シャネルでは、毎年異なるテーマで展開される限定カプセルコレクションをリリースしているが、

この時計の魅力を語る言葉は数多くあるだろう。だが、そうした言葉が無意味に感じられるほどの美しさが、この時計の魅力を雄弁に語る。

シャネル インターステラー カプセルコレクションを発表した。J12、プルミエール、ボーイフレンドといったシャネルのアイコンウォッチをベースにさまざまなスタイルのユニークな限定モデルが登場したほか、自社製ムーブメントを搭載したオートオルロジュリーコレクションにおいても宇宙を想起させるユニークなモデルが製作された。ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトもそのひとつだ。

時計のメディアで仕事をしていると、トゥールビヨンウォッチを見る機会というのは少なからずある(とはいえ、身近な時計とは言いがたいが…)。その際に抱く感想は多くの場合、“よくこんなに精密なものを組み上げられたなぁ”とか、“どうやってこれだけ複雑なものが動いているのだろう”など、その機構のスゴさに関するものがほとんどだ。そうした感想に先立って、トゥールビヨンの時計を見て思わず見惚れてしまったという経験は、この時計をおいてほかにはない。

筆者の心を奪ったムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライト。モデル名にもあるとおり、最大の特徴はメテオライト(隕石)ダイヤルを採用しているところにある。シャネル曰く、このメテオライトダイヤルを製作するために、さまざまな段階を通じて特別なノウハウを必要としたようだ。

スウェーデン由来のこのメテオライトは、まず塊から切り出され、研磨・洗浄されたのち、表面の凹凸を生かすために酸で洗われる。その後、地板に直接取り付けられるようにメテオライトにはスケルトン加工が施されるが、それはメテオライトのプレートを輪列の形に合わせてカットして、その仕組みを明らかにするようにデザインされており、極めて繊細な作業が必要になる。カットされたメテオライトは、亜鉛メッキ加工により色が濃くなったステンレススティール製プレート(同じく輪列の形に合わせてスケルトナイズされている)と組み合わされているが、これもメテオライト同様に同じ凹凸をもつ素材はふたつと存在せず、唯一無二のものだ。

ムーブメントには、シャネルのマニュファクチュールによって設計・組み立てされたフライングトゥールビヨンムーブメント、Cal. 5.1を採用。1分間で1回転するトゥールビヨンキャリッジは78個の部品で構成されている。このキャリバーは昨年発表されたCal.5をベースとしたもので、Cal.5ではフライングトゥールビヨンの中央に0.18ctの大きなダイヤモンドがセットされていたが、Cal. 5.1ではダイヤモンドに代わって自社製ムーブメントの象徴であるライオンの頭部モチーフがあしらわれた。

言ってしまえば、既存のCal.5のダイヤモンドをチタン製のライオンの頭部モチーフに変更したものだが、その内実は言葉どおりの簡単なものではない。当然ながらそれぞれで素材も形も異なり、トゥールビヨンキャリッジのバランスを取るための設計も異なるからだ。立体的なライオンの頭部は、このムーブメントのために特別に開発されたもの。レーザーで彫刻されるそれは比較的軽量なチタン素材とはいえ、このトゥールビヨンキャリッジが支えられるスペースと重量からすると、開発チームにとっては大きなチャレンジとなったようで、完成までに数年を要したという事実がその困難さを物語っている。

ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトを手に取って特に感心したのは、トゥールビヨンウォッチでありながらも、その機構に固執することなく、あくまでもシャネルらしいスタイルを追求しているところだ。というのも、これまでに見てきたさまざまなトゥールビヨンウォッチのなかには、見栄えや技術的なアピールに終始していて、見た目こそ独創的ではあるものの日常的につけてみたいとは思えないものが少なくなかったからだ。

この時計はトゥールビヨンであることをことさらアピールはしてはいない。真円のなかに円を描くというムッシュー ドゥ シャネルのデザインコードを守りつつ、オープンワークスタイルのメテオライト文字盤というユニークな外観に自然とトゥールビヨンの存在がなじんでいる。また、ライオンモチーフがあしらわれたSS製3重折り畳み式バックルはシャネルおなじみのバネ式。爪を痛めずに開閉できる構造で扱いやすい。ユニークではあるが、しっかりと日常的につけることが考えられているように感じられた。

