メンズ、そしてレディスのための小ぶりな時計のスタイリング。

スタイルエディターのマライカ・クロフォードが愛用の腕時計をより最高の状態にするための方法を紹介するHow To Wear Itへようこそ。このセクションではスタイリングのコツから現代におけるファッションの考察、歴史的な背景、ときには英国流の皮肉も織り交ぜて、その魅力をお伝えしていこう。

男性が小さな時計することは、私が今まで疫病のように避けてきた話題だ。ただでさえ騒がしい場所で、さらに騒がしい暴言。時代精神的な論争であれば、すぐに自分の立場を時計に関するインターネットに知らせるといういつものやり方とは異なり、私はこの論争に参加する前に瞑想し、潜伏し、自分の考えを静かに振り返ってから意見を述べた。このテーマを慎重に扱うことが重要だと感じた。

 男性が33mmの時計をしたり、女性が41mmの時計をつけることが境界を超えることだという考えは、少なくとも私のなかでは滑稽なことだ。時計の直径について議論してばかりすることは、精神的に完全に萎えてしまうほど私をイライラさせる。

 時計の直径が小さいという論調に持ち込むのではなく、議論を再構成しようと試みたい。時計業界にいる誰もが、同じように存在しない悟りの境地に達することを願いながら、同じように現代の時計市場の沼地を苦労して歩いているのではないだろうか? ブランドが単にヴィンテージの栄光に安住するのではなく、先を見据えている場所、つまり意図的な建設であり、高い基準を維持し、サイズレンジは多様で、浅はかなジェンダー主導のマーケティングとは無縁なところだ。

 これはもはや男性のための小さいサイズと、女性のための大きいサイズの話ではなく、すべての人にとっての流動性の話であるのだ。

Model in Tudor Mini Sub
 ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)が男性のワードローブから快適な着心地と統一性の重要な要素を借りて以来、現代ファッションの基礎となっているスーツを例に見てみる。このわかりやすいスタイルは、90年代のジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)がアンコンストラクテッドスーツを発表したことで、さらに高みに達した。もちろんアルマーニよりも先にサンローラン(Mr. Saint Laurent)が登場し、その肩幅の広い“スモーキング”ジャケットは、女性、フェミニスト、ファッション中毒者らに、鎧としての衣服を通じて一種の自信を与えた。

 今度はその逆だ。セリーヌのクリエイティブディレクターであるエディ・スリマン(Hedi Slimane)は、男らしさを定義する必要性を感じていない。彼はそれを広くオープンにし、アンドロジニー(両性具有)を服の軸に据えることでジェンダーの二元性を解体することを選んだ。スリマンは2000年にディオールオムの指揮下に入り、スキニーシルエットの普及を通じてメンズウェアを根本的に変えた。

 かつてグッチのクリエイティブディレクターを務めていたアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)は、過去の華やかさに魅了されながらも、クリエイティブな表現の自由を前進させようと躍起になり、全世代のドレッシングにインスピレーションを与えた。キャスティングや服装に関しては、ほとんどあらゆるものを受け入れる彼の絶対的な包容力により、ファッション界の政治を形成し、クールさと美しさという一般的な定義を根底から覆した。ミケーレは、性別が二項で表現されることのない、奇抜さのためのクラブのようなものを作り上げたのだ。

 というのも私が初めて時計の世界に足を踏み入れたときは、現状が実に流動的なバックグラウンドを持っていたために、1歩引いて考えなければならなかった。サンローランの“スモーキング”に身を包んだベティ・カトルー(Betty Catroux)のような過去のアイコンを偶像化し、エディの持つサブカルチャーのシルエットで構成された強烈なビジュアルストーリーにそのままのめり込んだ。確かに、プレタポルテのファッションは今でもジェンダーで分けられているが、今日ではこれらのショーは男女混合であることが多く、さらにその分断されたアイデアは、精神やシルエットではなく、フィット感とサイズという避けられないロジスティクスを中心にしている。

 ファッションには境界線がほとんどない。“両サイド”が交錯と交換を繰り返す。誰も気にしていない、当たり前のことだ。商業的な現実は、ほとんどの場合、小売レベルでまだ性別によってコレクションが分けられていることを意味する。しかしクリエイティブな表現が、厳密な男女の二元性の上に存在すると考えているような時計ブランドとは異なり、両者のビジョンには創造的な統一性がある。

 私たちは、性別を表面的に定義し、時計の正しいサイズやドレススタイルについて議論するというのは、もう過去のことではないだろうか? 身につけるものを選ぶのは自分の直感を探ることだ。自分に合ったパレットとスタイルを形成するべきである。すべてを手に入れることができるのに、なぜどちらか一方のみ選ぶのか?

 これは商業的な敗北を、個人的なスタイルの勝利に変えるというアイデアだ。過去20年以上にわたって業界の商業的側面を覆ってきた、陳腐化したメッセージと蔓延する単調さに逆らって、小ぶりなヴィンテージウォッチを身につけてみてはいかがだろうか。それは、より小さなパッケージにおけるプロポーションと意図的なデザインの追求である。How To Wear Itセクションは、口論を行うのではなく、私の職業上での視点に過ぎない。そして小径の時計は、身につける人が誰であろうと、その背後に同じくらいの考えと意図を持つに値すると主張したいのだ。

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ルック1: 伝統的な小ぶりモデル
Model in Gucci and Patek. 5026g
ジャケット&パンツ&ベルト/グッチ、Tシャツ/チェリー・ヴィンテージ。

 ボンバージャケットはとても90年代的だが、50年代風でもある。実際、私がボンバージャケットを着たり、ボンバージャケットで誰かをスタイリングするとき、私は心のなかで『欲望という名の電車(原題:A Streetcar Named Desire)』のマーロン・ブランド(Marlon Brando)か、『トレインスポッティング』のユアン・マクレガー(Ewan McGregor)という、二項対立のあいだで精神的に揺れ動いている。まったく異なるふたりのキャラクターと、まったく異なるふたつのスタイルのボンバージャケットだ。マーロン・ブランド寄りのほうが無難だと思うし、より健康的な美学を叩き込む方が安全だとも思う。しかし、もしあなたが30歳未満で、90年代のハシエンダレイブ(ひと晩中音楽をかけて踊り続ける)のダンスフロアから切り取ったような美学を披露することができれば、それは素晴らしいことである。

 時計はパテック フィリップのRef.5026Gで、50年代と90年代のルックの中間をいくようなスタイルだ。現在のカラトラバよりもクラシカルな34mmサイズは、全体的に90年代のデザインチームが40年前にコスプレを目指していたかのような外観と雰囲気を備える。とはいえ、4時位置のスモールセコンドダイヤルには“モダン”な魅力と風変わりさが十分にある。なんというか、このパテックがわずか20年前に発表され、2002年にカタログから消えたとは信じがたい。

