IWC インヂュニアが辿るデザインと技術の革新。

昨年の発表から熱い注目を集めていたインヂュニア・オートマティック40。エンジニアのために生まれた時計が時を経て、いまあらためて人気を呼ぶ理由を探る。

1970年代を代表するドイツのインダストリアルデザインが展示されていた。もちろんその主役がインヂュニアの新作だったのはいうまでもない。1950年代に誕生した初代に新たな息吹を与えたのはジェラルド・ジェンタであり、手がけたインヂュニア SLはブルーノ・サッコやディーター・ラムズによる当時の名作デザインに比肩する。発表されたインヂュニア・オートマティック40は、これをモチーフに現代にリバイバルした。そこに息付くのは、単なるデザイン復刻ではなく、まさに形と技術の融合を追求するIWCの哲学なのである。

初代インヂュニアは1955年に誕生した。自社開発による初のペラトン式自動巻きムーブメントと磁場から守る軟鉄製インナーケースを備え、その革新性はドイツ語とフランス語で「エンジニア」を意味する「インヂュニア」という名前にも込められている。

登場から約20年を経て、1976年に登場したインヂュニア SLはまさにその名にふさわしいデザインを纏ったといえるだろう。シンプルなカレンダー付き3針だった初代に対し、5個の凹みのあるねじ込み式ベゼルとグリッドパターンの文字盤、H型リンクを組み込んだ一体型ブレスレットは、宇宙開発も進む70年代という時代を反映し、未来への前進を象徴した。そしてそれは以降のインヂュニアのデザインを形付けたのである。だがそれだけではインヂュニアの本質を語るには充分ではない。そこに宿るのはやはり形と技術の融合であり、耐磁性能への挑戦にほかならないのだ。

IWCにおける耐磁技術はパイロットウォッチを源流にする。磁気を発生する航空計器に囲まれたコックピットでも時計の精度への影響を防ぐため、ムーブメントを軟鉄製のインナーケースで包んだ。この技術転用によって初代インヂュニアは8万A/mの耐磁性を備え、研究開発や医療、製造部門といった強力な磁場にさらされる環境にも対応したのだった。

こうした耐磁機能はそのままに、インヂュニア SLはその革新性にふさわしい新たなデザインを採用した。大きく厚い武骨なケースも、むしろ目に見えない磁気から守る先進性を可視化し、洗練に磨きをかけたのはジェンタの手腕だろう。存在感あるケースから連なるブレスレットの力強いスタイルは、これまでの控えめな実用時計からアクティブなモダンスポーツへとイメージを一転したのだ。

耐磁技術への挑戦は以降も続く。1989年に発表したインヂュニア500,000A/mは調速脱進機に非鉄素材を用い、耐磁性は50万A/mまで飛躍的に向上した。さらに軟鉄製のインナーケースを省くことで軽量化とケース厚を抑え、心地よい装着感をもたらしたのだ。だが採用した非鉄素材は耐久性に劣ったことで、この画期的モデルは4年の短命で終わり、再びインナーケースを装備することになる。

2005年に登場したインヂュニア・オートマティックは、当時発表されたばかりの自社キャリバー80110を搭載し、ショックに強い緩急針やサスペンションを加えたローターなどIWCらしい頑強かつ高い信頼性を誇った。一方、耐磁性も8万A/mを備えていたが、インナーケースを内蔵したケースの厚さと重さは増した。はたして2013年にフルモデルチェンジしたインヂュニアでは、薄型のキャリバー30110を搭載し、4万A/mの耐磁性を備えたオートマティック以外はインナーケースが省かれたのだった。耐磁性は依然、二律背反のハードルとしてあり続けたのである。

インヂュニア・オートマティック40は、インヂュニア SLにインスピレーションを得ながら、人間工学に基づいたプロポーションとより現代的なスタイルを両立する。

インナーケースの採用により4万A/mの耐磁性を備え、ケース径はジャンボと呼ばれたSLからわずか0.5㎜アップに抑える一方、厚さは12㎜から10.8㎜に薄くしている。さらにラグ トゥ ラグの長さを45.7㎜に短くするとともに、ノーズ型だったラグもミドルリンクの新設で手首のフィット感を向上している。ブレスレットもわずかにテーパーをつけることでこれに貢献し、見た目の高級感も増している。