もちろん、見栄えや技術的なアピールに終始した時計があってもいいと思うし、欲を言えば、この時計においても不満に思う点がないわけではない。アワーインデックスがあったほうが時刻が読み取りやすいと思うし、23〜37分にかけてはミニッツインデックスが欠けているため、正確な分表示がわからないという点は個人的な好みからすると気になる点ではある。

だが、この時計を手に取って考えさせられたのは、現代において日常的に手に取りたいと思う時計は何かを考えたとき、視認性やつけ心地といった実用的な側面はもちろんが大切だが、時計を見て直感的に心を動かれるかどうかということは、それ以上に大切なことではないか? ということだった。そして、それこそがこの時計に込められた最大のメッセージなのだと思うに至った。

このムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトの魅力を語る言葉はたくさんある。だが、そうした言葉を飛び越えて、直感的に美しいと感じさせる魅力が確かに感じられるのだ。そういうものに出合える機会というのは、長年たくさんの時計を見ていてもそう多くはない。個人的には、過去に登場したシャネルのトゥールビヨンウォッチのなかでもっとも心引かれるものとなった。シャネルのウォッチメイキング全般を取り仕切るアルノー・シャスタン氏は、以前のインタビューのなかで、シャネルのプロダクトは装飾品として美しいかどうかが一番大切なことなのだと語っていた。ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトは、まさにシャネルならではのトゥールビヨンウォッチなのだ。

基本情報
ブランド: シャネル(Chanel)
モデル名: ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライト(Monsieur de Chanel Tourbillon Meteorite)
型番: H7956

直径: 42mm
ケース素材: 高耐性マットブラックセラミック×ステンレススティール
文字盤: オープンワークのメテオライト
インデックス: 60分刻みの目盛り入りアプライドリング
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ブラックカーフのトリミングとライニングを施したブラックナイロンストラップにSS製3重折り畳み式バックル

ムーブメント情報
キャリバー: 5.1(自社製)
機能: 時・分表示、フライングトゥールビヨン
厚さ: 5.9mm
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 28

価格 & 発売時期
価格: 1705万円(税込) ※価格は公開日時点のもの。
限定: 世界55本限定。

ショパール アルパイン イーグルに息づくジュエラーとしての豊かな色彩感覚。

スポーツシックなラグジュアリーウォッチを標榜するショパールのアルパイン イーグルが新たな領域を開いた。それは豊潤なカラー。ハイジュエラーとして培った美的感性やノウハウを注ぎ、文字盤やジェムセッティングで独自の世界観を展開する。マニュファクチュールのウォッチメイキングと結びつくとともに、次世代への責任も見据えた美しさは唯一無二の輝きを放つ。

もはや周知のことかもしれないが、アルパイン イーグルは2019年に登場した。その前身は1980年に発表されたサンモリッツである。これは現在、共同社長を務めるカール‐フリードリッヒ・ショイフレ氏が、父であり、当時の代表だったカール・ショイフレ3世を説き伏せ、メゾン初のステンレススティール製スポーティウォッチとしてデザインしたもので、この成功とともに自身の代表作となった。そして次世代を担う立場として、この伝説的アイコンウォッチに注目したのが息子のカール‐フリッツ氏だった。おもしろいことに、不安視する父に対して意外にも積極的に相談に乗ったのは祖父だったそうだ。かくしてオーナー家3代に渡るウォッチメイキングの情熱がここに結実したのである。

アルパイン イーグルはサンモリッツをモダンに解釈したデザインをベースとしつつ、文字盤にはイーグルの虹彩を思わせる繊細なパターンを施し、シャープな面取りで仕上げた一体型ブレスレットにはアルプスの岩盤を思わせる質感が与えられた。スイスの大自然への思いを宿し、そこには時計メーカーとしてだけではなく、ハイジュエラーとしての美に対するこだわりと洗練の技がいかんなく注がれている。2020年にはクロノグラフモデルを投入し、デビューから数年のあいだに高振動キャリバー、フライングトゥールビヨン、そしてスモールセコンド表示を備えた極薄型モデルとバリエーションを広げ、アルパイン イーグルはメゾンの新たなアイコンとして確立した。そして、その新境地を開くのはハイジュエラーとしての繊細な色彩感覚だ。

