても非常に楽しそうだ。“ホワイトセラミックマン”になることを想像させるのは素晴らしいが、私には少し派手すぎるかもしれない。この時計についてはすでに素材違いで取り上げた記事があるのでそちらをご覧いただきたいが、このムーブメントを見た際、本当に“スケルトン”ウォッチと呼ぶのに十分スケルトナイズされているかどうかはまだ確信が持てない。このような時計で内角(ムーブメントの複雑さや美しさを示す要素のひとつ)が不足していることに文句を言うほど愚かではない。このオープンワークダイヤルは大きな効果を生み出しているが、ほかのスケルトンウォッチほど下地は見えない。それでも、この価格帯で可能な限りムーブメントを削っているのだろう。細かい言葉の違いはさておき、見た目が美しい時計であることは間違いない。

基本情報
ブランド: ゼニス(Zenith)
モデル名: デファイ スカイライン スケルトン ホワイトセラミック(Defy Skyline White Ceramic Skeleton)
型番: 49.9301.3620/79.I001

直径: 41mm
厚さ: 12.2mm
ケース素材: ホワイトセラミック
文字盤: ブルートーンのオープンワーク
インデックス: ファセットを施したロジウムメッキ(夜光塗料あり)
夜光: あり、スーパールミノバSLN C1
防水性能: 10気圧
ストラップ/ブレスレット: ホワイトのセラミック製ブレスレットとフォールディングクラスプ、星型模様を施したホワイトラバーストラップとフォールディングクラスプが付属

El Primero Skeleton
ムーブメント情報
キャリバー: エル・プリメロ 3620 SK
機能: 時・分表示、6時位置に10分の1秒計
パワーリザーブ: 約55時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 3万6000振動/時

価格 & 発売時期
価格: 231万円(税込)
発売時期: ゼニスブティック、オンラインショップ、正規販売店にて“少量入荷”中

1970年代の珍しいパテック フィリップ、“エキゾチック”なユニバーサル・ジュネーブ、そしてスキー大会で贈呈された40年代のクロノグラフ

今週のテーマは珍しくて独特なものだ。希少で滅多に見かけない、数が少ないものばかりを集めた。ロレックスにインスパイアされたと思われる100本限定のヴァシュロン・コンスタンタンや、数本しか存在しないステンレススティールのパテック フィリップなど、個性を際立たせたいならお任せあれ。

もう少し複雑なものが望みなら、とてもレアなユニバーサル・ジュネーブのコンパックスや、独特なケース構造のレコード クロノグラフがおすすめだ。予算を抑えつつも希少性を求めるなら、限定のポルシェウォッチもある。

ヴァシュロン・コンスタンタン Ref.6782
ヴィンテージウォッチの世界では希少性が過度に強調されることが多いが、実際にはそうでない時計にもこの言葉が使われることがある。希少性という言葉の重みが薄れてしまう一方で、本当にレアな時計を見つけることの興奮や特別さが一層際立つ。最近、クリスティーズの時計部門がそのような個体を発見した。最新のセールカタログを読んでいたら、まさに目を引く逸品が飛び込んできたのだ。それは以前にも取り上げたモデルであったが、こんなに魅力的な構成は初めてだった。

これはヴァシュロン・コンスタンタンのRef.6782で、コレクターからは“ターノグラフ”として親しまれている。シンプルなダイヤルレイアウト、“サンダーバード”スタイルのエンジンターンドベゼルといい、その見た目は有名なロレックスをほうふつとさせるが、批判を招くようなものではない。100本しか製造されなかったこのリファレンスは、商業的な意図によるものとは思えないからだ。むしろデザインの興味深い試みと言えよう。本モデルはヴァシュロンがスポーツウォッチ市場に初めて進出したものであり、ヴァシュロンが低い完成度で回転ベゼルを仕上げるとは考えにくい。

