メンズ、そしてレディスのための小ぶりな時計のスタイリング。

スタイルエディターのマライカ・クロフォードが愛用の腕時計をより最高の状態にするための方法を紹介するHow To Wear Itへようこそ。このセクションではスタイリングのコツから現代におけるファッションの考察、歴史的な背景、ときには英国流の皮肉も織り交ぜて、その魅力をお伝えしていこう。

男性が小さな時計することは、私が今まで疫病のように避けてきた話題だ。ただでさえ騒がしい場所で、さらに騒がしい暴言。時代精神的な論争であれば、すぐに自分の立場を時計に関するインターネットに知らせるといういつものやり方とは異なり、私はこの論争に参加する前に瞑想し、潜伏し、自分の考えを静かに振り返ってから意見を述べた。このテーマを慎重に扱うことが重要だと感じた。

 男性が33mmの時計をしたり、女性が41mmの時計をつけることが境界を超えることだという考えは、少なくとも私のなかでは滑稽なことだ。時計の直径について議論してばかりすることは、精神的に完全に萎えてしまうほど私をイライラさせる。

 時計の直径が小さいという論調に持ち込むのではなく、議論を再構成しようと試みたい。時計業界にいる誰もが、同じように存在しない悟りの境地に達することを願いながら、同じように現代の時計市場の沼地を苦労して歩いているのではないだろうか? ブランドが単にヴィンテージの栄光に安住するのではなく、先を見据えている場所、つまり意図的な建設であり、高い基準を維持し、サイズレンジは多様で、浅はかなジェンダー主導のマーケティングとは無縁なところだ。

 これはもはや男性のための小さいサイズと、女性のための大きいサイズの話ではなく、すべての人にとっての流動性の話であるのだ。

Model in Tudor Mini Sub
 ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)が男性のワードローブから快適な着心地と統一性の重要な要素を借りて以来、現代ファッションの基礎となっているスーツを例に見てみる。このわかりやすいスタイルは、90年代のジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)がアンコンストラクテッドスーツを発表したことで、さらに高みに達した。もちろんアルマーニよりも先にサンローラン(Mr. Saint Laurent)が登場し、その肩幅の広い“スモーキング”ジャケットは、女性、フェミニスト、ファッション中毒者らに、鎧としての衣服を通じて一種の自信を与えた。

 今度はその逆だ。セリーヌのクリエイティブディレクターであるエディ・スリマン(Hedi Slimane)は、男らしさを定義する必要性を感じていない。彼はそれを広くオープンにし、アンドロジニー(両性具有)を服の軸に据えることでジェンダーの二元性を解体することを選んだ。スリマンは2000年にディオールオムの指揮下に入り、スキニーシルエットの普及を通じてメンズウェアを根本的に変えた。

 かつてグッチのクリエイティブディレクターを務めていたアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)は、過去の華やかさに魅了されながらも、クリエイティブな表現の自由を前進させようと躍起になり、全世代のドレッシングにインスピレーションを与えた。キャスティングや服装に関しては、ほとんどあらゆるものを受け入れる彼の絶対的な包容力により、ファッション界の政治を形成し、クールさと美しさという一般的な定義を根底から覆した。ミケーレは、性別が二項で表現されることのない、奇抜さのためのクラブのようなものを作り上げたのだ。

 というのも私が初めて時計の世界に足を踏み入れたときは、現状が実に流動的なバックグラウンドを持っていたために、1歩引いて考えなければならなかった。サンローランの“スモーキング”に身を包んだベティ・カトルー(Betty Catroux)のような過去のアイコンを偶像化し、エディの持つサブカルチャーのシルエットで構成された強烈なビジュアルストーリーにそのままのめり込んだ。確かに、プレタポルテのファッションは今でもジェンダーで分けられているが、今日ではこれらのショーは男女混合であることが多く、さらにその分断されたアイデアは、精神やシルエットではなく、フィット感とサイズという避けられないロジスティクスを中心にしている。

 ファッションには境界線がほとんどない。“両サイド”が交錯と交換を繰り返す。誰も気にしていない、当たり前のことだ。商業的な現実は、ほとんどの場合、小売レベルでまだ性別によってコレクションが分けられていることを意味する。しかしクリエイティブな表現が、厳密な男女の二元性の上に存在すると考えているような時計ブランドとは異なり、両者のビジョンには創造的な統一性がある。

 私たちは、性別を表面的に定義し、時計の正しいサイズやドレススタイルについて議論するというのは、もう過去のことではないだろうか? 身につけるものを選ぶのは自分の直感を探ることだ。自分に合ったパレットとスタイルを形成するべきである。すべてを手に入れることができるのに、なぜどちらか一方のみ選ぶのか?