 ここで質問。朝の身支度はどのようにしているか? そして、時計は身支度にどのように関わってくるか? 起床する8時間前から、どのセーターがどのパンツに合うかを慎重に計算しているか? ドライクリーニングしたシャツを色別に整理してクローゼットにきちんと吊るし、ワードローブが白から黒までのシャツの袖でグラデーションのようになっているだろうか? タイド トゥ ゴースティック(携帯用シミ抜きペン)を持っているだろうか? おそらく、あなたが以上のような行動パターンを取れるなら、カラトラバは向いていると思う。このクリーンで、エレガントかつ伝統的なデザインは、あなたの丁寧な日常に溶け込むことだろう。

ジャケット&パンツ&ベルト/グッチ、Tシャツ/チェリー・ヴィンテージ。

 そして従来のスタイルを断ち切りたい場合も、このような外観のカラトラバはとてもいい選択肢だ。プロポーションを少し遊んでいるだけで、わかりやすいスタイルである。オーバーサイズのボンバージャケットだが、クロップド丈で裾を絞っているため、バギーではなくボリューム感が出ており、そのシルエットがモダンな印象を与えている。また無駄のないハイカットパンツは、50年代をほうふつとさせる伝統的なデザインだ。しかしここで注意。ハイウエストのパンツにタック入りのTシャツとベルトという組み合わせは、『ウエスト・サイド・ストーリー』のキャラクターのコスプレに似てしまう危うさがある。私たちは決して、“コスチューム”として見せたいわけではない。

 腕を伸ばして袖を上げると…ジャジャーン! その下に眠るお宝が姿を現れる。それに勝るものはない。

ルック2: イエローゴールドを身につける絶妙な方法
Model in Celine and IWC
ジャケット&シューズ/セリーヌ、ジーンズ/リーバイス。

 エディ・スリマンのバックカタログは、“積極的”なマスキュリンスタイルに多大な影響を与えた。スキニーシルエットの達人であり、ニューウェーブの音楽と文化の崇拝者であるスリマンの計画は常に流動的であった。もちろん、かつてディオールのランウェイにあったものは、最終的には大衆に伝わり、地元の古着屋で悲劇の山へと追いやられる。例えば、スリマンの定番であるスキニージーンズ。これが一般的となったとき、予想どおりのことが起こった。彼らはクールさを失ったのだ。しかしスリマンはどうにかして2000年代初頭の文化を悲劇的に後退させることなく活用した。彼は商業的な現実をビジョンに吸収し、コンセプチュアルではなくむしろエフォートレスに見える服装を製作した。まるで2007年頃のケイト・モス(Kate Moss)とピート・ドハティ(Pete Doherty)の熱狂的な夢のようである。

 これはスリムなシルエットをキープすることで、スーツを着なくても洗練された印象に見えるモダンな着こなし方法だ。ジャケットは作りがしっかりしているため、それなりに厳格ではある。しかし装飾や色、ヴィンテージを参考にすることで、ジャケットの個性をよりルーズにしている。スリマンのファッションは、それ自体が男性的な肖像画の一種であり、女性にも同程度通用するほどフレキシブルだ。

 温かみのあるベージュのような、あるいはキャメルのようなトーンは、ゴールドウォッチを合わせたら最適だ。温かみがあって濃厚で、引き締まって見える。そしてゴールドのボタンに合わせて輝くゴールドの時計よ、ハロー! 私をよく知る読者なら、私が今、天国にいることを知っているはずだ。ただ1985年の『特捜刑事マイアミ・バイス(原題:Miami Vice)』に出演したマイルス・デイヴィス(Miles Davis)が、金無垢のロレックス デイデイトを身につけている写真を見て考えさせられた。そしてその写真を見て、金無垢の時計をしている男性は、みっともないだけでなく、クールでもあることを思い出させてくれた。そして33mmの時計は、スポーティな金無垢モデルを身につけるのに賢明な方法だ。ちょうどいい派手さである。

Model in Celine and IWC
ジャケット/セリーヌ、ジーンズ/リーバイス。

 ジェンタデザインから派生したIWC インヂュニア(Ref.9727)が持つクリーンなラインは、現代的なステートメントを小さなパッケージのなかに詰め込んだようなデザインだ。確かにインヂュニア SLのRef.1832は、ジェラルド・ジェンタが受け継いできたスポーツウォッチのレガシーのなかでも3番手の少し忘れられた存在として考えられている。しかしインヂュニアは決して高級時計を意図したものではなく、少なくともノーチラスやロイヤル オークのような大げさなつくりではなかった。IWCはオーデマ ピゲやパテック フィリップのような高級時計メーカーではなかったのだ。これはノーチラス 3900や33mm径のヴィンテージロイヤル オークよりも少し安い価格であり、小ぶりな金無垢スポーツウォッチであると主張するには最適な方法である。

 すべてのスポーティウォッチが巨大である必要はない。洗練されていて魅力的であればいいのだ。金無垢ブレスレットに金無垢の時計となると、洗練されたものと派手なものは確かに紙一重だ。そこで重要になるのがサイズである。それ以上のものになると、1980年代のタイムワープから抜け出せなくなっていると言う人もいるかもしれない。しかし意図的に洗練されたIWCは控えめを意味するが、完全に無機質であるということは拒否している。

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ルック3: スポーツウォッチは大きくなくてもいい
 ウィリーチャバリアはニューヨークファッションの定番となっている。カリフォルニア出身のチャバリア(Chavarria)は、1920年代から1990年代にかけてのラテン系デザインと影響を取り入れ、特にチカーノカルチャーを強調している。政治、人種、セクシュアリティをデザインに織り込んだことで知られるチャバリアは、メンズファッションの独自の解釈で高い評価を得ている。彼の服は幅広く展開しているが、多くはシルエット、身体、ジェンダーのアイデンティティを好んでいるのが特徴だ。

 チャバリアはまた、ストリートウェアの創始者であるウィリー・スミス(Willi Smith)をインスピレーションの源として挙げている。スミスは、70年代から80年代にかけて有名になったアメリカの黒人デザイナーである。組織的な認知度は低いものの、ストリートウェアが一般的な言葉となり、ジェンダーフルイドなコレクションが主流になりつつあるなど、スミスはデザインの現状をよりよく理解するためには非常に重要な人物である。

Model in Willy Chavarria and Tudor watch
トップス/ウィリーチャバリア。

 スミスが考案したストリートウェアは、ファッション消費と体験の方法を民主化することを目的としていた。チャバリア同様、ストリートウェアに対する彼の見解は、折衷的で不遜なものであったのだ。彼は柔軟なライフスタイルに役立つデザインを生み出し、ウィメンズウェアとメンズウェアを同レーベルで統一した。

 サイズやプロポーション、性別は、時計のスタイルによっても変えることができる。長めのショートパンツにオーバーサイズのウインドブレーカーを着て、チューダー ミニサブを合わせている姿は、チャバリアの破壊という手法にぴったりだ。また意外性もある。40mm前後のスポーツウォッチは見慣れているが、この32mmという時計は思わず2度見してしまう。