ショパールの歴史を改めて振り返ると、1860年に時計師ルイ-ユリス・ショパールがスイスのジュラ地方にあるソンヴィリエで創業した工房に遡る。その高い技術と品質からヨーロッパの王侯貴族に愛用され、1937年にジュネーブへ移転したのちも着実に名声を得ていくが、1960年代、ポール-アンドレ・ショパールの時代には後継者が途絶えたことで存続の危機に陥る。これに手を差し伸べ、ショパールの経営を引き継いだのがドイツの老舗ジュエラーとして名を馳せたカール・ショイフレだった。

カール・ショイフレは1904年にドイツのプフォルツハイムで会社を創業し、ジュエリーウォッチはじめ、ペンダント、メダル、ブレスレット、ブローチといったアクセサリーにアール・ヌーヴォーに着想を得たフローラルのモチーフで人気を博した(ちなみに彼はエスツェハ/Eszehaというブランド名で販売した)。戦後、家業を継いだ孫のカール・ショイフレ3世は、金細工職人であると同時に優秀な時計職人でもあり、本格的なウォッチメイキングの確立を模索していた。ポール-アンドレ・ショパール、そしてカール・ショイフレ3世との出会いは互いにとって好機であり、大きな転換点になったのである。

1976年にハッピーダイヤモンドを発表し、ムービングダイヤモンドはジュエリーウォッチの世界に革命をもたらし、ショパールの名は時計の世界に一躍広まった。それから2年後には自社内に独自の合金生産のできる鋳造工場をいち早く設立し、ジュエリーと時計の開発製造における垂直統合化を果たした。そして今では毎年カンヌ国際映画祭において、レッド カーペット コレクションの新作ハイジュエリーが世界の注目を集めるほど、ジュエラーとしてのショパールの名は世界的に知れ渡っている。そう、ショパールのアイデンティティを支える根幹には、時計メーカーとして、そしてジュエラーとしての歴史があり、このふたつの歴史を持つことがショパールのウォッチメイキングにも大きな影響を与えていることを忘れてはならない。

アルパイン イーグルには、自社で金を鋳造するゴールドファウンドリを持つ強みを生かしてフルゴールドモデルも豊富に揃う。だが、イエローゴールドモデルのラインナップはそれほど多くない。左:自動巻き(Cal.Chopard 01.01-C)。COSC認定クロノメーター。18KエシカルYGケース&ブレスレット。41mm径。厚さ9.75mm。100m防水。時計の詳細はこちら。右:自動巻き(Cal.Chopard 09.01-C)。COSC認定クロノメーター。18KエシカルRGケース&ブレスレット。36mm径。厚さ8.4mm。100m防水。時計の詳細はこちら。

ショパールのハイジュエラーとしての自負はモノづくりばかりでなく、素材そのものにも向けられた。2013年に責任ある調達を目指すフェアマインド認定のエシカルゴールドの採用に着手し、3年後にはすべての製品において100%エシカルゴールドの使用を宣言。さらに2019年に発表したアルパイン イーグルではリサイクルスティールを70%含有するルーセントスティール™を採用しているが、そのリサイクル率はすでに80%を超えており、2025年までに90%以上の達成を掲げている。また、2023年末までにアルパイン イーグル含むすべてのSS製ウォッチにルーセントスティール™の使用することが決定している。

さらにこの責任ある調達の精神はメゾンで使用されるダイヤモンド、プレシャススストーンにもおよぶ。たとえば、ショパールで使用するすべてのダイヤモンドは、いわゆる“紛争ダイヤモンド”ではないことが証明されたキンバリープロセス認証を受けたもの、加えて原産地が特定できないものや、認証制度の未実施国や地域からのダイヤモンドを売買しないことを義務付ける自主規制を敷き、調達先のトレーサビリティが可能なものだけが使用される。

こうした取り組みは、持続可能性のある社会の実現に向けたメゾンとしての使命であり、サステナブル・ラグジュアリーへの旅として長期的なプロジェクトに位置づける。ショパールにとって、それは時を超越する真のラグジュアリーの追求なのである。