リューズが交換されているかもしれないが、そのほかの部分はとてもキレイで、厚みのあるケースと完璧なダイヤルを備えている。そのふたつの要素だけでもこの希少な時計を購入する理由としては十分だが、さらに魅力的なのはオリジナルのヴァシュロン・コンスタンタン製18Kイエローゴールドのブレスレットが付いていることだ。現存するRef.6782のなかでも、このようなブレスレットがセットされている個体はごくわずかであり、そのなかでもこの特定のブレスレットを注文したものはさらに少ない。この1本を除いて、一体型でないメッシュブレスレットが装着されたものは1本しか見たことがなく、ほかはすべてプレジデントスタイルかストレートエンドリンクのメッシュブレスレットが付いている。

クリスティーズはこの時計をオンラインセールで出品していた。落札価格は2万ドル(当時の相場で約213万円)である。

ユニバーサル・ジュネーブ コンパックス Ref.885.107、1971年製
今日、話題の的になっている時計メーカーが時計業界に与えた影響といえば、それは洗練された時計デザインのなかで色彩が広く受け入れられたことだろう。カラフルな時計は決して目新しいものではないが、過去20年のあいだに高級時計市場で一般的になったことは確かだ。これは称賛に値する。ブラックダイヤルのクロノグラフであふれるなか、変化を楽しむのは歓迎すべきことだ。そこで今週のまとめを続けるために、私のお気に入りのカラフルウォッチをひとつ紹介しよう。

かつて競合していたロレックスのスポーツクロノグラフと同様、ごく少数のコンパックスには、一般的なデザインよりも大胆な色や構成で仕上げられた“エキゾチック”ダイヤルがあった。ユニバーサル・ジュネーブは赤と青のアクセントが特徴のふたつのダイヤルバリエーションを約20本製造し、そのどれもがスポーツコンパックスのコレクターにとって最高峰とされている。本モデルはグレーとシルバーのツートンバージョンで、ブルーのミニッツトラックと同色のベゼルおよびサブダイヤルがアクセントとなっている。UG(ユニバーサル・ジュネーブ)はさらに、5分ごとの目盛りに赤いハッシュマークを配し、視覚的なアクセントを加えた。

この時計が特別なのは、ヘンリー社(Henry & Cie)のブレスレットが付属していること、さらにクラスプやオリジナルのボックスと書類がすべて揃っている点だ。販売しているディーラーを除けば、この時計がシングルオーナーの所有物であったことも大きなポイントである。ヴィンテージ市場では、時計が新たに市場に出回り、無数の人の手に渡っていないことはとても重要だ。というのもオリジナルの部品がすべて残っている可能性が高くなるからだ。アイコニックなスポーツクロノグラフコレクターなら、この時計に注目しないわけにはいかないだろう。

ラウンド・テーブル・ヴィンテージ(Round Table Vintage)は、この素晴らしいフルセットを3万4900ドル(当時の相場で約373万円)でサイトに掲載していた。詳細はこちらから。

ポルシェ 10万キロメートルウォッチ
コラムの熱心な読者と出会うときに、よく尋ねられることがいくつかある。私の個人コレクションはどんなものかと、お気に入りの時計についてだ。自身のお気に入りのリファレンスについて語るのも楽しいが、一番楽しみながら書けるのは、これまでに出合ったことのない時計かつ脳を整理するために数日間のリサーチが必要なものだ。ちょっとしたポルシェ好きとして、黎明期の最も熱心なポルシェドライバーだけに贈られたこの特別な時計に出合えたとき、本当に興奮した。

文字盤に有名自動車メーカーの名前をプリントした、ただの無名時計というナンセンスなものだと決めつける前に裏蓋を見てみてほしい。そこには“100 000 km”と書かれている。調査の結果、この32mmの時計は1950年代後半にポルシェ356のドライバーが、10万kmを走行した際に贈られたものであることが判明した。当時、ポルシェ356は完璧に設計された芸術作品とされながらも、単に優れたドイツ製の自動車として評価されていた時代である。一部には、ポルシェのビジョンに対する彼らの献身に敬意を表し、フェルディナント・ポルシェ(Ferdinand Porsche)自身が書いた手紙とサインを添えてドライバーに贈られたものもある。