Model in Willy Chavarria and Tudor watch
トップス&ショート/ウィリーチャバリア、シューズ/セリーヌ。

 長いあいだ製造中止となっていたミニサブは、80年代から90年代のチューダー サブマリーナー製品の一部だった。これにはロレックスそっくりの40mm、ミドルサイズの36mm、ミニサブの32mm、そしてレディサブという28mmモデルが含まれていた。つまりミニサブはミドルレンジのオプションとしてラインナップしていたのである。30年前でさえ、32mmのスポーツウォッチを女性用と決めつけるブランドはなかっただろう。

 私はミニサブが大好きで、値段もとてもお手頃だ。1年以上前から購入を検討しており、またロレックスがもっと小さなサブを作ってくれることを時計の神様に毎晩(無駄に)祈っている。だからチューダー ミニサブで私のロレックスの小さな穴を埋めようと思うのだ。

 ミニサブは流動性の好例だ。実にシンプルで、ジェンダーはなく、好みに合わせた時計が必要になる。私たちにはその中間が必要なのだ。

ヘア/リプリゼントのリ・ムリーリョ(Li Murillo)、モデル/リッキーミッシェルのオマール(Omar)、フォトアシスタント/ジェ・キム(Jae Kim)とレイ・ウォーレン(Ray Warren)、スタイリングアシスタント/マテウス・サントス(Mattheus Santos)とジェラルド・ウスカテギ(Gerardo Uzcategui)

エルトン・ジョンがヴィンテージショパールの価値。

エルトン・ジョンのアイテムらしい、大きな赤いEとJのイニシャルがあしらわれたシルバーの厚底ブーツは9万4500ドル(日本円で約1425万円)、レオパード柄のロレックス デイトナは17万6400ドル(日本円で約2660万円)で落札された。900以上のロット(一部は今週のオークションにかけられるものもある)は、ヴェルサーチェの磁器食器からスパンコールで装飾された舞台衣装、また個人所有者がこれまでに販売したものとしては最も多岐にわたる近代写真コレクションに至るまで、個人所有のアイテムを中心に豪奢な品々で構成されている。これはエルトン・ジョンがただのキャンプ(過度な装飾や派手なファッションを好む人)ではなく、過度に好奇心旺盛なコレクターだと言うための前置きである。自身の奇抜さを受け入れ、(ファッショナブルな)皮肉という計算された意図を持っていない、人生を楽しんでいる人物だ。彼は自分の好きなものを熱心に好む。極めて開放的なアプローチである。

数週間前のプレビューには、サファイアセットのカルティエ タンク ノルマル、ダイヤモンドセットのA.ランゲ&ゾーネ サクソニア、ヴァシュロン・コンスタンタンのシャッターウォッチ、その他約20種類のアイテムがあり、どれも非常に魅力的な時計だった。なかでもエルトンの時計のなかで一番好きだったイエローゴールドにサファイアとダイヤモンドをセットしたショパール インペリアーレ クロノグラフを見つけた。それはあまりにも華美で、浮世離れしていて、(派手の代名詞的存在である)リベラーチェのようなものだった。それが引き金となり、私がなぜプロとして仕事をしているのか、その理由を思い出した。突然、私はすべての時計が少し派手で宝石がセットされ、普通ではない形(この例ではパシャ)であってほしいと思うようになった。私が求めていたのは華やかな魅力であって抑制ではなかったのだ。

 一番好きなものといえば、エルトンのコレクションのなかには、大きなダイヤモンドスカルがあしらわれたショパールウォッチがあったが、それは趣味のいい、あえて言えば“クワイエットラグジュアリー”を著しく無視していると受け取られかねなかった。私はそれを、ほかの人が本来軽蔑するような美学に寄り添うことができる不思議な能力だと考えている。例えば子どもたちがハロウィン以外の日に、人前でコスチュームを着るのをよろこんでいることと同じようなものだ。

 これらの非常に風変わりなショパールウォッチが、私を非常に長い深夜の(ショパールがテーマの)インターネットサーフィンへと導いた。私はショパールのジュエリーウォッチのクロスオーバーアーカイブに、ほかにどんな貴重な金塊が隠れているのか調べる必要があった。70年代の幾何学的なストーン文字盤の時計や、90年代のハッピーダイヤモンドのハート型ウォッチは見たことがあったが、世の中にはもっと知られていない、話題になっていない逸品があるに違いないと思ったのだ。カルティエ、ブルガリ、ピアジェ、ブシュロンは、ごく最近まで“ジュエリーブランド”として鼻であしらわれていた。ショパールにも同じように、時計好きの光が当たるときが来たのだろうか?

ジュエリーウォッチ
バングル、カフ、ジュエリーウォッチのハイブリッドモデルが昨年オークションに出品されるなど、70年代製の時計への関心が高まっている。70年代は、あらゆる面において実験的なデザインが登場した。アンドリュー・グリマ(Andrew Grima)によるあいまいなシェイプ、ジルベール・アルベール(Gilbert Albert)によるパテック フィリップのためのアシンメトリックなシェイプ、そしてピアジェによる大量のストーンダイヤルなどだ。ショパールもまた、デザインの独創性(見方によっては狂気)を競うレースの一員であった。下の写真のバングルウォッチは、70年代の美学をよりエレガントに表現するのに特に魅力的な例である。私はシャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)の手首にゆったりと、そしてさりげなく、金無垢モデルがつけられている姿を想像した。確かに70年代はいまや陳腐なスタイルになりつつあるように感じるが、これは実際に何を落札するかよりも、かつてのリスクを称えることなのかもしれない。

ショパール レディス バングルリストウォッチ、18KYG、ダイヤモンド&オニキス&コーラルセッティング、1978年製。Image: Courtesy of Monaco Legend Auctions.

 コーラルとオニキスをあしらったこのカフウォッチは、カルティエのハイジュエリーカタログに載っているようなものだ(私たちが普段見慣れているカフウォッチよりも熱狂感は低い)。飾られることを楽しみ、それでいて洗練された人物、例えばダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland)やルル・ド・ラ・ファレーズ(Loulou de La Falaise)、あるいはニューヨーク社交界の有名人、故ナン・ケンプナー(Nan Kempner)のような魅力的な女性たちにふさわしい。

 私は自称セルペンティの狂信者であり、ブルガリへの忠誠心は揺るぎないものだ。ただこのジェムセットされたショパールのスネークウォッチに魅せられずにはいられない。ヘビはデビッド・ウェッブからカルティエまで、ハイジュエリーブランドのモチーフとして常にあしらわれてきた。彼女たちが成功したのは、上品だからではなく、明確に女性的だからではないだろうか。ガーリーさがなく、センシュアルで力強いのだ。

Chopard Imperiale
インペリアーレ クロノグラフ、18KYG、フルダイヤモンドセッティング、サファイアカボション、1990年代後半製。Image: courtesy of 1st Dibs.