SLではベゼルはねじ込み式だったため、凹みの位置には個体差があったが、これを多角形のネジ留めに変更し、定位置にネジを配する。また2013年に初採用したリューズガードはより滑らかにケースに沿うフォルムになった。文字盤にはSLのシンボルだったグリッドパターンが復活。互いに90度ずつずらした水平ストライプと台形のパターンで構成され、エンボス加工で仕上げたベースに亜鉛メッキを施す。オリジナルに比べると、面形状がよりシャープに際立つ。

ケースとブレスレットにはエンジニアリングスティールを採用し、これは複雑な精製工程を経て、高い純度と硬度を実現するとともに、リサイクル率は85%を誇る。自社のケース製造施設で培ってきた金属加工の技術とノウハウを存分に注ぎこんだ先進素材となっている。またチタンバージョンではグレード5のチタンに製造、研磨、サテン仕上げ、サンドブラストなどの加工技術を駆使した精巧な仕上げを施す。これも1982年にケースとブレスレットにチタンを採用したオーシャン2000を発表したこのブランドの、チタンのパイオニアとしても名高い本領発揮だ。

インヂュニアは、その名が示す通り、技術者、科学者、パイロット、医師といった強い磁場で従事する職種のために専用開発された時計だ。しかし誕生から約70年を経て、デジタル機器に囲まれた現代の日常に磁気は特別なものではなくなった。たとえばスマートフォンやタブレット、ワイヤレスイヤホンやそのケース、バッグのマグネット式留め具も磁気を発生し、オーディオのターンテーブルやエレキギターのピックアップといった思いもよらないものにもその危険性が潜んでいる。

一般的な生活環境での磁気なら発生源から5〜10cm離れれば、その影響はほとんどなくなるといわれる。とはいえ、時計の精度に影響を与える原因のトップであることに変わりはない。だからこそ現代のライフスタイルにおけるインヂュニアの存在がより際立つ。そしてそれは形と技術が高次元で融合した、極めてIWCらしさが結実した1本なのである。

アルビスホルン×マッセナLAB、ある時計が発表された。

アルビスホルン×マッセナLAB(Albishorn×Massena Lab) マキシグラフこそ、その時計である。最初のリリースを単体ではなくコラボレーションとしたのは大胆な戦略的選択だが、アルビスホルンはすぐに航空にインスパイアされたタイプ 10を単体で発表した。セリタ社のセバスチャン・ショルモンテ(Sébastien Chaulmontet)氏が設立したアルビスホルンがHODINKEEに登場するのは今回が初めてではない。

しかもこのマキシグラフは昨年夏のGeneva Watch Daysにおける我々のお気に入りリスト入りを果たしている。多くの人が、業界にとって低調な年と評したなかで、この時計は私には一服の涼と映った。当然、私は数日間この時計と一緒に過ごし、実物がどのようなものかを確かめたいと思った。

アルビスホルンを初めて耳にする人のために言うと、ウブロスーパーコピー時計n級品 代引きこのブランドはヴィンテージに触発された時計を製作している。ただしヴィンテージの復刻にありがちなアイコンの再現でもなく、インスパイアされたものでもない。“イマジナリーヴィンテージ”というアルビスホルンのトレードマークがそれをよく表している。ヴィンテージウォッチのデザイン原則を活用して、ほかにはない個性を感じさせるモダンウォッチをつくるというコンセプトだ。まだ2モデルしか発表されていないため、このコンセプトが支持されるかどうかを判断するにはほかのリリースを待たねばならないとは思うが、私はすでにとても興味をそそられ、傾倒してしまっている。

マキシグラフは、本質的にはモノプッシャーのレガッタクロノグラフである。ブランドの語るストーリーを少し紹介すると、これは1939年に初めて開催されたボルドール・デュ・レマンのためにブランドがデザインしたであろう航海用クロノグラフだという。

文字盤にはヴィンテージの特徴が容易に見て取れる。鮮やかな色でプリントされたミニッツトラックとアワートラックがセクター文字盤を埋め尽くしている。すべてのトラックは、微妙に異なる太さやスタイルで表現され、中央のメタリックなトラックが味わい深いアクセントだ。これらのリングからは、この時代のマルチスケールダイヤルによく見られる賑やかなヴィンテージクロノグラフのような印象を受けるが、このモデルではより現代的ですっきりとした美しさも感じられる。スーパールミノバが文字盤上に描く2本のアーチは非常に繊細で、見逃しやすいディテールであろう。これらはすべてボックス状のサファイア風防の下に配されている。