さて、問題のコンディションについて触れたい。正直に言って、この時計のコンディションはあまりよくない。ダイヤル周辺にはかなりの使用感があり、修理中にできたと思われる傷もかなり気になる。それにもかかわらず、もしあなたが熱心なポルシェドライバーであり、ブランド愛好家なら、この時計を追い求めることを止めないだろう。過去に販売された例は高額にならなかったが、次に見つかるのがいつになるかは分からないため、気になるならぜひ手に入れて欲しい。

ポルシェの歴史に残るこの時計は、スイス・ローザンヌにあるドグニーオークション(Dogny Auction)にて600スイスフラン(当時の相場で約7万円)で落札された。詳細はこちらから。

パテック フィリップ Ref.3574
1970年代は、パテック フィリップの歴史において非常に興味深く実験的な時代を象徴している。多くの人々はこの時代全体をノーチラスの時代と特徴づけているが、それだけではこの楽しい時代に登場したほかの重要なリファレンスを見過ごしてしまうことになる。特に注目すべきは、パテック フィリップがこの時期に多くのSSケースを製造し始めたことであり、そのうちのいくつかは時代を象徴するスタイリングを特徴としていたことだ。

パテックは1970年にRef.3574を発表し、4年間の生産期間中に約500本のエクストラフラットCal.23-300を乗せた時計を製造した。この時計は市場に出回る頻度が非常に少ないことで知られているが、同時にその個性的な美学でも認知されている。より控えめなモデルではシルバーダイヤルが採用されていたが、カラトラバクロスのエンブレムが施されたダイヤル、ダイヤモンドカット仕上げの針、ホワイトゴールドのインデックスを備えた冒険的なモデルも少数存在する。この時計は後者の特徴を持つが、さらにもうひとつ異なる魅力を備える。それこそダイヤルに隠された切り札だ。

かつて、ブルーダイヤルのリファレンスはほとんど聞いたことがなく、初めてオークションで公開されたときはもしかしたら唯一のものかもしれないとまで考えられていた。その後ほかのも現れたが、ほかの時計と比べて玉数はきわめて少ない。これまでに市場に出回ったのはわずか5本で、そのうち2本は同じものだったと考えられる。このことからも、この時計が非常にエキサイティングであることが分かるだろう。パテック フィリップを愛するコレクターとして、またコレクションの最後の空白を埋めたい人や、伝説的マニュファクチュールから初めての1本を手に入れたい人にとってはまさに理想的な選択である。

モントリオールにあるティリエ タイム(Thillier Time)は、この超希少な時計を1万1750ドル(当時の相場で約125万円)で販売していた。パテック フィリップのSSモデルとしては非常にリーズナブルな価格である。詳細はこちらから。

1944年製、レコード・ジュネーブ クロノグラフ
どれほど素晴らしい製品を世に送り出しても、多くのブランドは時代の流れとともに消えてしまった。このことを知っているからこそ、彼らの歴史や製品に光を当て、その遺産を後世に伝えることが重要になる。多くの人にとってレコードはロンジンの子会社として知られているが、買収される前はスイスの優れた高級時計マニュファクチュールとして独自の地位を築いており、その仕上げのレベルは業界の名門ブランドに匹敵するものだった。次に紹介する時計は、最近見たなかで最も魅力的なクロノグラフのひとつであった。その考えを証明しよう。

このマルチスケールクロノグラフは、年月を経てもきわめて良好なコンディションで維持されており、均一に形成されたパティーナが見られる。またケース自体も興味深い。クラムシェルスタイルのケースに似た構造を持ちながらも、通常の4本ネジではなく、スクリューバックで全体が固定されているのだ。こういったデザインは日常的に目にするものではなく、それだけに意義がある。

先ほど紹介したポルシェウォッチと同様、この時計の裏蓋を調べるとさらに特別な要素が見つかる。通常の仕様や特徴を示す刻印に加えて、あとから追加された、歴史を物語るエングレービングがあるのだ。この時計はもともと1944年にスイス・ダボス(アルプスに位置し、スキー文化の歴史で知られる町)で開催されたスキー大会の優勝賞品として贈られたものである。年代は一致しないが、このエングレービングを調べているあいだ映画『やぶれかぶれ一発勝負!!(原文:Better Off Dead)』のスキーレースのシーンが頭に浮かんだ。当然この時計を見たあとに、(映画のワンシーンにあった)2ドルを借りている人たちに連絡を取り始めた。