 “控えめ”とは正反対のエルトン・ジョン(ヴェルサーチェの布張りの家具とアラン ミクリのサングラスが好きな過激主義者)のように、私はある種の派手な主張を楽しんでいる。インペリアーレコレクションは1994年に発表され、上の時計は私にとって、90年代のドリームピースである。宝石をふんだんにあしらったこの時代のインペリアーレには、いずれもラグにカボションをあしらっており、(ヴァンドーム広場にある)ナポレオンの像が立つ円柱を想起させる。“この豪華さが気に入っている”。そう語るのは、Four + Oneにも登場した、時計ディーラーのゾーイ・エーブルソン(Zoe Abelson)だ。“ジーンズに似合う時計としてつくられていないが、もしそれに合わせたらとても素敵に仕上がるだろう”。

タイムゾーンウォッチ
 デイリーユースとして取り入れるのが難しく、悪趣味の境界線ギリギリにあるものに目を向けるのは、得意客しか知らないようなロエベの靴を自宅で嬉々として楽しんでいる女性へのアプローチなのだろう。あるいは、これらの時計は気味の悪さとクールさが完璧に交差したものなのだろうか? きっとミセス・プラダなら、“醜くも美しい”と言うのだろう。

4 time zone watch Chopard
18KYG、セカンドタイムの“デュアルタイム”、1971年製。Image: courtesy of Bulang and Sons.

 そもそも心を揺さぶる美しさとは、一体誰が決めるのだろう? たとえシンプルで丸みを帯びたものを好む傾向であっても、気概を持って何かを評価してもいいのではないだろうか。私はそれを物質的な公平無私と呼びたい。“33~36mmという完璧なサイズであり、レザーストラップがついた時刻表示のみのドレスウォッチ”、というようなメッセージがきちんと綴られたオブジェをつくるのではなく、 自信をもって奇妙なことを受け入れることが重要だ。これはまさに70年代的アプローチであり、ウォッチメイキングにも社会にもルールがなかった時代である。

 ショパール クアドラプルタイムゾーンウォッチは、基本的に同社のデュアルタイムモデルをふたつ組み合わせたバージョンであり、4つの個別ムーブメントで構成されている。このようなモデルは、時計学の革新の道を歩んだ過程のなかで生み出されたものでないことは認める。これらは、ジュエリーと時計のハイブリッドメゾンとして認定されたメゾンによるデザインステートメントなのだ。“ヴィンテージショパールは、まだ過小評価されていると思う。このブランドは長いあいだ、コレクターに見過ごされてきたのだ”と、パリを拠点とするディーラー、ジュリアン・トレット(Julien Toretto)は言う。“ショパールの強みはそのデザイン、 特にデュアルタイムにある”。

Vintage Chopard Watch
クチンスキー デュアルタイム、ホワイトゴールド、オニキス&ターコイズ&ストーンダイヤルセッティング、1970年代後半製。Image: courtesy of Watches of Knightsbridge.

 トレットのお気に入りのひとつであり、今では私のお気に入りのひとつでもあるのが、上のRef.5093だ。“これは1970年代、クチンスキーブティックのために極めて絞って生産されたモデルだ(約20本)。サイズは46mm×24mmと当時としては超特大である。さまざまな組み合わせが存在するが、ケースに施されたテクスチャーの遊び文字盤に用いられたプロポーションが、この時計をショパールならではの真に特徴的なデザインにしている”。私と同様、トレットもファッションマニアだ。やや大げさなものとエレガントのあいだにある適切なポイントを突くことは、実は過小評価されるべきではない、非常に大きな偉業であると彼は理解している。

Dual time watch
デュアルタイム、18KYG、1970年代製。

 “ショパールは、ピアジェ、ブルガリ、カルティエの系譜に完璧に当てはまる。しかし、これらのブランドの多くがそうであるように、ジュエリーとウォッチメイキングがクロスオーバーしているにもかかわらず、真剣に受け止められていない” 。私もこれに同意する。インターネットを徘徊していたときに出合った、大量のスリーパーヒットを見ればそう感じる。だから私たちは、昨シーズンのクリスティーズ・ジュネーブにて5万スイスフラン(日本円で約860万円)で落札されたクッサンバンブーや、13万8600スイスフラン(日本円で約2375万円)で落札されたカルティエ ロンドン “ダイス”といった、カルティエという名の祭壇を崇拝している。あるいは、1060万円(税込予価)するリバイバルピアジェ ポロが脚光を浴びているあいだに、ショパールのアーカイブに目をとおし、より手頃な価格の代替品を探してみる価値はあるかもしれない。

サンモリッツウォッチ
 1980年、ショパールはアルパイン イーグルの前身であるサンモリッツを発表した。コレクション名の由来となった、有名なアルペンスキーリゾートの町と密接に結びついた、セクシーで若々しいラグジュアリーなライフスタイル製品を提案するブランドの試みだった。それまでジュエリーと金無垢のドレスウォッチだけに集中していたショパールにとっては、左翼的な動きだったかもしれない。しかしステンレススティール製のスポーツウォッチが市場を支配するトレンドに乗ることは納得できる。1980年は、このような製品が誕生した時間軸のなかでも最後のほうであることは認めるが、その時点で誰が先駆者だったかを気にする必要はあるだろうか?

 サンモリッツの物語は1980年に始まる。その後1982年のバーゼルで発表され、1983年末に店頭に並び、SS、ツートン(SSとYG)、金無垢YGの3種類で販売された。そのあとジェムセッティングや、スケルトン加工が施された興味深いモデルも登場した。

Chopard Skeleton
サンモリッツ スケレット、1980年代製。Image: courtesy of Phil Toledano.

 “70年代すぎず、ちょうどいい。十分なおもしろさがあって美しい。ちょうどいい驚きがある”。そう話したのはTalking Watchesのゲストでありコレクターのフィル・トレダノ(Phil Toledano)だ。自身が最近購入したというサンモリッツ スケルトンについてこう語る。噂によると、スケルトナイズは実際にはアーミン・シュトロームによって行われたというが、私はこの事実をまだ確認していない。

 “(初期の)スケルトンウォッチで重要なのは、スケルトナイズすると、ほとんどのスケルトンウォッチが同じように見えるということ。このデザインは、信じられないほどの汎用性を持っているのだ”。トレダノは続けて、“私が本当に驚いたのは、その時計のベゼルだった。ショパールのことは何も知らなかったが、スケルトナイズされたサンモリッツを見たとき、全体を引き立てていたこの非常に興味深くて珍しいベゼルの形状に引き込まれたのだ”。

St Moritz Rainbow
サンモリッツ レインボー、1984年製。Image: Courtesy of 1st Dibs.