アルビスホルンによる夜光塗料の描写。

文字盤内側のスケールには、10分間のカウントダウンスケールとランニングインジケーターという、おそらく一番興味深いパーツが配置されている。マキシグラフでは、スモールセコンドを省略し、カウントダウンスケールの横に小さな窓を設けた。この窓にはディスクが収められ、青、赤、緑に順に回転することで、クロノグラフを作動させなくても時計が正しく動いていることがわかるようになっている。この種のインジケーターは新しいコンセプトではないが、マキシグラフのものは非常によくできており、時間を確認するたびに色が変化するのを待つのはとても魅力的だと感じた。

マキシグラフの最大にして最もユニークな特徴は、緑色のトラックと赤い針を備えた10分間のレガッタカウントダウントラックである。そしてこれは、アルビスホルンが新しい時計をつくり続ける限りもたらしてくれるであろうものの、いい“インジケーター(指標)”(ダジャレではない)でもある。典型的なレガッタクロノグラフは、カウントダウンが終わってもその表示を繰り返すが、マキシグラフの場合、10分が経過するとレガッタタイマーは停止してカウントダウン針は“0”の位置で静止し、メインのクロノグラフ秒針は動き続ける。クロノグラフがリセットされると、分表示もクロノグラフ秒針も元の位置に戻る。

ステンレススティール製ケースは直径39mm、厚さ13mmと非常に現代的で、それよりも大きな41mmの両方向回転式SSベゼルを備えている。凹型のベゼルは操作しやすく、十分な抵抗感でスムーズに回転し、黒と赤で着色されたアワートラックとミニッツトラックが刻印されている。10時位置に配されたリューズには、美しいコントラストのビーズブラスト仕上げでアルビスホルンのロゴが大きく刻まれている。鮮やかな赤のアルミニウム製クロノグラフプッシャー(この素材を選んだのは、この彩度の高いアルマイト処理を実現するためだったのだろう)はアグレッシブな稜線を持つ9時位置にあり、操作感は抜群だ。

アルビスホルンによると、マキシグラフは約64時間のパワーリザーブを備えた独自の自動巻きキャリバーを搭載している。ショルモンテ氏のムーブメント開発経歴は非常に豊かで、とくにクロノCOS(クラウンオペレーションシステム)でリチャード・ハブリング(Richard Habring)氏と共同特許を取得したバルジュー7750には定評があり、最も大きな功績のひとつでもある。ラ・ジュー・ペレ社や現在のセリタ社での経験も言うにおよばない。彼の専門性は、この新しいキャリバーが部分的には7750の構造に依拠しているものの、それとは大きく異なり、セリタ社の既存カタログには含まれていない完全オリジナルのものだ。標準的なバルジュー7750ムーブメントの厚さが7.9mmであるのに対し、マキシグラフのキャリバーは延長された約64時間のパワーリザーブ、モノプッシャーの改良、特許取得のレトログラードレガッタカウントダウンを備えながら、6.6mmに抑えられている。実際に手にしてみると、クロノグラフの動作は7750よりもかなり滑らかに感じられた。そのため最初は7750との関連性にまったく気付かず、感心させられた。

時計を裏返すと、ケースバックにはアルビスホルンとマッセナLABのロゴ、そして1939年に第1回ル・ボルドールを受賞した6メートルヨット、イリアムIV号の製図風アートワークが刻印されている。赤いトロピックスタイルのラバーストラップと白いカーフレザーストラップの両方が付属するが、私は100m防水の時計にはラバーストラップが間違いなく適していると感じた。左右非対称のロゴ入りピンバックルもいい味だ。

マッセナLABのコラボレーションのほとんどが完全限定生産であるのに対し、マキシグラフは1バッチごとに25本程度の“限定生産”として発表された。確かにマキシグラフは4995ドル(日本円で約80万円)と、安価な時計ではない。しかしともに時間を過ごしてみて、とくに製造の背景を考慮すると、決して高い価格設定だとは思わない。この希少性は意図的につくり出されたものでもない。このキャリバーに要求される調整と精密さは、手作業の少量生産によってのみ達成可能なのだと、ショルモンテ氏は教えてくれた。快適に着用できるサイズでユニークなムーブメントを搭載した、斬新なレガッタタイマーが5000ドル以下というのは、このセグメントにあって非常にフェアな試みだと思う。市場でこれに似たものを見つけるのは難しいだろう。