カーズ&ウォッチズ(Cars & Watches)はこのスポーティな歴史を持つツーレジスタークロノグラフを5480ユーロ(当時の相場で約67万円)で販売していた。詳細はこちらから。

ロレックス ホワイトダイヤルのエクスプローラーがクリスティーズ・ジュネーブに登場

ロレックスのスポーツウォッチファミリーのなかでは“弟分”といえる存在で、私にとって最初のロレックスだった。しかしオークションでレアなデイトナやサブ、GMTが高額で取引されるたびに、エクスプローラーはその話題から外れてしまうことが多い。だからこそ、クリスティーズ・ジュネーブの5月のカタログを開き、この時計を見つけたときには、すぐに取り上げるべきだと思った。これはきわめて希少な時計であり、なによりエクスプローラーである。

1958年製のこの時計は、よく見かける1016の前身となるRef.6610だ。ケースコンディションは素晴らしく、ラグも厚くてすべてがオリジナル…ホワイト文字盤を含めすべてがオリジナルである。そう、ホワイトだ。多くの人が知っているように、サブマリーナー、GMT、そしてエクスプローラーはすべて黒いダイヤルを持つ。しかし、そうでない時もある。時折きわめて珍しいホワイトダイヤルのスポーツウォッチが現れ、その際に“偽物だ”と主張する人もいれば、“これは素晴らしい”と称賛する人もいる。エリック・クーが正真正銘のホワイトダイヤル サブマリーナーを紹介してくれたことがある。また、パンナム(PAN-AM)の幹部がホワイトダイヤルの6542 GMTを受け取ったという噂もあるが、これは今も確認されていない(編注;2015年にはホワイトダイヤルの6542 GMTが発見されている。記事はこちらから)。

ロレックスの時計にまつわる疑念こそが、コレクションをやりがいのあるものにしている。ロレックスは決してホワイトダイヤルのエクスプローラーを製造したとは認めないが、多くの人は、どんなに希少であってもそれが事実だと信じている。そしてクリスティーズはこの時計が間違いなくオリジナルであることを証明するために、相当な努力をしたと断言している。そのためこの時計は超希少であり、魅力的な存在となっている。我々が実際にホワイトダイヤルのエクスプローラーを目にしたのはこれが初めてだった。クリスティーズ・ジュネーブでは、この希少な時計を1万スイスフランから1万5000スイスフラン(US記事は1万ドルから1万6000ドルで記載、当時の相場で約105万~165万円)のあいだで取り扱っている(編注;落札価格は17万1750スイスフラン、当時の相場で約1790万円)。

ゼニス パイロット コレクションにポーターとのコラボレーションモデルが登場

ゼニスにおいて伝統的なモデルであるパイロットコレクションが一新されたのは、2023年3月のこと。それまでは往年のパイロットウォッチを思わせるヴィンテージ風のデザインが中心だったが、このタイミングでグッとモダンなデザインへと進化を遂げた(昨年、トニーが紹介記事を書いている)。その後もブティック限定のブルーエディションを発表するなど、ラインナップを少しずつ増やしていったが、今年の10月18日(金)に同コレクションからジャパンブランドとコラボレーションしたスペシャルな限定モデルがリリースされることになった。

それぞれにコーデュラ風のパターンをあしらったラバーストラップと、ポーター製のファブリックストラップが付属する。

今回リリースされるのは3針のパイロット オートマティック ポーター エディションと、クロノグラフモデルのパイロット ビッグデイト フライバック ポーター エディションの2モデルだ。カーキグリーンとオレンジの組み合わせでピンときた方もいるかもしれないが、今回ゼニスがコラボレーションの相手に選んだのは日本が世界に誇るバッグブランドのポーターである。同ブランドを代表するシリーズであるタンカーの特徴的な配色はフライトジャケットを着想元としており、ゼニスはカーキのセラミックケースとストライプの入ったダイヤルによってこれを表現した。またタンカーの裏地に使用されているレスキューオレンジはスーパールミノバ SLN C1を塗布した時・分針と秒針で使用し、本作がコラボレーションであることを強調している。