 1984年、ショパールはサンモリッツのオリジナルモデルに続いて、ダイヤモンドとカラーストーンをセットしたサンモリッツ レインボーウォッチを発売。レインボーセッティングの登場としては信じられないほど早かった。もちろん、レインボーロレックス チェリーニはこの10年のごく初期に登場したと思われる。

 ショパールは70年代から80年代にかけて、私たちの好きなブランドと同じデザインのアイデアをたくさん持っていた。これらの時計は、ロレックスのように宝石をセッティングし、ピアジェやパテックのようにブレスレットやケースに金属細工を施したものと同じである。トレットはこれを“ファンタジーウォッチ”と呼んでいるが、このセグメントはあまり評価されておらず、むしろしばしば否定されている。エルトンのようにショパールを探して、エキセントリックな一面を受け入れてみてはいかがだろうか。現代的な型にはまらない、少し自由なヴィンテージを探してみては。

オーデマ ピゲが、ジョン・メイヤー(John Mayer)とのコラボレーションによる最新ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー(RO QP)を発表した。

ホワイトゴールドを使用した信じられないほどゴージャスな本モデルは、Cal.5134で駆動し、驚くほど革新的な“クリスタルスカイ”仕上げのファセット文字盤を備えている。世界限定200本で、価格は18万700ドル(日本での価格は要問い合わせ)だ。オーデマ ピゲはまた、ジョン・メイヤーが“クリエイティブコンジット(ブランドに創造やアイデアを提供する役割)”という新たな肩書きも得たと発表をした。

以上が概要だ。これはオーデマ ピゲの過去と未来のすべてが、1本の時計の中に凝縮された美しい姿であり、限りなく魅了される。リリースのなかには、デザイン、ブランドの歴史、ジョン・メイヤーのコレクションにおける話など、小さなニュースや話題がたくさんあった。メイヤーと私は、ロイヤル オークや、より具体的にはRO QPがいかにして彼のコレクション(あるいは彼の個性)を象徴する時計のひとつになったか、1対1で少し話をした。ユーザーに共有すべき意見はいくつかあるが、引用はない。メイヤーが自分の意見を言いたいときは、私たちが彼に期待するような情熱と知識を持ってそうするだろうと考えているからだ。ただ、もしよければ舞台を整えるために、本題から少し逸れて音楽の話をさせて欲しい。

1週間ほど前、私はクルマでニューヨーク郊外の旅行から戻っていた。ジョン・メイヤーがお届けする新しいSirius XMステーションにチャンネルを合わせると、ちょうど彼のお気に入りの曲であり、グレン・キャンベル(Glen Campbell)のカバーで知られたジョン・ハートフォードの“ジェントル・オン・マイ・マインド”について話しているのを聞いた。

ハートフォードはかつて、放浪者と彼の失われた愛を描いたこの曲を“言葉の映画”と表現した。グレン・キャンベルはそれを“人生に関するエッセイ”と呼び、その情景描写に“圧倒”されたと述べた。メイヤーがラジオで説明したように、 “私の心に心地よく(gentle on my mind)”という美しいフレーズは、完璧な愛を表している。それは愛であり、憧れであるが、一緒にいられなくなっても、それを持っていなくても痛みを伴わず、どこかにあると知っていることで慰められる愛である。存在を知っているだけでいいのだ。

ふたりの愛についてこれほど雄弁に語られているものを時計に落とし込むのは、こうしたことにこだわる人にとっても、少し極端な気がする。時計愛好家は、それなりに(ときに奇妙な)情熱的な人々のため、この曲は、私がヴィンテージとモダン問わずRO QPについて感じてきたことに、少なからず真実味を帯びていると認めざるを得ない。

何年ものあいだ、私はロイヤル オークを、現代におけるパーペチュアルカレンダーの頂点であり、美しく見やすい表示と素晴らしい時計製造の系譜を持つ、前衛的でアイコン化されたジェンタのデザインであると長年考えていた(そのすべてについては後ほど説明する)。また時計収集の旅において、オーデマ ピゲが終着点だと思っている人も多いだろう(ほとんど知られていないグランドコンプリケーション、そしてCODE 11.59 RD#4を除いては)。直接手に入れることができなくても、彼らの製品について情報を得たり、感動したりすることができる。そして私は、オーデマ ピゲの時計との自身の絆や繋がりがわかるような時計が1本欲しい。もちろんそれを想像するのはいいことだが、それは“遠くから見る”だけのちょっとした恋心であった。

AP Grande Complication
ドバイで見つけたオーデマ ピゲ ロイヤル オーク グランドコンプリケーション。

 この時計が私の心にどれだけ優しくのしかかるのか、まだわからない。そしてこれが私の予算には収まらないこと、また今後20年分の予算にも含まれないという事実を受け入れた。ただ、ほかのほとんどのQPは羨望の的であり、時間をかけて徐々に魅力を感じさせるのに対し、このモデルはそれらとは異なる。これはメイヤーの時計に対する情熱とオーデマ ピゲに対する情熱の結晶であるだけでなく、私の時計遍歴のなかでも、忘れられない瞬間になるだろう。私が中学生のときギターを手にしたのは、叔父、ジェームス・テイラー(James Taylor)、そしてジョン・メイヤーの3人のおかげだ。実際、子どもの頃にかっこいいと思った時計を探す人がいるように、私は今でもメイヤーオリジナルのマーティン・シグネチャーギターを探している。そして祖父が始めた腕時計趣味に戻ったのは、ベン(・クライマー)、ジョン、そしてHODINKEEのおかげだった。そしてブランドの歴史とコレクターコミュニティの願い(with immense gratitude and appreciation)を裏蓋に凝縮した、ベンの初となる限定モデルが誕生した。 

John Mayer AP Perpetual Calendar
 彼の時計が世界に発信された夜、ジョンと私は、彼とオーデマ ピゲとの歴史についてたくさん話をした。私にとって、最初に“ピン”と来たオーデマ ピゲ RO QPは、2016年頃に彼の手首に巻かれていたローズゴールド製のブルーダイヤル(Ref.26574OR)バージョンを見たときである。そしてそれは彼にとってもピンと来た瞬間だったようだ。彼の時計はナンバリングされていて、それは最初の100本のうちの1本だった。そしてほかの顧客と同じように、ニューヨークのブティックで自分で手に入れている。

AP Perpetual Calendars
2015年に更新された41mmモデルのラインナップについて、ベンが報じたロイヤル オーク QPは、左の26574ORを含めて3種類。金無垢でグリーンダイヤルのデイトナではなく、これこそが真の“ジョン・メイヤー”だったと主張したい…今日までは。

 彼の初オーデマ ピゲはこれではなかった。メイヤーは2014年に最も身につけた時計記事で、15202をつけていたことを思い出させてくれた。しかし、彼の情熱はどのようなものであれ、すぐに深みにはまる性質だ。2016年には、オーデマ ピゲ ロイヤル オーク コンセプト GMTトゥールビヨンを最も身につけた時計として発表している。デッド・アンド・カンパニーのステージでつけていたが、知らない人は高級時計だとは思わなかっただろう。完璧な選択である。

 2017年、ジョンはオーデマ ピゲがブラックセラミック製のRO QPで業界をリセットし、ブランドが新しい黄金時代に入ったことに気づいたと語った。これはオーデマ ピゲがピークを迎え、彼らができるとは思ってもみなかったことをやってのけた瞬間だったが、もちろんこれまで何度もその瞬間を成し遂げている。人々はケースの形にこだわるが、中身を見ようとしていないのだ。その後、RD#1はロイヤル オークのスーパーソヌリ(メイヤーが身につけているのが目撃されている。ミュージシャンと鳴り物時計との親和性は高い)に発展し、そしてその先へと続いていった。