 これは商業的な敗北を、個人的なスタイルの勝利に変えるというアイデアだ。過去20年以上にわたって業界の商業的側面を覆ってきた、陳腐化したメッセージと蔓延する単調さに逆らって、小ぶりなヴィンテージウォッチを身につけてみてはいかがだろうか。それは、より小さなパッケージにおけるプロポーションと意図的なデザインの追求である。How To Wear Itセクションは、口論を行うのではなく、私の職業上での視点に過ぎない。そして小径の時計は、身につける人が誰であろうと、その背後に同じくらいの考えと意図を持つに値すると主張したいのだ。

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ルック1: 伝統的な小ぶりモデル
Model in Gucci and Patek. 5026g
ジャケット&パンツ&ベルト/グッチ、Tシャツ/チェリー・ヴィンテージ。

 ボンバージャケットはとても90年代的だが、50年代風でもある。実際、私がボンバージャケットを着たり、ボンバージャケットで誰かをスタイリングするとき、私は心のなかで『欲望という名の電車(原題:A Streetcar Named Desire)』のマーロン・ブランド(Marlon Brando)か、『トレインスポッティング』のユアン・マクレガー(Ewan McGregor)という、二項対立のあいだで精神的に揺れ動いている。まったく異なるふたりのキャラクターと、まったく異なるふたつのスタイルのボンバージャケットだ。マーロン・ブランド寄りのほうが無難だと思うし、より健康的な美学を叩き込む方が安全だとも思う。しかし、もしあなたが30歳未満で、90年代のハシエンダレイブ(ひと晩中音楽をかけて踊り続ける)のダンスフロアから切り取ったような美学を披露することができれば、それは素晴らしいことである。

 時計はパテック フィリップのRef.5026Gで、50年代と90年代のルックの中間をいくようなスタイルだ。現在のカラトラバよりもクラシカルな34mmサイズは、全体的に90年代のデザインチームが40年前にコスプレを目指していたかのような外観と雰囲気を備える。とはいえ、4時位置のスモールセコンドダイヤルには“モダン”な魅力と風変わりさが十分にある。なんというか、このパテックがわずか20年前に発表され、2002年にカタログから消えたとは信じがたい。

 ここで質問。朝の身支度はどのようにしているか? そして、時計は身支度にどのように関わってくるか? 起床する8時間前から、どのセーターがどのパンツに合うかを慎重に計算しているか? ドライクリーニングしたシャツを色別に整理してクローゼットにきちんと吊るし、ワードローブが白から黒までのシャツの袖でグラデーションのようになっているだろうか? タイド トゥ ゴースティック(携帯用シミ抜きペン)を持っているだろうか? おそらく、あなたが以上のような行動パターンを取れるなら、カラトラバは向いていると思う。このクリーンで、エレガントかつ伝統的なデザインは、あなたの丁寧な日常に溶け込むことだろう。

ジャケット&パンツ&ベルト/グッチ、Tシャツ/チェリー・ヴィンテージ。

 そして従来のスタイルを断ち切りたい場合も、このような外観のカラトラバはとてもいい選択肢だ。プロポーションを少し遊んでいるだけで、わかりやすいスタイルである。オーバーサイズのボンバージャケットだが、クロップド丈で裾を絞っているため、バギーではなくボリューム感が出ており、そのシルエットがモダンな印象を与えている。また無駄のないハイカットパンツは、50年代をほうふつとさせる伝統的なデザインだ。しかしここで注意。ハイウエストのパンツにタック入りのTシャツとベルトという組み合わせは、『ウエスト・サイド・ストーリー』のキャラクターのコスプレに似てしまう危うさがある。私たちは決して、“コスチューム”として見せたいわけではない。

 腕を伸ばして袖を上げると…ジャジャーン! その下に眠るお宝が姿を現れる。それに勝るものはない。

ルック2: イエローゴールドを身につける絶妙な方法
Model in Celine and IWC
ジャケット&シューズ/セリーヌ、ジーンズ/リーバイス。

 エディ・スリマンのバックカタログは、“積極的”なマスキュリンスタイルに多大な影響を与えた。スキニーシルエットの達人であり、ニューウェーブの音楽と文化の崇拝者であるスリマンの計画は常に流動的であった。もちろん、かつてディオールのランウェイにあったものは、最終的には大衆に伝わり、地元の古着屋で悲劇の山へと追いやられる。例えば、スリマンの定番であるスキニージーンズ。これが一般的となったとき、予想どおりのことが起こった。彼らはクールさを失ったのだ。しかしスリマンはどうにかして2000年代初頭の文化を悲劇的に後退させることなく活用した。彼は商業的な現実をビジョンに吸収し、コンセプチュアルではなくむしろエフォートレスに見える服装を製作した。まるで2007年頃のケイト・モス(Kate Moss)とピート・ドハティ(Pete Doherty)の熱狂的な夢のようである。

 これはスリムなシルエットをキープすることで、スーツを着なくても洗練された印象に見えるモダンな着こなし方法だ。ジャケットは作りがしっかりしているため、それなりに厳格ではある。しかし装飾や色、ヴィンテージを参考にすることで、ジャケットの個性をよりルーズにしている。スリマンのファッションは、それ自体が男性的な肖像画の一種であり、女性にも同程度通用するほどフレキシブルだ。

 温かみのあるベージュのような、あるいはキャメルのようなトーンは、ゴールドウォッチを合わせたら最適だ。温かみがあって濃厚で、引き締まって見える。そしてゴールドのボタンに合わせて輝くゴールドの時計よ、ハロー! 私をよく知る読者なら、私が今、天国にいることを知っているはずだ。ただ1985年の『特捜刑事マイアミ・バイス(原題:Miami Vice)』に出演したマイルス・デイヴィス(Miles Davis)が、金無垢のロレックス デイデイトを身につけている写真を見て考えさせられた。そしてその写真を見て、金無垢の時計をしている男性は、みっともないだけでなく、クールでもあることを思い出させてくれた。そして33mmの時計は、スポーティな金無垢モデルを身につけるのに賢明な方法だ。ちょうどいい派手さである。