ちなみに本作にはケースと同色のラバーストラップ(コーデュラファブリックの表面を模したパターンがあしらわれている)に加え、ポーターが提供したナイロンファブリックを使用したベルクロストラップも付属している。ちなみにポーターは、素材作りから縫製に至るまで並々ならないこだわりを持つブランドだ。今回のストラップもポーター側で製造するという意向があったようだが、実際の着用感や耐久性においてはゼニスに一日の長がある。結果としてポーターが生地をゼニスに提供し、ゼニス側で縫製を行うこととなった。

シースルーバックにはポーターのブランドロゴがプリントされており、その向こうにはパイロット人工水平儀があしらわれたブラックローターが見える。

その代わりというわけでないが、ポーターのクラフトマンシップは付属するバッグで存分に味わうことができる。ふたつのモデルのウォッチボックスは、今回のために新たにデザインされたウォッチバッグに収められて提供される。ポケットのキワ部分の処理や縫製部分にはポーターによる手仕事が存分に生かされていて、いちポーターファンとしてこのバッグだけでもかなりの価値を感じる。

プライスはパイロット オートマティック ポーター エディションが149万6000円、クロノグラフモデルのパイロット ビッグデイト フライバック ポーター エディションが204万6000円(ともに税込)となっている。発売は10月26日(土)で、世界中のゼニス ブティックおよびオンラインサロンで販売される。

ファースト・インプレッション
ゼニスとポーター、お互いのリスペクトが感じられるコラボレーションになったと思う。ストラップの縫製を委ね(ポーターとのコラボレーションを見てきた身としていうが、これは異例だ)、メッセンジャーバッグのライニングをゼニスのシグニチャーカラーとしたポーターもさることながら、150年以上の歴史を持つ名門時計ブランドであるゼニスからも日本の老舗バッグブランドへの敬意を感じる。聞くところによると今回のコラボレーションは、ゼニスの日本のPR担当が本社プロダクト担当者の所有するポーターを見て話題に挙げたことがきっかけで始まったという。僕の記憶の限りでは、カーキ×オレンジのカラーをケースの色を含めて再現したブランドはゼニスのほかに1社しかない。

しかし結果として、航空の黎明期から空という未知の世界に挑んできたゼニスのエッセンスを凝縮したパイロットコレクションにマッチするものとなった。カーキグリーンのダイヤル上で回るレスキューオレンジの針はパイロットウォッチに欠かせない視認性を、カーキセラミックのケースとナイロンストラップは高い耐久性を担保している。

また実物を見た感想だが、ナイロンのベルクロストラップはポーターの過去の時計コラボと比較してもシルエットが美しく、手首に巻いた際にも生地の歪みはない。ここにはポーターの生地の特性を理解し、時計製造のノウハウを反映したゼニスの力量が見られる。先にも述べたが、自社での縫製にこだわりが強いポーターが、時計のストラップ製造という専門分野におけるゼニスの技に信頼を寄せて生地を提供したというエピソードも実にツウ好みの裏話だ。総じて、ともに“空”をルーツとするコレクション同士の親和性の高さを示す、単なるコラボレーションという枠を超えたプロダクトに仕上がっているように感じられる。個人的には今回のコラボレーションが成功を収め、もうひとつのタンカーの定番カラーである黒×オレンジが実現することも願ってやまない。

余談だが、付属のショルダーバッグはカメラバッグとしてもかなり優秀だ。タンカーのように中綿の入った生地はクッション性もあり、丁寧な縫製により自立するバッグは重いものを入れても型崩れしにくい。僕のソニー α7C IIとFE 24-70mm F2.8 GM IIのセットもすっぽりと収まった。日瑞の名門同士がコラボレートした時計と素晴らしい日本製のバッグが同時に手に入る、なかなか希少な機会だ。