ウィリアム・マッセナ(William Massena)氏に、この時計がいつまで生産されるのか聞いてみたところ、おそらく今年いっぱいは生産されないだろうとのことだった。マッセナ氏は、「私は、生産中にほとんどの人に見過ごされがちな、少量生産の個性的な時計が大好きなのです」と語った。アルビスホルンとマキシグラフの両方を初期から支えてくれるサポーターに、のちのち隠れた名作として報いる限定生産のアイデアの源泉として、ホイヤーのマレオグラフやジン EZM 1のような、コレクターに愛される時計について言及した。これは確かに興味深い戦略であり、この非常に魅力的な時計は目指した目的をしっかりと果たしており、戦略がうまくいく可能性は十分にある。

アルビスホルン×マッセナLAB マキシグラフ。ケース径39mm(ベゼル41mm)、厚さ13mmのステンレススティール製。100m防水で、モノプッシャークロノグラフと特許取得の10分カウントダウンレガッタタイマーを備えた独自の自動巻きキャリバーを搭載。数量限定生産で、マッセナLABの公式ウェブサイトで販売。

ディオール(DIOR)2025年秋の新作ベースメイク「プレステージ マイクロ フルイド タン」が新登場。

“ローズ生まれ”のプレミアム美容液ファンデーション
ディオール「プレステージ マイクロ フルイド タン」SPF30/PA+++ 全5色<ブラシ付き>各18,480円
ディオールスーパーコピー「プレステージ マイクロ フルイド タン」SPF30/PA+++ 全5色<ブラシ付き>各18,480円
“ご褒美スキンケア”として愛される「ディオール プレステージ」シリーズから、新しいリクイドファンデーションが誕生。ベースメイクでありながら“スキンケアのために生まれた”薔薇「グランヴィル ローズ」の恵みたっぷりで、美容液のように、いきいきと輝きあふれる肌へと導いてくれる。

“お疲れ肌”のくすみをケア
ディオール「プレステージ マイクロ フルイド タン」SPF30/PA+++ 全5色<ブラシ付き>各18,480円
ディオール「プレステージ マイクロ フルイド タン」SPF30/PA+++ 全5色<ブラシ付き>各18,480円
「プレステージ マイクロ フルイド タン」の鍵を握るのは、肌のくすみに関するディオール独自の科学的発見。赤みや乾燥感など、疲れた印象を与える肌のサインは“カリウムの不足”が由来していることを新たに見出した。

ディオール2025年ベースメイク、肌くすみケアの“ご褒美”美容液ファンデーション|写真5
このカリウム不足にアプローチするのが「グランヴィル ローズ」。このローズには微量栄養素がぎゅっと詰まっていて、カリウムを豊富に含んでいるという。グランヴィル ローズ生まれの「ニュートリ ローズ ペプチド」を配合したファンデーションは、メイクしながら、疲労サインやストレスから肌を回復させ、健やかな肌状態へと整えてくれる。

肌色問わず溶け込んで均一肌へ
中央) ディオール「プレステージ マイクロ フルイド タン」SPF30/PA+++ 全5色<ブラシ付き>各18,480円
中央) ディオール「プレステージ マイクロ フルイド タン」SPF30/PA+++ 全5色<ブラシ付き>各18,480円
また、ファンデーションには「イルミネーティング マイクロ パール」と呼ばれる、2層構造のパールを起用。ヌードカラーを血色感のあるロージーカラーでコーティングしたパールを使用することで、肌への溶け込み感がぐんとアップ。イエベ、ブルべなどのパーソナルカラーやアンダートーン問わず均一になじんで、肌色を補正。シルクのような仕上がりを叶えてくれる。

右) ディオール「プレステージ マイクロ フルイド タン」SPF30/PA+++ 全5色<ブラシ付き>各18,480円
右) ディオール「プレステージ マイクロ フルイド タン」SPF30/PA+++ 全5色<ブラシ付き>各18,480円
テクスチャーは軽く、なめらかに広がるので、テクニックレスで毛穴などの肌悩みをカバー。肌のうるおい感は長く続き、高温多湿の環境下でも長時間ツヤ肌をキープしてくれる。SPF30 PA+++で紫外線などからも肌を守ってくれるのもいいところだ。