ナチュラルな美しさを引き出す、洗練の美学と熟練の技の世界

ジュエラーとしてのショパールの存在を際立たせているのは、共同社長であり、ハイジュエリー部門を統括するアーティスティック・ディレクター、キャロライン・ショイフレ氏が提唱する“ナチュラルな美しさを引き出す”ことを主眼に置いたスタイルである。

「宝石には本来備わった美しさがあります。ジュエラーがすべきことは、過度に手を加えずそれを引き立てること。シンプルなデザインのなかでこそ、彼らの卓越したスキルが発揮されます」

ショパールのジュエリーは、この彼女の感性をもとにデザインされ、ジュネーブのメイランにある本社内に設けられたハイジュエリーアトリエから生み出される。このハイジュエリーアトリエは極めて秘匿性が高いため、どれほどの経験を持つ職人がここでの作業を担当できるのかは明かされないが、キャロライン・ショイフレ氏のアイデアとスケッチがデザイナーへと渡され、その後ワックス彫刻職人や鋳造職人、宝石職人、細工職人、ジェムセッター、研磨職人など、同アトリエが誇る多くのアルチザンたちの芸術的な技巧を経て徐々に形作られていく。

ニバダ グレンヒェン アンタークティック 35mmは、ヴィンテージの人気モデル。

往々にして、ヴィンテージかモダンかという議論はほとんどが理論的なものだ。古い腕時計と新しい腕時計は明白に異なる魅力を持っており、どちらを買うべきかは、あなたがどの系統の時計病に悩まされているかによって決まる。

しかし、ニバダ グレンヒェンが新しい35mmのアンタークティックを、オリジナルのヴィンテージアンタークティックと一緒に見る機会を提供してくれたとき、長年の疑問を検証するチャンスのように感じた。ヴィンテージかモダンか? あるいはなぜ両方ではないのか?

11月、ニバダ グレンヒェンはアンタークティック 35mmモデルを発表した。新しいニバダ グレンヒェン アンタークティックの外観は、オリジナルのアンタークティックとよく似ている。ケースサイズは35mm径、厚さは10mm(風防を除くと7mm厚)だ。手首につけるとスリムな印象で、ラグからラグまでは42mm。ケースは完全ポリッシュで、そのインスピレーションを模したファセットラグが付いている。手首の大きさによっては小さすぎるかもしれないが、ニバダ グレンヒェンにはすでに、大振りなスーパーアンタークティックが存在する。私にとって今回アップデートされた35mmは、ブランドが2020年に再開したと同時にリリースした最初のアンタークティックよりも、はるかに成功していると感じる。その前のバージョンはモダンな時計になろうとしすぎて、その結果、すでに市場に出回っているほかの多くの時計と同じように見えてしまったのだ。

ニバダ グレンヒェンは今、見せかけを取り払い、本質的にオリジナルのアンタークティックを細部まで再現した復刻版をつくりあげた。これは約36時間パワーリザーブを備えた、シンプルな手巻きムーブメント、ランデロン21のおかげでもある。自動巻きムーブメントより実用性が劣るのは間違いないが、手に巻いたときの感触を重視した上でのチョイスだ。幸いなことに薄くて軽量ながらも存在感を放ち、その選択は成功したようだ。モダンで完全に実用的なフィールドウォッチが欲しい人は、ほかで試せばいい(Apple Storeを覗いてみるのはいいかもしれない)。ニバダ グレンヒェン アンタークティックは、忠実さのために機能を犠牲にした復刻モデルであるが、それを恥じることはない。私はその認識力を高く評価している。

ニバダ グレンヒェン アンタークティック 35mmは、ホワイト、エッグシェル、ブラックのいずれかのダイヤルオプションを提供しており、いずれもホワイトまたはベージュのルミノバ夜光を採用している。ブランドから送られてきたのは、ベージュ夜光が入ったホワイトバージョンだった(どちらかと言えば“フォティーナ”仕様)。数字はまぎれもなくアール・デコスタイルで、あらゆる方向に光を反射するファセットアローがそれを引き立てている。夜光マーカーもオリジナルにインスパイアされたもので、典型的なドットではなく、わずかに角度のついた線が配されている。

スマイルアンドウェイブ(笑顔で手を振って!)