基本情報
ブランド: ゼニス(Zenith)
モデル名: パイロット オートマティック ポーター エディション/パイロット ビッグデイト フライバック ポーター エディション
型番:49.4001.3620/63.I001/03.9500.3600/01.I001

直径: 40mm/42.5mm
ケース素材:カーキセラミック
文字盤色: 横方向に溝が刻まれたカーキ文字盤
インデックス: アプライドインデックス
夜光: スーパールミノバ SLN C1
防水性能: 10気圧
ストラップ/ブレスレット:ブラックPVD仕上げのSS製フォールディングバックル付きコーデュラファブリック風カーキラバーストラップ、ポーターのタグがあしらわれたカーキナイロンファブリックストラップ
追加情報: ウォッチボックスはポーター製のオリジナルウォッチバッグに収められている

ムーブメント情報
キャリバー: エル・プリメロ 3620(オートマティック)/エル・プリメロ 3652(ビッグデイト フライバック)
機能: 時・分・秒表示、デイト表示(オートマティック)/時・分・秒表示、デイト表示、フライバック クロノグラフ、ビッグデイト表示(ビッグデイト フライバック)
パワーリザーブ: 約60時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 3万6000振動/時
クロノメーター認定: なし

価格 & 発売時期
価格: オートマティック 149万6000円/フライバック 204万6000円(ともに税込)
発売時期: 10月23日(水)に一部の店舗で先行発売、10月26日(土)に全世界で発売
限定:各500本限定

カルト的な人気を誇るモデルが新たに”クラシック”な装いで再登場した。

クリストファー・ウォードは2022年にリリースされてカルト的な人気を獲得したC1 ベル カントシリーズに、4つの新たなモデルを投入した。これらのモデルはMB&Fのレガシー・マシンのようにケースの上半分が盛り上がったような立体的なドームデザインを備えており、時針が正時を指すときにソヌリ オー パッセージという機構で1時間ごとにチャイを鳴らす。今回は新たにクラシックな雰囲気を添えらダイヤルプレートが採用され、レーザーエッチングによるバーリーコーンのようなギヨシェ模様が施されている。

価格はストラップ付きで4225ドル(日本円で約64万5000円)、ブレスレット付きで4540ドル(日本円で約70万円)であることを考えれば、この時計に高級時計にまつわるフランス語の製造用語がこれだけ盛り込まれていることも納得がいくだろう(ちなみに、ギヨシェは真の手彫りではなく機械彫りであるため、ギヨシェ加工にどれだけの時間がかかるかといった長い議論は必要ない)。それでもゴールド、グリーン、シルバー、ブルーそれぞれのダイヤルに見られる美しい放射模様は12時位置にある時刻表示用のインダイヤルを中心に広がり、クラシックの名にふさわしい仕上がりとなっている。このインダイヤルにはローマ数字が採用され、クラシックな要素がさらに強調されている。

この時計は従来どおり41mmのケース径に厚さ13mm、48mmのラグトゥラグ、ラグ幅は22mmで、チタンケースが採用されている。正時にはクリアなD音(ドレミでいうところのレ)でチャイムが鳴り響き、これは手巻きのCal.FS01(セリタSW-200をベースとしたもの)によって駆動し、38時間のパワーリザーブを備えている。開発の詳細については過去の記事を参照するといいだろう。これらの時計は限定ではなく新たにC1のコアラインアップに加わるものである。現在注文が可能で、納品は2カ月後を予定している。価格はデプロワイヤント式のベイダークラスプ(ブランドが特許取得)付きストラップが4225ドル(日本円で約64万5000円)、チタンブレスレットが4540ドル(日本円で約70万円)だ。

我々の考え
かつて2023年1月にオリジナルのベル カントを紹介し、それまで数万から数十万ドルの価格帯でしか手に入らなかったチャイミングウォッチを手ごろな価格で提供するという点で非常に価値のある時計だと評価した。確かにこれはミニッツリピーターではなくチャイム音は少し小さめ(手元のサンプルではわずかにフラットなD6音)で、1時間に1回しか鳴らないが、それでもクリストファー・ウォードに多くのファンをもたらした時計であることに変わりはない。