 ときが経ち、彼の情熱が高まるにつれて、メイヤーはブランドの友人からアンバサダーとなり、そして新しく“クリエイティブコンジット”という正式な肩書きを持つようになった。彼はこの新しい役割を、コレクターとブランドの架け橋になることだと説明する。つまり、両方の世界に足を踏み入れ、顧客としての地位を維持しながら(実際に欲しい時計を購入する)、ブランド内で密接なつながりを持つという立ち位置だ。これにより、彼は自分が情熱を注いでいる(そして情報を得ている)時計のストーリーを、コレクターのコミュニティに共有し、彼らのフィードバックを自分自身が顧客としてブランドに返すことができるのだ。

 その役割をとおして、最終的にメイヤーが究極のRO QPをデザインしても驚くに値しない。私たちはエド・シーラン(Ed Sheeran)のユニークなロイヤル オーク QPを見てきたし、トラヴィス・スコット(Travis Scott)は昨年の秋に魅力的かつクリエイティブな(そして賛否両論ある)RO QPをリリースしている。どちらも超クールな時計だが、こちらのほうがはるかに強烈だ。ジョン・ハートフォードの言葉を借りると、これは“心地よく”感じられる時計ではない。しかしこの時計は、大胆でも派手でもなく、ソフトなタッチでデザインされ、常にコレクションに加わる可能性を感じさせる。これは明白に“ジョン・メイヤーとのコラボモデル”だが、“カクタスジャック”モデルとは異なり、彼の名前はどこにも書かれていない。結局のところ、ジョンがブランドに対して抱いている(プロモーションといった)異なる種類の経験を物語っているのだ。

John Mayer Audemars Piguet Perpetual Calendar Royal Oak
 メイヤーが独自のデザイン案を当時のオーデマ ピゲのCEOフランソワ-アンリ・ベナミアス(François-Henry Bennahmias)に提出したあと、ベナミアスは別の案を出した。“その代わり、限定版を作ったらどうだろう?” それは多くの意味で完璧な選択肢であり、何かが世に出るという不安から、自分自身を疑問視するプレッシャーを感じることなく、アイデアが生まれたからである。それでも、元のアイデアは彼が最も欲しがった時計だった。文字盤が光と戯れるようなコズミックなファセットで、何時間でも楽しむことができるパーペチュアルカレンダーのロイヤル オークであり、彼が最も望んでいた時計であることに変わりはなかった。

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 基本的には近年のRO QPと同じスペックだ。18KWG製ケースは、41mm径×9.5mm厚という快適なサイズであり、シースルーバックと20mの防水性、またQPに必要な機能をすべて備えている(そして私が個人的に使わない機能として、週表示機能がある)。Cal.5134ムーブメントのパワーリザーブは約40時間しかないが、時刻調整したくないからワインダーに付けたいだろう。時計の裏にはシリアルナンバーがついている。しかし文字盤の創造性に比べると微々たるディテールだ。

John Mayer Audemars Piguet Perpetual Calendar Royal Oak
 新しい時計と、以前オーデマ ピゲにあったトスカーナ文字盤とのつながりに気付いた。音楽ファンが言いたいように、これらの時計はある種深みがある。珍しいロイヤル オーク(それとほかのいくつかの時計およびほぼすべてのQP)に見られる鎚目文字盤を指す“トスカーナ”という用語は、オーデマ ピゲの社内で公式に言及されたことはなかった。これはトスカーナの夜空に思いを馳せた、イタリア人コレクターがつけたニックネームだと噂されている(それ以外に誰かいるだろうか)。残念なことに、初期の鎚目仕上げは必ずしも最高の見栄えとは言えず、プラスチックのような見た目の質感になりがちだった。オーデマ ピゲが昨年この文字盤を復活させたとき、同社はまたしてもプレス資料に“トスカーナ”の名前を出さなかった(この事実について今週口にしたとき、ある幹部は苦笑いを浮かべていた)。それから製造技術の向上により、ほぼ完成したと思っていた。それは“知る人ぞ知る”リリースであり、ブランドの歴史を真に愛する人々へ敬意を表したものだった。

AP Tuscan
オーデマ ピゲ 25654PT、鎚目仕上げの“トスカーナダイヤル”。

 現行のRO QPリファレンスのなかで私が好きなディテールのひとつは、NASAの画像から作られた写実的な月を持つアベンチュリン製ムーンフェイズだ。もし私がその時計を所有していたら、顔に近づけてアベンチュリンの“星々”を何時間でも見つめていただろうと、数え切れないほど人に話してきた。アベンチュリンダイヤルのCODE 11.59 QPは、そのアイデアを採用、さらに最大限まで発展させた。

Audemars Piguet Code 11.59 Perpetual Calendar with aventurine dial.
オーデマ ピゲ CODE 11.59 パーペチュアルカレンダー アベンチュリンダイヤル。

Audemars Piguet Code 11.59 Perpetual Calendar with aventurine dial
全面アベンチュリン製であるCODE 11.59は、ムーンフェイズの空の美しさを堪能するのは難しい。確かに素晴らしいが、ロイヤル オークのムーンフェイズと同じ体験はできない。

興味深い文字盤の質感を保ちつつ、ムーンフェイズがその存在感を発揮している。

 新しいクリスタルスカイ文字盤は、オーデマ ピゲがこれまでに行ってきたこと、そして今後行う可能性のあることすべてに時間をかけて検討し、その真ん中へ着地しようとデザインされた文字盤である。これはオーデマ ピゲの新しいモチーフだ。真鍮の文字盤板は電鋳金型によってプレスされ、意図したダイヤル設計の裏側を原子ごとに組み立てることで、高い精度と細部までのディテールを実現している。その後、文字盤は深いブルーPVDコーティングが施される。

 特定の光の下では、オリジナルのトスカーナダイヤルQPに似た効果を発揮し、インダイヤルがより明るく、目を引き、ギヨシェ模様が際立ち、視認性を高める一方で、文字盤は光の斑点が舞うダークブルーにフェードアウトする。より直接的な光の下では、時計が動くたびに信じられないほどシフトし、何日眺めていても、そのたびに違った表情を見せてくれる。そして電鋳プレスによって、まるでアメジストのジオードの内部のような結晶構造を作り出している。ほかにもちょっとした工夫がされていて、例えば“31”の日付はほかのRO QPのように、赤く塗られているのではなく2段にオフセットされ、月初めの“1”と視覚的にわけられている。さらに週を示す針は水色で、必要なときにのみ目立つように設計され、ほとんどの場面では視界から消える。これらはすべてメイヤーの頭のなかにあるもので、時計を最もエレガントな形に絞り込もうとした結果である。