【詳細】
ディオール「プレステージ マイクロ フルイド タン」SPF30/PA+++ 全5色<ブラシ付き>各18,480円
発売日:2025年9月5日(金)予定

【問い合わせ先】
パルファン・クリスチャン・ディオール
TEL:03-3239-0618

ウブロからビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック グリーン SAXEMが新登場

大胆で複雑、そしてカラフルな時計を発表するタイミングだということだ。2025年にマキシマリズムを推している者として、これは褒め言葉として言っている。ビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック グリーン SAXEMは、この記事とこの記事で紹介している、ウブロ独自のサファイアに似た素材SAXEM(サクセム)がさらに進化したモデルだ。この素材はサファイアと同様の硬さと透明度を持ちながら、その組成により強烈な色をより簡単に引き出せる。またウブロによれば、“希少な宝石のように鮮やかに”輝くのが特徴だ。

ひとつの記事にSAXEMという言葉を何回使えるのか。それを知る方法はひとつしかない。

hublot saxem green
SAXEMケースとサファイアクリスタルケースを直接比較する機会はなかったが、昨年、イエローネオンSAXEMのビッグ・バンを試着するチャンスがあった。その鮮やかさは、注意書きが必要なくらいだったかもしれない。実際に試着したのは、ウブロのコラボレーターであるアーティスト、ダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)氏のビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック イエロー ネオン SAXEMで、ウブロ推奨のモノクロームイエローのストラップではなく彼は黒いストラップを合わせていた。これがヒントになり、ブランドはブラックストラップ付きのグリーン SAXEMを発売したのだろう。

ビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック グリーン SAXEMは、私のなかの架空のパントーンチャートで“Goblin(ゴブリン)”と“Perrier(ペリエ)”の中間に位置する。この色について、ウブロはかなり控えめにエメラルドグリーンと名付けている(ミュージカル『ウィキッド』×ウブロのコラボがあれば絶好の機会だっただろう)。真の色味を知るにはWatches & Wondersまで待つ必要があるかもしれないが、ひとつだけ確かなのは地味な色ではないということだ。

Hublot SAXEM green Big Bang
44mm(前回のビッグ・バン ウニコ グリーンSAXEMより2mm大きい)のポリッシュ仕上げのグリーン SAXEMケースには、ウブロの自社製オートマティックトゥールビヨンムーブメント、MHUB6035が搭載されている。このキャリバーの特徴は文字盤側の12時位置に配置された22Kゴールド製のマイクロローターで、約72時間のパワーリザーブを提供することだ。ムーブメントの現代的な設計では、香箱受け、自動巻き機構のブリッジ、トゥールビヨンバレッタという3つの機能的なサファイア製要素がアクセントとなっている。さらに、ワンミニッツトゥールビヨンキャリッジが6時位置に配置されているのも特徴的だ。価格は3164万7000円(税込)で、18本限定だ。

我々の考え
2025年はビッグ・バンの20周年にあたる。この1年を通じて、さまざまなモデルが次々と発表されることはほぼ間違いないだろう。2000年代初頭の個性的で大きな時計のファンであり、その時代らしい大胆な精神性に心を奪われた私としてはこれ以上ないほどワクワクする話だ。ただし、ほかの人にとってはそこまで魅力的ではないかもしれない。それでもウブロのよいところは、その仲間にならなくてもこのお祭りを楽しめる点にある。

Hublot Big Bang SAXEM Green details
傍観者としてウブロを楽しむのも十分アリだ。仮にあなたがエクストラプラットな時刻表示のみのドレスウォッチや、QP(永久カレンダー)を好むタイプの人だったとしても、この異端的なスイスウォッチブランドが放つ陽気で大げさな魅力に引かれても問題ない。グリーンの気配をまとった穏やかな好奇心に身を任せ、その仰々しさを受け入れよう。凝り固まった外見から解放されよう。世間の目なんて気にしない。ウブロを見習って、逆境に負けない楽観主義を手にしよう!