手ごろな価格で手に入る機械式のチャイミングウォッチには、特筆すべき魅力がある。同モデルはリリースと同年のジュネーブ・ウォッチ・グランプリ(GPHG)の小さい針賞(Petite Aiguille)賞(8000スイスフラン以下のベストウォッチが該当する)も受賞した。しかし販売においては少し問題があった。予約金を支払った人々が生産上の問題で遅延に見舞われ続けたほか、長い待機期間の末に間違った色が届くこともあった。クリストファー・ウォードの担当者は、事態がもっとスムーズに進むことを望んでいたと話していた。そのこともあり、今回はダイヤルの変更以上の改善を行っている。

クリストファー・ウォードの担当者によれば、なじみの顧客には発売からわずか2カ月で時計が届く見込みで、2025年2月末までに安定的な在庫状態を維持することを目標にしているという。すべての顧客が納得するかは不明で、実現するかは今後次第だが、同社が信頼を取り戻すためのハードルを認識しているのは確かだ。

時計自体に関していえば、実は2023年のブランドとの初インタビューでこのギヨシェ模様を目にしており、当時それが検討中の一案であると伝えられていた。その後別の担当者からはこのデザインは不可能で、ブリッジやチャイム機構と組み合わせるとごちゃごちゃしすぎてしまうと言われた。私が見たものについて深く追及されないようにしていたのかもしれないが、この瞬間が来るのをずっと黙って待っていた。

Blue bel canto
ブルーのモデルが青すぎる? もう少し様子を見て欲しい。Photo: courtesy Christopher Ward

実物を見ると、この時計の視覚的な印象はまさに“しっくりくる”。発売前に画像で見たときには、ブルーとグリーンのダイヤルが少し派手すぎて、ギヨシェ模様と喧嘩するのではないかと思っていた。ところが、少なくともグリーンの場合はダイヤルパターンにトカゲのウロコのような虹色の質感が加わり、実際に目にすると色合いが柔らかく感じられる。真っ直ぐな角度から撮影された正対写真から予想していたような均一で鮮やかな印象とは異なり、ずっと落ち着いた仕上がりだ。ほかの色も同様だろうと想像するが、ブランドから提供されたライフスタイルショットではやはりブルーはもう少し落ち着かせてもいいかもしれないと感じている。

またローマ数字がこのデザインに適しているか、あるいは必要かどうかも疑問に思っている。ローマ数字はMB&Fのレガシー・マシンシリーズへのあからさまなオマージュととらえらえる可能性が高く(時計全体についても同様のことがいえるが)、来年以降はこの路線でさらに多くの試みが見られるのではないかと思っている。いずれにせよこの新モデルは、ここ数年でクリストファー・ウォードが生み出したなかでも最も成功した革新的な製品にぴったりな新たな選択肢である。

基本情報
ブランド: クリストファー・ウォード(Christopher Ward)
モデル名: C1 ベル カント クラシック(C1 Bel Canto Classic)

直径: 41mm
厚さ: 13mm
全長: 48mm
ケース素材: グレード5チタン
文字盤色: レーザーエッチングによるギヨシェパターンが施されたゴールド、グリーン、シルバー、ブルーダイヤル
インデックス: 時刻表示用のインダイヤルにローマンインデックス
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: セタレザー製のストラップにはデプロワイヤント式ベイダークラスプが搭載され、22mmから16mmへとテーパーしている。またグレード2のチタン製ベイダーブレスレットも選択可能

Christopher Ward Bel Canto Classic
ムーブメント情報
キャリバー: FS01 (セリタSW200-1ベース)
機能: 時・分表示、チャイム(オン/オフ、プッシュボタン付き)
パワーリザーブ: 38時間
巻き上げ方式: 手巻き
石数: 29
クロノメーター認定: なし
追加情報: D調のチャイム(D6音)