ルイ・ヴィトン 3本の新作でハイエンドな時計製造技術を披露

クラフトマンシップと高度な時計製造技術が融合した、LVによる3本のハイウォッチメイキングピースが誕生した。

ルイ・ヴィトンは新作のフライング トゥールビヨンに加えて、ジュネーブにあるラ・ファブリク・デュ・タンで製造した超高級時計の数々を発表した。いずれも8桁を超える価格だが、いずれも世界最大のラグジュアリーブランド以外ではなかなかお目にかかれない、クラフトマンシップと高度な時計製造技術の融合が存分に発揮されている。それでは見てみよう。

タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ サファイア フランク・ゲーリー

初のハイウォッチメイキングピースのために、LVは建築家であり長年の共同研究者であるフランク・ゲーリー(Frank Gehry)氏と協力して、サファイア製フライング トゥールビヨンを開発した(ジュネーブ・シール認定も取得済み)。約100万ドルするこの限定5点のために、ゲーリー氏は過去の建築物からインスピレーションを得たアイデアをルイ・ヴィトンのためにデザインし、ケースと文字盤には2022年のタンブール ムーン サファイアを採用した。ケース、ラグ、文字盤、リューズにサファイアを用い、またスケルトナイズされたローズゴールド製ムーブメントと相まって、結果的に軽快な雰囲気を醸し出す。サファイアダイヤルは手作業でポリッシュ仕上げされているが、5本しか作らないならそのほうがいいだろう。

このムーブメントは、ジュネーブ郊外にあるLVの工房、ラ・ファブリク・デュ・タンの魔法使いたちが製造している。同ムーブメントの特徴は1分に1回転するフライングトゥールビヨンを搭載すること、そしてジュネーブ・シール認定を受けているところだ。

単に時間を表示するだけでなく、着用者の手首にフィットするような構造である。サファイアとスケルトンはゲーリーの美学とマッチした現代的な雰囲気を醸し出していて、カルペ・ディエムのようなものに比べると新鮮に感じるだろう。

ルイ・ヴィトン タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ サファイア フランク・ゲーリー。サファイア製ケース、直径43.8mm、厚さ11.27mm。ハンドポリッシュ仕上げのサファイア製文字盤、サファイア製針、サファイア製リューズ、サファイア製ラグ。Cal.LFTMM05.01、160個の部品から成るスケルトナイズドフライングトゥールビヨン、ジュネーブ・シール取得。約80時間パワーリザーブ、2万1600振動/時。世界限定5本。メーカー希望小売価格は93万5000ドル(日本円で約1億3785万円)。

エスカル キャビネット オブ ワンダーズ

ドラゴンクラウド。

コイガーデン。

続いて、ルイ・ヴィトンはエスカルシリーズの新トリオを発表した。それぞれの限定モデルは、20世紀の長きにわたって率いたガストン-ルイ・ヴィトン(Gaston-Louis Vuitton)のコレクションからインスピレーションを得ている。エスカル キャビネット オブ ワンダーズは、①コイガーデン、②ドラゴンクラウド、③スネークジャングルの3種類で展開する。いずれも20本限定で、希望小売価格は26万9000ドル(日本円で約3965万円)だ。それぞれ異なる文字盤をつくるために、さまざまな職人技と芸術的技術を駆使している。

スネークジャングル。

なかでも“スネークジャングル”は傑出していると思う。ジャングルの情景を表現するために、さまざまな木材、羊皮紙、藁を使用してそれらをすべて手作業でカットし、組み立てているのだ。このダイヤルは全部で267個ものパーツを組み合わせて作り上げているが、特筆すべきはそれだけではない。文字盤を横切るスネークもまた、マイクロ彫刻、エングレービング、シャンルヴェ エナメルを組み合わせて立体的になっているのだ。

ブランドはこの3本の新しいエスカルウォッチを、リニューアルしたエスカルコレクションの第1弾であると発表している。ミドルケースまで伸びる、手作業で研磨されたラグは、ルイ・ヴィトンの伝統的なトランクのブラケット(金具)を連想させるなど、ケースデザインのなかでも際立っている。エスカル キャビネット オブ ワンダーズコレクションのモデルはすべて40mm径の金無垢ケースで、内部にはCal.LFT023を採用する。Cal.LFT023は、約50時間パワーリザーブ、2万8800振動/時で時を刻む自動巻きムーブメントだ。

ルイ・ヴィトン エスカル キャビネット オブ ワンダーズ。①コイガーデン(ブルー)、②ドラゴンクラウド(レッド)、③スネークジャングル(グリーン)。それぞれ異なるメティエダール(芸術的な手仕事)の文字盤が特徴で、さまざまな職人技を用いている。例えば“スネークジャングル”は木材、藁、羊皮紙から作られた文字盤を(寄木細工師の)ローズ・サヌイユが手作業で組み立て、そこに(エングレーバーの)エディ・ジャケが手彫りでゴールドスネークと葉を、(エナメル職人の)ヴァネッサ・レッチはシャンルヴェ エナメルを施している。“スネークジャングル”はホワイトゴールド製ケース(40mm径)にエングレービングベゼルと翡翠のリューズを採用。新作のエスカル キャビネット オブ ワンダーズにはすべて、自動巻きCal.LFT023を搭載。世界限定各20本。スネークジャングルのメーカー希望小売価格は26万9000ドル(日本円で約3965万円)。

タンブール スリム ヴィヴィエンヌ ジャンピングアワー サクラ&アストロノート
最後にルイ・ヴィトンはタンブール ジャンピングアワーの新作、“サクラ”と“アストロノート”を発表した。ルイ・ヴィトンはちょっとしたミステリアスな演出として、2017年に誕生したキャラクター、ヴィヴィエンヌを“マスコット”にしたという。そこでタンブール ジャンピングアワーの新作では、そのマスコットをふたつの遊び心あふれるモチーフで表現。ひとつ目のサクラは、日本の桜からインスピレーションを得ており、文字盤に花やモノグラム、ピンクのマザー オブ パール(MOP)をあしらっている。ふたつ目のアストロノートは小さなヴィヴィを、いくつかの惑星が描かれた青いMOPアベンチュリン文字盤(宇宙)に送り出し、さらに彼女の周りにはダイヤモンドがひたすら軌道を周回している。

サクラの文字盤をハンドペイントする様子。

いずれもダイヤモンドをセットした38mm径のホワイトゴールド製ケースに、ヴィヴィエンヌが収められている。またLFdT(ラ・ファブリク・デュ・タン)が開発・組み立てたジャンピングアワー機構のCal.LV180は、ふたつの小窓で時間を示す。これらのジャンピングアワーウォッチは、LVの工芸と高級時計製造という専門知識を融合させ、LVらしい印象的なモデルとして表現している。

ルイ・ヴィトン タンブール スリム ヴィヴィエンヌ ジャンピングアワー サクラ&アストロノート。ホワイトゴールド製ケース、直径38mm、厚さ12.2mm。ケースにはブリリアントカットダイヤモンドと、ローズカットダイヤモンド(0.2カラット)をあしらい、ダイヤモンドは合計で3.8カラット以上。メーカー希望小売価格は11万8000ドル(日本円で約1740万円)。