カラフルで存在感あるデザインと、それに見合う価格の時計を生み出すことにかけて、ウブロには怖いものがない。誰もが小振りなSAXEMを夢見るかもしれないが、心の奥ではそれがSAXEMの本質を失ってしまうことをわかっている。SAXEMは派手なXLサイズでこそ、真価を発揮する時計なのだ。

hublot saxem green
基本情報
ブランド: ウブロ(Hublot)
モデル名: ビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック グリーン SAXEM(Big Bang Tourbillon Automatic Green SAXEM)
型番: 429.JG.0110.RT

直径: 44mm
厚さ: 14.4mm
ケース素材: ポリッシュグリーンSAXEM
夜光: あり
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ライン入りブラックラバーストラップ(ブラックセラミック&ブラック加工のチタン製フォールディングバックル)、グリーンの透明裏地付きラバー&ブラックベルクロ付属(マイクロブラスト加工のブラックセラミックスポーツバックル)

ムーブメント情報
キャリバー: MHUB6035
機能: 時・分表示、トゥールビヨン
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 26
追加情報: サファイアでできた3つのブリッジ、22Kホワイトゴールド製のマイクロローター、スイス式レバー脱進機

価格 & 発売時期
価格: 3164万7000円(税込)
限定: あり、世界限定18本

ロレックスはアメリカ市場を見据え、“ル・マン”ではなく“デイトナ”を選んだ。

ロレックスの歴史において、なぜコスモグラフは“ル・マン”ではなく、“デイトナ”となったのか。その由来はアメリカ・フロリダ州のデイトナビーチにあるデイトナ・インターナショナル・スピードウェイとの結び付きを強めたことにある。

ロレックスはコスモグラフ発表以前の1930年代から数々のクロノグラフを手がけてきた実績があるが、この分野では長年苦戦を強いられていた。1963年のRef.6239の登場によって、ロレックスのクロノグラフは大きな方向転換を迎える。当時のアドバタイジングで確認できるル・マンの名を冠したモデル名、ロレックスでは初のタキメータースケールを搭載したベゼルは、華やかなカーレースシーンへの参戦表明と言っていいものだった。そしてもうひとつ言えることは、このいわゆるル・マンの発表時において、ロレックスとル・マン24時間レースとのあいだには直接的な関係はなかったと思われるが、それから数十年後、ル・マン24時間レースの勝者にコスモグラフ デイトナが贈られるようになったことは、実に興味深い事実であると思う。

「未来とは、今である」。目の前のことに全力を尽くすことで未来は開ける。今の頑張りが未来を創るという意味を込めたアメリカの文化人類学者のマーガレット・ミードの名言だが、まさにロレックスのたゆまぬ努力は確かな結果を残したのだ。

前述のとおり、1964年からロレックスは世界最大級のマーケットであった北米市場に向けて、文字盤に“DAYTONA”のプリントを入れたRef.6239を投入し始めるが、この戦略がマーケティングとして功を奏して、コスモグラフは成功への道筋を歩むことになる。時計、クルマ、ファッション関連を中心に、古い雑誌やポスターなどを取り扱うアド・パティーナの創業者であるニック・フェデロヴィッチ氏による、ル・マンおよびデイトナに関するアドバタイジングへの考察は以下のとおりだ。

「ル・マンの広告が最初に打たれたのは1964年ごろだと推測しますが、この時点ではデイトナとは呼ばれていなかったことは確かだと思います。翌1965年の広告から正式にデイトナというモデル名が記載されるようになりました。古いロレックスの広告を調べていくにつれて解明できたことは、掲載されている時計の年式と広告が打たれた年は一致しないことです。私たちのようなコレクターやマニアは、時計のディテールにこだわりますが、当時の広告において厳密な表現はさほど重要ではなく、そのモデルの主立った特徴を見せることに重点を置いていた傾向が見られます」

 時計の説明よりも、むしろカーレースやスポーツカーの写真を巧みに使いながらイメージを刷り込むことで、ロレックスはレースの世界との距離を縮めたのだ。

 このようなブランディングと並行して、1965年に登場したねじ込み式のクロノグラフプッシャーを初採用したプロトタイプ Ref.6240の登場をきっかけに、コスモグラフは段階を踏みながら機能性を高め、防水クロノグラフへと変身を遂げて独自路線を追求していく。

1966年に打たれたロレックスの広告。サブマリーナーならダイビング、ロレックスならスポーツカーなど時計とマッチした背景を使うことで、それぞれの世界を写真を使って表現した。

過酷なレースで育まれたレーシングクロノグラフ
 北米市場に迎えられたコスモグラフ デイトナは、ここから新たな物語を紡いでいくわけだが、これに関連する話題とともに、ロレックスならではの防水クロノグラフが完成されるまでのヒストリーもル・マンと同様、極めて興味深い。