新旧ともにスリムな形状をしている。

フォティーナ夜光が付いたエッグシェル文字盤か、あるいはホワイト文字盤にホワイト夜光の組み合わせのほうがよかったかもしれない。真っ白な文字盤に対してベージュ夜光がややマッチしていない。アンタークティック(南極)と呼ばれる時計を、スノーホワイトダイヤル仕様にしたというアイデアは大好きだが、私にとってはエッグシェルこそが、この時計のヴィンテージ志向を最もよく表していると感じる。

850ドル(日本円で約12万5000円)という価格は、競合製品と比較しても妥当だろう。スペック上、カーキ フィールド メカニカル(税込8万5800円)が最も自然な比較のように思えるが、アンタークティックは従来のフィールドウォッチとは違った雰囲気がある。

南極の風より涼しい
新しいアンタークティック 35mmは、1950年代のニバダ グレンヒェンの同名作品からインスピレーションを得ている。50年代半ば、米国は“ディープフリーズ作戦”と呼ばれる、一連の南極探査ミッションを開始した。リチャード・バード(Richard Byrd)提督がミッションを指揮しており、彼の手首にはニバダ グレンヒェン(クロトン)のアンタークティックがあった。次のような広告でまったく同じ時計を目にすることができる。

アンタークティックは頑丈で防水性があり、耐衝撃性もあった。それでいて35mm径だ。ヴィンテージのアンタークティックは現代の例と驚くほど似ている。ほんのわずかにアップデートが加えられた、完全復刻モデルである。リューズは最新版のほうが若干操作性が高いが、ヴィンテージアンタークティックは自動巻きムーブメントを搭載していたため、頻繁に巻き上げる必要はなかった。

新しいアンタークティックの真っ白な文字盤はシンプルさが魅力的だが、ヴィンテージは文字盤にこそ魅力がにじみ出ている。これはともにいい部分がある。誰かの物語を手首につけているのはそれだけでクールだし、あるいは思い出を新たに刻むことができるのもいいかもしれない。もちろん、ヴィンテージウォッチを実際に身につけて行動できるのか、あるいは身につけるべきなのかという不安もつきまとうだろう。

価格について、ニバダ グレンヒェンのギヨーム・ライデ(Guillaume Laidet)氏によると、状態にもよるものの600ユーロから1000ユーロ(日本円で約9万5000~15万9000円)でヴィンテージアンタークティックを見つけることができるという。ただ素晴らしいものを待つ必要はあるかもしれない。

結局のところヴィンテージかモダンか
“ヴィンテージ”、“モダン”コレクターの区別は、かつてないほど時代遅れ感がある。“真の”ヴィンテージの定義が何なのか(あるいは誰が決めるのか)ますますわからなくなってきているし、“ネオヴィンテージ”ウォッチへの関心も高まっている今、それが重要なのかどうかもわからない。最近のコレクターが求めているのは、1年前のものであれ51年前のものであれ、しっかりとした作りの時計なのだ。

ギヨーム・ライデ氏が2020年にニバダ グレンヒェンをリニューアルして以来、ブランドの伝統を生かした多くの商品や限定モデルをリリースしている。これはエクセルシオパークやヴァルカンといった、ほかの“ゾンビ”ブランドで行ってきたのと同じことだ。私が注目するリリースは、オリジナルに最も近い色合いのものであることが多い。誰かがブランドの歴史を直接的に、そして謝罪なしに堂々と描いているのを見るのは楽しい。

正直なところ、この価格帯のモダンなフィールドスタイルウォッチを買うとしたら、スタジオ・アンダードッグのフィールドコレクションのような、遊び心のあるユニークなフォルムのものにお金を費やすだろう。しかし、それらは私が現代の時計に求める基準だ。代わりに、愛するヴィンテージモデルの忠実な復刻版を望む人もきっといるだろう。この2点を比較するのはフェアではないかもしれない。というのも現在では両者ともに十分すぎるほどの伸びしろがあり、さらにそれ以上の余地があるからだ。

ニバダ グレンヒェン アンタークティック 35mmは、ニバダ グレンヒェン公式ウェブサイトにて12月23日まで予約受付中。35mm径×10mm厚(ラグからラグまでは42mm径)、316Lステンレススティール。ラグ幅は18mm(ストラップは16mmまでテーパーがかっている)。50m防水、ダブルドーム型サファイア風防。ムーブメントは手巻きCal.ランデロン21、2万8800振動/時、約36時間パワーリザーブ。ホワイト、エッグシェル、ブラック文字盤。ホワイトまたはベージュ夜光。質感のあるレザーストラップ。価格は850ドル(日本円で約12万5000円)。