Model in Celine and IWC
ジャケット/セリーヌ、ジーンズ/リーバイス。

 ジェンタデザインから派生したIWC インヂュニア(Ref.9727)が持つクリーンなラインは、現代的なステートメントを小さなパッケージのなかに詰め込んだようなデザインだ。確かにインヂュニア SLのRef.1832は、ジェラルド・ジェンタが受け継いできたスポーツウォッチのレガシーのなかでも3番手の少し忘れられた存在として考えられている。しかしインヂュニアは決して高級時計を意図したものではなく、少なくともノーチラスやロイヤル オークのような大げさなつくりではなかった。IWCはオーデマ ピゲやパテック フィリップのような高級時計メーカーではなかったのだ。これはノーチラス 3900や33mm径のヴィンテージロイヤル オークよりも少し安い価格であり、小ぶりな金無垢スポーツウォッチであると主張するには最適な方法である。

 すべてのスポーティウォッチが巨大である必要はない。洗練されていて魅力的であればいいのだ。金無垢ブレスレットに金無垢の時計となると、洗練されたものと派手なものは確かに紙一重だ。そこで重要になるのがサイズである。それ以上のものになると、1980年代のタイムワープから抜け出せなくなっていると言う人もいるかもしれない。しかし意図的に洗練されたIWCは控えめを意味するが、完全に無機質であるということは拒否している。

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ルック3: スポーツウォッチは大きくなくてもいい
 ウィリーチャバリアはニューヨークファッションの定番となっている。カリフォルニア出身のチャバリア(Chavarria)は、1920年代から1990年代にかけてのラテン系デザインと影響を取り入れ、特にチカーノカルチャーを強調している。政治、人種、セクシュアリティをデザインに織り込んだことで知られるチャバリアは、メンズファッションの独自の解釈で高い評価を得ている。彼の服は幅広く展開しているが、多くはシルエット、身体、ジェンダーのアイデンティティを好んでいるのが特徴だ。

 チャバリアはまた、ストリートウェアの創始者であるウィリー・スミス(Willi Smith)をインスピレーションの源として挙げている。スミスは、70年代から80年代にかけて有名になったアメリカの黒人デザイナーである。組織的な認知度は低いものの、ストリートウェアが一般的な言葉となり、ジェンダーフルイドなコレクションが主流になりつつあるなど、スミスはデザインの現状をよりよく理解するためには非常に重要な人物である。

Model in Willy Chavarria and Tudor watch
トップス/ウィリーチャバリア。

 スミスが考案したストリートウェアは、ファッション消費と体験の方法を民主化することを目的としていた。チャバリア同様、ストリートウェアに対する彼の見解は、折衷的で不遜なものであったのだ。彼は柔軟なライフスタイルに役立つデザインを生み出し、ウィメンズウェアとメンズウェアを同レーベルで統一した。

 サイズやプロポーション、性別は、時計のスタイルによっても変えることができる。長めのショートパンツにオーバーサイズのウインドブレーカーを着て、チューダー ミニサブを合わせている姿は、チャバリアの破壊という手法にぴったりだ。また意外性もある。40mm前後のスポーツウォッチは見慣れているが、この32mmという時計は思わず2度見してしまう。

Model in Willy Chavarria and Tudor watch
トップス&ショート/ウィリーチャバリア、シューズ/セリーヌ。

 長いあいだ製造中止となっていたミニサブは、80年代から90年代のチューダー サブマリーナー製品の一部だった。これにはロレックスそっくりの40mm、ミドルサイズの36mm、ミニサブの32mm、そしてレディサブという28mmモデルが含まれていた。つまりミニサブはミドルレンジのオプションとしてラインナップしていたのである。30年前でさえ、32mmのスポーツウォッチを女性用と決めつけるブランドはなかっただろう。

 私はミニサブが大好きで、値段もとてもお手頃だ。1年以上前から購入を検討しており、またロレックスがもっと小さなサブを作ってくれることを時計の神様に毎晩(無駄に)祈っている。だからチューダー ミニサブで私のロレックスの小さな穴を埋めようと思うのだ。

 ミニサブは流動性の好例だ。実にシンプルで、ジェンダーはなく、好みに合わせた時計が必要になる。私たちにはその中間が必要なのだ。

ヘア/リプリゼントのリ・ムリーリョ(Li Murillo)、モデル/リッキーミッシェルのオマール(Omar)、フォトアシスタント/ジェ・キム(Jae Kim)とレイ・ウォーレン(Ray Warren)、スタイリングアシスタント/マテウス・サントス(Mattheus Santos)とジェラルド・ウスカテギ(Gerardo Uzcategui)

エルトン・ジョンがヴィンテージショパールの価値。

エルトン・ジョンのアイテムらしい、大きな赤いEとJのイニシャルがあしらわれたシルバーの厚底ブーツは9万4500ドル(日本円で約1425万円)、レオパード柄のロレックス デイトナは17万6400ドル(日本円で約2660万円)で落札された。900以上のロット(一部は今週のオークションにかけられるものもある)は、ヴェルサーチェの磁器食器からスパンコールで装飾された舞台衣装、また個人所有者がこれまでに販売したものとしては最も多岐にわたる近代写真コレクションに至るまで、個人所有のアイテムを中心に豪奢な品々で構成されている。これはエルトン・ジョンがただのキャンプ(過度な装飾や派手なファッションを好む人)ではなく、過度に好奇心旺盛なコレクターだと言うための前置きである。自身の奇抜さを受け入れ、(ファッショナブルな)皮肉という計算された意図を持っていない、人生を楽しんでいる人物だ。彼は自分の好きなものを熱心に好む。極めて開放的なアプローチである。