 コスモグラフ デイトナが台頭した1960年初頭、カーレースは新たな時代を迎えて、かつてないほどの熱気に包まれていた。この時代のレーシングカーへの造詣が深く、希少なクラシックカーを販売するコーギーズのオーナーである鈴木英昭氏に、1960年代のル・マン24時間レースについて話を聞くことができた。

ル・マン24時間レースの競技はフランス中部にあるル・マン市のル・マン24時間サーキットで行われていた。写真は1925年から始まったル・マン式スタートの様子。シートベルトを閉めないドライバーが多かったため、1971年から通常のローリング式スターティングを採用するようになった。

デイトナ24時間レースは、ル・マン24時間レースの形式を踏襲しているが、高速オーバルコースの特性に加え、途中に組み込まれたテクニカルセクションが存在することからマシンやドライバーにかかる負担の大きいレースである。バンクではマシンに外方向と下方向でのGがかかることからサスペンションのセッティングにも苦心したという。

「この時代は、空気抵抗の測定精度が向上したことで、レーシングカーのデザインが劇的に変わります。ル・マン24時間レースでは、フォードがフェラーリを買収しようと試みたことから両社の対立が始まり、1960年から1965年までフェラーリが6連勝を飾る一方、フロントエンジンからミッドシップエンジンに切り替わり、戦力を増強。1966年はフォード GT40が初めてフェラーリを打ち負かして4連勝しますが、1970年には徐々に実力を高めてきたポルシェが初勝利します。1969年からレースで使用したポルシェ 917を見ればわかるように、レースの世界では当然のこととして認識されていますが、かつて大活躍したフェラーリ 250TR(テスタロッタ)のようなデザインはこの頃には一切見当たらなくなります。アメリカにおけるレースシーンはというと、1962年からデイトナ・インターナショナル・スピードウェイで開始されたデイトナ24時間レースは、まだ知名度は低かったのですが、レースの報酬が高かったことを理由に、ヨーロッパから多くのレーサーが参加するようになりました」

 同じ時代、レースの世界を走り始めたコスモグラフ デイトナにおける進化の過程はレースに相通じるものがある。苛烈を極めたデイトナ24時間レースを耐え抜くためにレーシングカーはスタイリングを洗練させ、スペックを高めていった。そんなレースにふさわしいクロノグラフとしてコスモグラフ デイトナに求められたのは耐久性を高めること。特に当時のクロノグラフ全般の弱点であった防水性能の向上だった。1965年に登場したRef.6240はプロトタイプのねじ込み式クロノグラフプッシャーを採用し、1969年から登場した(1970年、71年とする説もある)Ref.6263は、それを正式に採用したモデルだ。12時位置のプリントの2行目には、防水性能を示した“OYSTER”の文字が加わる。このRef.6263の製造が1989年まで続いたことからもクロノグラフとしての信頼性の高さがうかがえる。

 さらなる完璧さを求めたロレックスは、40㎜径のオイスターケースにリューズガードを与え、初の自動巻きクロノグラフムーブメントとなるCal.4030を搭載したRef.16520を1988年に発表する。文字盤の2行目のプリントには、“OYSTER”のほかにデイトナ初となる“PERPETUAL”の表記が入る。このアップデートの結果、コスモグラフ デイトナはクロノグラフという複雑機構でありながら、そのほかのプロフェッショナルモデルと同等クラスの防水性能や耐久性を手に入れた。もうひとつ、コスモグラフ デイトナとカーレースの結び付きを考察するうえで、俳優ポール・ニューマンの存在はやはり欠かせない。ご存じのように、レーシングドライバーとしても活躍した彼の腕には手巻きのコスモグラフ デイトナがよく巻かれていた。そのため彼が身につけていたエキゾチックダイヤルと呼ばれる文字盤が入るコスモグラフ デイトナは、のちにポール・ニューマン モデルと呼ばれるようになるわけだが、その人気は衰え知らずで現在も価格の高騰が続いている。

 つまるところ、カーレースの世界や第2次世界大戦後にアメリカの好景気が絶頂を迎えていた北米市場に勝機をみいだしたロレックスのマーケティングは、結果論として正解だったわけだ。歴史に“もしも”はないが、ロレックスがデイトナではなく、ル・マンへの道を目指し続けていたとしたら、コスモグラフと名付けられたクロノグラフの運命は、今とはまったく違う道を歩んでいたかもしれない。