コンクエストなど、魅力的な時計を幅広く取り揃えた。

伝説的なパテック フィリップのリファレンス1518から、トロピカルな文字盤を持つロレックスの金無垢サブマリーナーまで、魅力的な時計を幅広く取り揃えた。またイエローゴールド(メッキではない!)ケースのブライトリング トップタイムや、パワーリザーブインジケーターを搭載したロンジン コンクエストなど、あまり見かけないモデルもある。

ロレックス サブマリーナー Ref.1680/8、トロピカルダイヤル
YGのロレックス サブマリーナーは、アメリカ発のテレビドラマ『マイアミ・バイス』らしさがある(番組内のドン・ジョンソンは、実際はデイデイトを着用していたが)。文字盤がトロピカルになっていて、ゴールドの輝きとよく合っている。当時の非ステンレススティール製サブマリーナーで見られるインデックスの特殊な形状にちなんで、こちらのRef.1680/8には“ニップル”ダイヤルを採用している。ケースは分厚く、オリジナルのブレスレットもしっかりとしていると説明があり、時計には元の購入レシートも付属している(当時の価格が気になるところだ)。裏蓋の刻印を見ると、もともとは軍人のロバート・シッソン(Robert Sisson)中佐が購入したもののようだった。Googleで検索をすると、シッソン中佐は2009年に亡くなり、ベトナムでの任務を含む22年間の勤務のあと、1985年に退役していた。

パテック フィリップ Ref.1518、パーペチュアルカレンダー ムーンフェイズ クロノグラフ
“パテック フィリップのパーペチュアルカレンダークロノグラフは、時計収集の世界でほかに類を見ないほどの王道的な遺産を築き上げている”。この言葉は、ベンがこの素晴らしいパテックについて書いたReference Points記事から引用したものだ。そしてこの系譜は、1941年に連続生産された初のパーペチュアルカレンダークロノグラフであるリファレンス1518から始まる。このリファレンスは10年あまりにわたって提供され、合計281本が販売された。いま見ているのは、文字盤からわかるように1950年代初頭の後期モデルである。というのも、1948年に“&Co”の表記がパテック フィリップによって外されており、いわゆる“ショートサイン”が表記されているのだ。とはいえ、1518の真に重要なのはその美しさである。すべての機能がエレガントな35mm径ケースに完璧に収められ、ムーンフェイズも素晴らしい。この時計は私にとって最高の逸品だし、これまでに製造された時計のなかで、最もエレガントなコンプリケーションウォッチだと思っている。特にアラビア数字が植字されたこのバージョンは素晴らしい。

ホイヤー オータヴィア “エキゾチック” Ref.1563
このオータヴィアのオレンジの配色は、このRef.1563が1970年代のものではないかと疑わせるかもしれないが、そのとおりである。これはホイヤーが1960年代の終わりに、オータヴィアに導入した自動巻きクロノグラフムーブメントからも推測することができる。しかし、このオータヴィアの文字盤はほかのホイヤーとは完全に一線を画している。このモデルは、ユニークな段差のあるハッシュマークを備えていることから“エキゾチック”というニックネームで呼ばれている。さらに今見ている個体はミュージアムに収蔵できるレベルのコンディションを保ち、トリチウムのインデックスには美しいパティーナがあり、この時代のホイヤーでは非常に見つけにくいカミソリのように鋭いケースを備えている。

ロンジン コンクエスト パワーリザーブ
このロンジン コンクエストの文字盤は魅力にあふれている。シルバーの仕上げもとても素晴らしいが、それ以上に重要なのは、非常にスマートな方法でふたつのコンプリケーションを表示しているところだ。まず、12時位置に日付があるが、これは通常の3時配置とは異なり、ダイヤルの対称性を乱すことはない。第2に、時計の針が完全に止まるのを防ぐために、時計を再び着用するタイミングを知らせてくれる、回転式のディスク型パワーリザーブインジケーターが中央に鎮座している。このコンクエストは自動巻きムーブメントを搭載しているため、注意していれば手で巻く必要はない。見たところローレット加工されたリューズはオリジナルではなく、ほかのコンクエストで見られるように、このフォーラムにあるものや、ここで見つけたほかのRef.9035に類似した、ロンジンのサイン入りリューズがオリジナルだと思われる。

ブライトリング トップタイム Ref.2004、ソリッドゴールドケース
ブライトリング トップタイムは私のお気に入りのクロノグラフのひとつで、ジェームズ・ボンドとのつながりがあるにもかかわらず、しばしば見過ごされている(『サンダーボール』でボンドが使っていたガイガーカウンターウォッチは、Qによって改良されたトップタイムだ)。トップタイムコレクションはキャッチーなデザインと、ロレックスとホイヤーが同時期に打ち出したモータースポーツ(タキメーターを含む)の世界を連想させる外観によって、ブライトリングをより若いユーザーにアピールすることを目的としていた。防水性を高めたモノブロックケースのリファレンスもあれば、裏蓋が取り外し可能なクラシックなケースもある。私が思うトップタイムの魅力はその特別な逆パンダ文字盤にある。インダイヤルはこの時期のホイヤー カレラに見られるオールホワイトではなく、シルバーになっている。とはいえRef.2000と2003を筆頭に、市場で見つけることができるトップタイムのほとんどはゴールドメッキだ。しかし、このRef.2004の裏蓋には、18Kゴールド製ケースだという表記が誇らしげに刻印されている。

伝説のCal.135を搭載した、ゼニス クロノメーター
このゼニスは間違いなく、これまでに生産されたなかで最高の手巻きモデルのひとつだ。大胆な発言? そう思うかもしれないが、このCal.135は1950年以降、ヌーシャテルのクロノメーター検定で5回連続で優勝したほど、非常に精度が高いと称賛されたものだ。このキャリバーを見ると困惑することだろう。明確な目的を持った、見事なまでのシンプルさを実現しているからだ。Cal.135は、最高精度を目指してつくられたキャリバーだ。このムーブメントは、非常に大きなテンプ、調整機構、ブレゲひげゼンマイを備えた、直径が大きいムーブメント(仕様では約30mm弱)である。これは、オメガの30T2RGクロノメーターキャリバーと、同じムーブメント設計哲学を反映している。この種のクロノメーター級のムーブメントは、連続生産された天文台用競技ムーブメントのなかで最高の進化形であり、一般的にはここで見られるように、非常に控えめではあるが超高品質なケースに収められる。

文字盤は驚くほどバランスがとれていて、大きなスモールセコンドレジスター(ムーブメントのクロノメーター性能を評価するのに適している)と鋭いインデックスのおかげで、ドーフィン針と驚くほどバランスが取れている。

このゼニス クロノメーターは、Dr.Crott Auctioneersによって提供される。こちらのリストに記載されているように、エスティメートは3300ユーロから5000ユーロ(当時の相場で約41万~62万円)であり、率直に言って、これほど素晴らしく傑出した時計としてはお買い得である(編注:結果5400ユーロ、当時の相場で約67万円にて落札)。