数週間前のプレビューには、サファイアセットのカルティエ タンク ノルマル、ダイヤモンドセットのA.ランゲ&ゾーネ サクソニア、ヴァシュロン・コンスタンタンのシャッターウォッチ、その他約20種類のアイテムがあり、どれも非常に魅力的な時計だった。なかでもエルトンの時計のなかで一番好きだったイエローゴールドにサファイアとダイヤモンドをセットしたショパール インペリアーレ クロノグラフを見つけた。それはあまりにも華美で、浮世離れしていて、(派手の代名詞的存在である)リベラーチェのようなものだった。それが引き金となり、私がなぜプロとして仕事をしているのか、その理由を思い出した。突然、私はすべての時計が少し派手で宝石がセットされ、普通ではない形(この例ではパシャ)であってほしいと思うようになった。私が求めていたのは華やかな魅力であって抑制ではなかったのだ。

 一番好きなものといえば、エルトンのコレクションのなかには、大きなダイヤモンドスカルがあしらわれたショパールウォッチがあったが、それは趣味のいい、あえて言えば“クワイエットラグジュアリー”を著しく無視していると受け取られかねなかった。私はそれを、ほかの人が本来軽蔑するような美学に寄り添うことができる不思議な能力だと考えている。例えば子どもたちがハロウィン以外の日に、人前でコスチュームを着るのをよろこんでいることと同じようなものだ。

 これらの非常に風変わりなショパールウォッチが、私を非常に長い深夜の(ショパールがテーマの)インターネットサーフィンへと導いた。私はショパールのジュエリーウォッチのクロスオーバーアーカイブに、ほかにどんな貴重な金塊が隠れているのか調べる必要があった。70年代の幾何学的なストーン文字盤の時計や、90年代のハッピーダイヤモンドのハート型ウォッチは見たことがあったが、世の中にはもっと知られていない、話題になっていない逸品があるに違いないと思ったのだ。カルティエ、ブルガリ、ピアジェ、ブシュロンは、ごく最近まで“ジュエリーブランド”として鼻であしらわれていた。ショパールにも同じように、時計好きの光が当たるときが来たのだろうか?

ジュエリーウォッチ
バングル、カフ、ジュエリーウォッチのハイブリッドモデルが昨年オークションに出品されるなど、70年代製の時計への関心が高まっている。70年代は、あらゆる面において実験的なデザインが登場した。アンドリュー・グリマ(Andrew Grima)によるあいまいなシェイプ、ジルベール・アルベール(Gilbert Albert)によるパテック フィリップのためのアシンメトリックなシェイプ、そしてピアジェによる大量のストーンダイヤルなどだ。ショパールもまた、デザインの独創性(見方によっては狂気)を競うレースの一員であった。下の写真のバングルウォッチは、70年代の美学をよりエレガントに表現するのに特に魅力的な例である。私はシャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)の手首にゆったりと、そしてさりげなく、金無垢モデルがつけられている姿を想像した。確かに70年代はいまや陳腐なスタイルになりつつあるように感じるが、これは実際に何を落札するかよりも、かつてのリスクを称えることなのかもしれない。

ショパール レディス バングルリストウォッチ、18KYG、ダイヤモンド&オニキス&コーラルセッティング、1978年製。Image: Courtesy of Monaco Legend Auctions.

 コーラルとオニキスをあしらったこのカフウォッチは、カルティエのハイジュエリーカタログに載っているようなものだ(私たちが普段見慣れているカフウォッチよりも熱狂感は低い)。飾られることを楽しみ、それでいて洗練された人物、例えばダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland)やルル・ド・ラ・ファレーズ(Loulou de La Falaise)、あるいはニューヨーク社交界の有名人、故ナン・ケンプナー(Nan Kempner)のような魅力的な女性たちにふさわしい。

 私は自称セルペンティの狂信者であり、ブルガリへの忠誠心は揺るぎないものだ。ただこのジェムセットされたショパールのスネークウォッチに魅せられずにはいられない。ヘビはデビッド・ウェッブからカルティエまで、ハイジュエリーブランドのモチーフとして常にあしらわれてきた。彼女たちが成功したのは、上品だからではなく、明確に女性的だからではないだろうか。ガーリーさがなく、センシュアルで力強いのだ。

Chopard Imperiale
インペリアーレ クロノグラフ、18KYG、フルダイヤモンドセッティング、サファイアカボション、1990年代後半製。Image: courtesy of 1st Dibs.

 “控えめ”とは正反対のエルトン・ジョン(ヴェルサーチェの布張りの家具とアラン ミクリのサングラスが好きな過激主義者)のように、私はある種の派手な主張を楽しんでいる。インペリアーレコレクションは1994年に発表され、上の時計は私にとって、90年代のドリームピースである。宝石をふんだんにあしらったこの時代のインペリアーレには、いずれもラグにカボションをあしらっており、(ヴァンドーム広場にある)ナポレオンの像が立つ円柱を想起させる。“この豪華さが気に入っている”。そう語るのは、Four + Oneにも登場した、時計ディーラーのゾーイ・エーブルソン(Zoe Abelson)だ。“ジーンズに似合う時計としてつくられていないが、もしそれに合わせたらとても素敵に仕上がるだろう”。

タイムゾーンウォッチ
 デイリーユースとして取り入れるのが難しく、悪趣味の境界線ギリギリにあるものに目を向けるのは、得意客しか知らないようなロエベの靴を自宅で嬉々として楽しんでいる女性へのアプローチなのだろう。あるいは、これらの時計は気味の悪さとクールさが完璧に交差したものなのだろうか? きっとミセス・プラダなら、“醜くも美しい”と言うのだろう。

4 time zone watch Chopard
18KYG、セカンドタイムの“デュアルタイム”、1971年製。Image: courtesy of Bulang and Sons.

 そもそも心を揺さぶる美しさとは、一体誰が決めるのだろう? たとえシンプルで丸みを帯びたものを好む傾向であっても、気概を持って何かを評価してもいいのではないだろうか。私はそれを物質的な公平無私と呼びたい。“33~36mmという完璧なサイズであり、レザーストラップがついた時刻表示のみのドレスウォッチ”、というようなメッセージがきちんと綴られたオブジェをつくるのではなく、 自信をもって奇妙なことを受け入れることが重要だ。これはまさに70年代的アプローチであり、ウォッチメイキングにも社会にもルールがなかった時代である。

 ショパール クアドラプルタイムゾーンウォッチは、基本的に同社のデュアルタイムモデルをふたつ組み合わせたバージョンであり、4つの個別ムーブメントで構成されている。このようなモデルは、時計学の革新の道を歩んだ過程のなかで生み出されたものでないことは認める。これらは、ジュエリーと時計のハイブリッドメゾンとして認定されたメゾンによるデザインステートメントなのだ。“ヴィンテージショパールは、まだ過小評価されていると思う。このブランドは長いあいだ、コレクターに見過ごされてきたのだ”と、パリを拠点とするディーラー、ジュリアン・トレット(Julien Toretto)は言う。“ショパールの強みはそのデザイン、 特にデュアルタイムにある”。

Vintage Chopard Watch
クチンスキー デュアルタイム、ホワイトゴールド、オニキス&ターコイズ&ストーンダイヤルセッティング、1970年代後半製。Image: courtesy of Watches of Knightsbridge.

 トレットのお気に入りのひとつであり、今では私のお気に入りのひとつでもあるのが、上のRef.5093だ。“これは1970年代、クチンスキーブティックのために極めて絞って生産されたモデルだ(約20本)。サイズは46mm×24mmと当時としては超特大である。さまざまな組み合わせが存在するが、ケースに施されたテクスチャーの遊び文字盤に用いられたプロポーションが、この時計をショパールならではの真に特徴的なデザインにしている”。私と同様、トレットもファッションマニアだ。やや大げさなものとエレガントのあいだにある適切なポイントを突くことは、実は過小評価されるべきではない、非常に大きな偉業であると彼は理解している。

Dual time watch
デュアルタイム、18KYG、1970年代製。

 “ショパールは、ピアジェ、ブルガリ、カルティエの系譜に完璧に当てはまる。しかし、これらのブランドの多くがそうであるように、ジュエリーとウォッチメイキングがクロスオーバーしているにもかかわらず、真剣に受け止められていない” 。私もこれに同意する。インターネットを徘徊していたときに出合った、大量のスリーパーヒットを見ればそう感じる。だから私たちは、昨シーズンのクリスティーズ・ジュネーブにて5万スイスフラン(日本円で約860万円)で落札されたクッサンバンブーや、13万8600スイスフラン(日本円で約2375万円)で落札されたカルティエ ロンドン “ダイス”といった、カルティエという名の祭壇を崇拝している。あるいは、1060万円(税込予価)するリバイバルピアジェ ポロが脚光を浴びているあいだに、ショパールのアーカイブに目をとおし、より手頃な価格の代替品を探してみる価値はあるかもしれない。

サンモリッツウォッチ
 1980年、ショパールはアルパイン イーグルの前身であるサンモリッツを発表した。コレクション名の由来となった、有名なアルペンスキーリゾートの町と密接に結びついた、セクシーで若々しいラグジュアリーなライフスタイル製品を提案するブランドの試みだった。それまでジュエリーと金無垢のドレスウォッチだけに集中していたショパールにとっては、左翼的な動きだったかもしれない。しかしステンレススティール製のスポーツウォッチが市場を支配するトレンドに乗ることは納得できる。1980年は、このような製品が誕生した時間軸のなかでも最後のほうであることは認めるが、その時点で誰が先駆者だったかを気にする必要はあるだろうか?

 サンモリッツの物語は1980年に始まる。その後1982年のバーゼルで発表され、1983年末に店頭に並び、SS、ツートン(SSとYG)、金無垢YGの3種類で販売された。そのあとジェムセッティングや、スケルトン加工が施された興味深いモデルも登場した。

Chopard Skeleton
サンモリッツ スケレット、1980年代製。Image: courtesy of Phil Toledano.

 “70年代すぎず、ちょうどいい。十分なおもしろさがあって美しい。ちょうどいい驚きがある”。そう話したのはTalking Watchesのゲストでありコレクターのフィル・トレダノ(Phil Toledano)だ。自身が最近購入したというサンモリッツ スケルトンについてこう語る。噂によると、スケルトナイズは実際にはアーミン・シュトロームによって行われたというが、私はこの事実をまだ確認していない。

 “(初期の)スケルトンウォッチで重要なのは、スケルトナイズすると、ほとんどのスケルトンウォッチが同じように見えるということ。このデザインは、信じられないほどの汎用性を持っているのだ”。トレダノは続けて、“私が本当に驚いたのは、その時計のベゼルだった。ショパールのことは何も知らなかったが、スケルトナイズされたサンモリッツを見たとき、全体を引き立てていたこの非常に興味深くて珍しいベゼルの形状に引き込まれたのだ”。

St Moritz Rainbow
サンモリッツ レインボー、1984年製。Image: Courtesy of 1st Dibs.

 1984年、ショパールはサンモリッツのオリジナルモデルに続いて、ダイヤモンドとカラーストーンをセットしたサンモリッツ レインボーウォッチを発売。レインボーセッティングの登場としては信じられないほど早かった。もちろん、レインボーロレックス チェリーニはこの10年のごく初期に登場したと思われる。

 ショパールは70年代から80年代にかけて、私たちの好きなブランドと同じデザインのアイデアをたくさん持っていた。これらの時計は、ロレックスのように宝石をセッティングし、ピアジェやパテックのようにブレスレットやケースに金属細工を施したものと同じである。トレットはこれを“ファンタジーウォッチ”と呼んでいるが、このセグメントはあまり評価されておらず、むしろしばしば否定されている。エルトンのようにショパールを探して、エキセントリックな一面を受け入れてみてはいかがだろうか。現代的な型にはまらない、少し自由なヴィンテージを探してみては。

ルイ・ヴィトン 3本の新作でハイエンドな時計製造技術を披露

クラフトマンシップと高度な時計製造技術が融合した、LVによる3本のハイウォッチメイキングピースが誕生した。

ルイ・ヴィトンは新作のフライング トゥールビヨンに加えて、ジュネーブにあるラ・ファブリク・デュ・タンで製造した超高級時計の数々を発表した。いずれも8桁を超える価格だが、いずれも世界最大のラグジュアリーブランド以外ではなかなかお目にかかれない、クラフトマンシップと高度な時計製造技術の融合が存分に発揮されている。それでは見てみよう。

タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ サファイア フランク・ゲーリー

初のハイウォッチメイキングピースのために、LVは建築家であり長年の共同研究者であるフランク・ゲーリー(Frank Gehry)氏と協力して、サファイア製フライング トゥールビヨンを開発した(ジュネーブ・シール認定も取得済み)。約100万ドルするこの限定5点のために、ゲーリー氏は過去の建築物からインスピレーションを得たアイデアをルイ・ヴィトンのためにデザインし、ケースと文字盤には2022年のタンブール ムーン サファイアを採用した。ケース、ラグ、文字盤、リューズにサファイアを用い、またスケルトナイズされたローズゴールド製ムーブメントと相まって、結果的に軽快な雰囲気を醸し出す。サファイアダイヤルは手作業でポリッシュ仕上げされているが、5本しか作らないならそのほうがいいだろう。

このムーブメントは、ジュネーブ郊外にあるLVの工房、ラ・ファブリク・デュ・タンの魔法使いたちが製造している。同ムーブメントの特徴は1分に1回転するフライングトゥールビヨンを搭載すること、そしてジュネーブ・シール認定を受けているところだ。

単に時間を表示するだけでなく、着用者の手首にフィットするような構造である。サファイアとスケルトンはゲーリーの美学とマッチした現代的な雰囲気を醸し出していて、カルペ・ディエムのようなものに比べると新鮮に感じるだろう。

ルイ・ヴィトン タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ サファイア フランク・ゲーリー。サファイア製ケース、直径43.8mm、厚さ11.27mm。ハンドポリッシュ仕上げのサファイア製文字盤、サファイア製針、サファイア製リューズ、サファイア製ラグ。Cal.LFTMM05.01、160個の部品から成るスケルトナイズドフライングトゥールビヨン、ジュネーブ・シール取得。約80時間パワーリザーブ、2万1600振動/時。世界限定5本。メーカー希望小売価格は93万5000ドル(日本円で約1億3785万円)。

エスカル キャビネット オブ ワンダーズ

ドラゴンクラウド。

コイガーデン。

続いて、ルイ・ヴィトンはエスカルシリーズの新トリオを発表した。それぞれの限定モデルは、20世紀の長きにわたって率いたガストン-ルイ・ヴィトン(Gaston-Louis Vuitton)のコレクションからインスピレーションを得ている。エスカル キャビネット オブ ワンダーズは、①コイガーデン、②ドラゴンクラウド、③スネークジャングルの3種類で展開する。いずれも20本限定で、希望小売価格は26万9000ドル(日本円で約3965万円)だ。それぞれ異なる文字盤をつくるために、さまざまな職人技と芸術的技術を駆使している。

スネークジャングル。

なかでも“スネークジャングル”は傑出していると思う。ジャングルの情景を表現するために、さまざまな木材、羊皮紙、藁を使用してそれらをすべて手作業でカットし、組み立てているのだ。このダイヤルは全部で267個ものパーツを組み合わせて作り上げているが、特筆すべきはそれだけではない。文字盤を横切るスネークもまた、マイクロ彫刻、エングレービング、シャンルヴェ エナメルを組み合わせて立体的になっているのだ。

ブランドはこの3本の新しいエスカルウォッチを、リニューアルしたエスカルコレクションの第1弾であると発表している。ミドルケースまで伸びる、手作業で研磨されたラグは、ルイ・ヴィトンの伝統的なトランクのブラケット(金具)を連想させるなど、ケースデザインのなかでも際立っている。エスカル キャビネット オブ ワンダーズコレクションのモデルはすべて40mm径の金無垢ケースで、内部にはCal.LFT023を採用する。Cal.LFT023は、約50時間パワーリザーブ、2万8800振動/時で時を刻む自動巻きムーブメントだ。

ルイ・ヴィトン エスカル キャビネット オブ ワンダーズ。①コイガーデン(ブルー)、②ドラゴンクラウド(レッド)、③スネークジャングル(グリーン)。それぞれ異なるメティエダール(芸術的な手仕事)の文字盤が特徴で、さまざまな職人技を用いている。例えば“スネークジャングル”は木材、藁、羊皮紙から作られた文字盤を(寄木細工師の)ローズ・サヌイユが手作業で組み立て、そこに(エングレーバーの)エディ・ジャケが手彫りでゴールドスネークと葉を、(エナメル職人の)ヴァネッサ・レッチはシャンルヴェ エナメルを施している。“スネークジャングル”はホワイトゴールド製ケース(40mm径)にエングレービングベゼルと翡翠のリューズを採用。新作のエスカル キャビネット オブ ワンダーズにはすべて、自動巻きCal.LFT023を搭載。世界限定各20本。スネークジャングルのメーカー希望小売価格は26万9000ドル(日本円で約3965万円)。

タンブール スリム ヴィヴィエンヌ ジャンピングアワー サクラ&アストロノート
最後にルイ・ヴィトンはタンブール ジャンピングアワーの新作、“サクラ”と“アストロノート”を発表した。ルイ・ヴィトンはちょっとしたミステリアスな演出として、2017年に誕生したキャラクター、ヴィヴィエンヌを“マスコット”にしたという。そこでタンブール ジャンピングアワーの新作では、そのマスコットをふたつの遊び心あふれるモチーフで表現。ひとつ目のサクラは、日本の桜からインスピレーションを得ており、文字盤に花やモノグラム、ピンクのマザー オブ パール(MOP)をあしらっている。ふたつ目のアストロノートは小さなヴィヴィを、いくつかの惑星が描かれた青いMOPアベンチュリン文字盤(宇宙)に送り出し、さらに彼女の周りにはダイヤモンドがひたすら軌道を周回している。

サクラの文字盤をハンドペイントする様子。

いずれもダイヤモンドをセットした38mm径のホワイトゴールド製ケースに、ヴィヴィエンヌが収められている。またLFdT(ラ・ファブリク・デュ・タン)が開発・組み立てたジャンピングアワー機構のCal.LV180は、ふたつの小窓で時間を示す。これらのジャンピングアワーウォッチは、LVの工芸と高級時計製造という専門知識を融合させ、LVらしい印象的なモデルとして表現している。

ルイ・ヴィトン タンブール スリム ヴィヴィエンヌ ジャンピングアワー サクラ&アストロノート。ホワイトゴールド製ケース、直径38mm、厚さ12.2mm。ケースにはブリリアントカットダイヤモンドと、ローズカットダイヤモンド(0.2カラット)をあしらい、ダイヤモンドは合計で3.8カラット以上。メーカー希望小売価格は11万8000ドル(日本円で約1740万円)。

A.ランゲ&ゾーネ ダトグラフ・アップ/ダウン 25周年限定モデル。

ダトグラフの誕生25周年を記念した、ホワイトゴールド製限定モデル。

1999年に発表されたダトグラフはランゲ初のクロノグラフであり、以来、このモデルはランゲにおいてもっとも印象的なウォッチメイキングのプラットフォームとなっている。今回、Watches & Wonders 2024、そしてダトグラフ誕生25周年を記念して、ランゲはホワイトゴールドケースにブルーの文字盤を収めた限定モデルを発表した。わずか125本しか製造されないこのダトグラフは、パワーリザーブを備え、ダトグラフ・アップ/ダウンの現行コレクションにはないケース素材とダイヤルカラーの両方を提供する。

ランゲの30周年記念の一端を成すこの限定ダトグラフ(Ref.405.028)は、現行モデル(プラチナまたはピンクゴールド製、いずれもブラック文字盤)のフォーマットを踏襲している。2018年に200本限定モデルとして発表されたダトグラフ・アップ/ダウン“ルーメン”と同様に、このブルーダイヤルモデルも魅力的なフォーマットを採用した特別な新作として発表された。幅41mm、厚さ13.1mmのRef.405.028は、中央の時分針による時刻表示に加えて、フライバッククロノグラフ、1分ごとにジャンプする経過分表示、2桁のアウトサイズ日付表示、パワーリザーブインジケーターを備えている。操作系では、従来型のリューズ、クロノグラフ用のふたつのプッシャー、そして日付表示のクイックセット用の調整機構が設けられている。

これらの機能はすべて、ランゲの手巻きムーブメント L951.6に組み込まれている。このムーブメントは、2012年のダトグラフ アップ/ダウンのために開発されたものだ(当時の記事はこちら)。約451個の部品で構成されるCal.L951.6は1万8000振動/時で時を刻み、60時間のパワーリザーブを備えている。これはランゲのなかでも特別なムーブメントであり、その大部分はジャーマンシルバー製で、ひとつひとつの部品は(手彫りのテンプ受けにいたるまで)手作業で美しく仕上げられている。

この150本限定のホワイトゴールド製ダトグラフは、まさにランゲコレクターに向けられた特別なモデルだ。そのため、現在ランゲのウェブサイトに掲載されているダトグラフ・アップ/ダウン同様に、価格情報は公開されていない。ランゲに聞いてみたところ、詳しい情報については最寄りの販売店に問い合わせて欲しいとのことだった。

我々の考え
すでにランゲは、ダトグラフ・アップ/ダウンでルーメンという切り札を切っている。そのことを踏まえると、この控えめなブルーダイヤルの時計は、ダトグラフの25回目の誕生日をブランドからのスペシャルな限定モデルで迎えたいというファンに素晴らしい選択肢を提供するためのものなのだろうと思う。確かに話題性という意味では、いまひとつかもしれないが、ホワイトゴールドとブルーのダイヤルはこのダトグラフにとてもよく似合っている。また、その対称的なダイヤルデザインが印象的なこのモデルをじっくりと眺める時間は、いつだって楽しいものだ。

発売から25年が経ったいま、ダトグラフが(ランゲにとっても高級時計のコレクターにとっても)これほどまでに特別な作品である理由がわからないというなら、2020年にコール・ペニントンがHODINKEEに寄稿したこのモデルに関する素晴らしいIn-Depth記事を読むことをおすすめする。ダトグラフはランゲのなかでも特別かつ特異なタッチポイントであり続けており、まだ若いブランドであるランゲをコレクター心をくすぐる格別な存在へと押し上げている。A.ランゲ&ゾーネが30歳の誕生日を迎えるにあたり、ダトグラフと過去25年間にわたるブランドの歩みに敬意を表そうとするのは当然のことだろう。

基本情報
ブランド: A.ランゲ&ゾーネ(A. Lange & Söhne)
モデル名: ダトグラフ・アップ/ダウン 限定モデル(Datograph Up/Down Limited Edition)
型番: 405.028

直径: 41mm
厚さ: 13.1mm
ケース素材: ホワイトゴールド
文字盤色: ブルー
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ブルーのアリゲーターストラップと18Kホワイトゴールドのピンバックル

ムーブメント情報
キャリバー: ランゲ製L951.6
機能: 時・分表示、スモールセコンド、センターフライバックセコンド付きクロノグラフ、ジャンピングミニッツ、パワーリザーブ表示、グランドデイト表示
直径: 30.6mm
厚さ: 7.9mm
パワーリザーブ: 60時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 1万8000振動/時(2.5 Hz)
石数: 46

ロレックス ホワイトダイヤルのエクスプローラーがクリスティーズ・ジュネーブに登場

ロレックスのスポーツウォッチファミリーのなかでは“弟分”といえる存在で、私にとって最初のロレックスだった。しかしオークションでレアなデイトナやサブ、GMTが高額で取引されるたびに、エクスプローラーはその話題から外れてしまうことが多い。だからこそ、クリスティーズ・ジュネーブの5月のカタログを開き、この時計を見つけたときには、すぐに取り上げるべきだと思った。これはきわめて希少な時計であり、なによりエクスプローラーである。

1958年製のこの時計は、よく見かける1016の前身となるRef.6610だ。ケースコンディションは素晴らしく、ラグも厚くてすべてがオリジナル…ホワイト文字盤を含めすべてがオリジナルである。そう、ホワイトだ。多くの人が知っているように、サブマリーナー、GMT、そしてエクスプローラーはすべて黒いダイヤルを持つ。しかし、そうでない時もある。時折きわめて珍しいホワイトダイヤルのスポーツウォッチが現れ、その際に“偽物だ”と主張する人もいれば、“これは素晴らしい”と称賛する人もいる。エリック・クーが正真正銘のホワイトダイヤル サブマリーナーを紹介してくれたことがある。また、パンナム(PAN-AM)の幹部がホワイトダイヤルの6542 GMTを受け取ったという噂もあるが、これは今も確認されていない(編注;2015年にはホワイトダイヤルの6542 GMTが発見されている。記事はこちらから)。

ロレックスの時計にまつわる疑念こそが、コレクションをやりがいのあるものにしている。ロレックスは決してホワイトダイヤルのエクスプローラーを製造したとは認めないが、多くの人は、どんなに希少であってもそれが事実だと信じている。そしてクリスティーズはこの時計が間違いなくオリジナルであることを証明するために、相当な努力をしたと断言している。そのためこの時計は超希少であり、魅力的な存在となっている。我々が実際にホワイトダイヤルのエクスプローラーを目にしたのはこれが初めてだった。クリスティーズ・ジュネーブでは、この希少な時計を1万スイスフランから1万5000スイスフラン(US記事は1万ドルから1万6000ドルで記載、当時の相場で約105万~165万円)のあいだで取り扱っている(編注;落札価格は17万1750スイスフラン、当時の相場で約1790万円)。