ホリデーシーズンにつけたい夢のような時計を(空想上で)手にする

我々時計エディターのもとには、ほぼ毎日、いろんな時計の情報が入ってくる。時事問題のようなニュースもあるが(2023年に起きた、時計にまつわるニュースをこちらの記事でまとめている)、基本的には新作情報が多い。そしてその魅力的な新モデルを取材や撮影で目にした際、“これは欲しい”と思うときがあるのだ。そこで個人消費が膨らむホリデーシーズンを前に、1年頑張った自分へのご褒美、もしくは簡単には手に入らないけれど夢にまで見るような時計を、HODINKEE Japan編集部がチョイス。1年で1番楽しいホリデーシーズンは、高い金額やアクセシビリティの悪さについて目をつぶろう。

松本 由紀、アシスタント エディター
ショパール アルパイン イーグル サミット ジナルブルーダイヤル

ショパール アルパイン イーグル サミット ジナルブルーダイヤル
本テーマでは普段一番気にしているサイズ感を無視した。というのも細腕な私は、最大33mm径の時計しか腕に合わないので、つけられる時計というのを念頭に置くと、本当に選択肢がなくなってしまう。デザインを気に入っても、サイズの問題で断念することが多いのだ。
ホリデーウォッチとして選んだショパール アルパイン イーグル サミット ジナルブルーダイヤルも、値段はさることながら41mmというサイズも普段なら絶対につけられない…でもこういう機会だからこそ、夢を見たっていいよね!

ショパール アルパイン イーグル サミット ジナルブルーダイヤル

10万円以下のプレゼントに最適な腕時計記事でも、ブレスレット一体型のSS製ウォッチをおすすめに挙げている。無意識のうちに選んでいるので、心のどこかでこのカテゴリーが気になっているんだろう。来年、このジャンルの時計を手に入れているかもしれない(残念ながらこのモデルではないけれど)。

最初にこのモデルを見たとき、その文字盤の美しさに引き込まれた。2023年の新作で、一番キレイな文字盤だと思う。そのあとケース素材とベゼルにセットされたサファイアが目に入り、一瞬で現実に引き戻された。
この文字盤は見る角度によってブルーからバイオレットへと色味を変えていくというもので、長いホリデーシーズンをともに過ごす相棒として、いつまでも眺めていられるだろう。また普段宝石にはあまり引かれないが、これはグラデーションの様相が移り変わる文字盤と呼応してて素敵だと思う。いつか、このジナルブルーダイヤルがSSケース(もし可能であれば小振りなサイズで)に収められることを願う。

ショパール アルパイン イーグル サミット ジナルブルーダイヤル Ref.295363-1007、1250万7000円(税込)。ショパールブティック限定販売

佐藤 杏輔、エディター
アトリエ・デ・クロノメトリ AdC31

アトリエ・デ・クロノメトリ AdC31
このお題は本当に悩ましかった。生々しい話をすると、実際に自分で買うならパテック フィリップやロレックス、チューダーなど、手放すときに後悔しなくてよさそうなブランドの時計たちに今は関心を寄せている。でも、今回は純粋につけたいと思える時計を考えてみた。筆者がブレることなくずっと大好きな時計。それはクロノメーターウォッチだ。特に愛してやまないのは、ヴィンテージの、ロービートで大きなテンプを持ち、丁寧に調整された古典的なクロノメーターウォッチ。オメガのCal.30 T2 RG(262)、ゼニスのCal.135、ロンジンの天文台クロノメーター Cal.360などは、昔から憧れの時計である。とはいえヴィンテージを普段使いする勇気はなく、個人的に今最も心引かれているのは、古典的なクロノメーターウォッチへのオマージュが感じられる現代の時計だ。

アトリエ・デ・クロノメトリ AdC31
レジェップ・レジェピのクロノメーター コンテンポラン、クリスチャン・ラスの30CPなどは、ヴィンテージのクロノメーターウォッチをほうふつとさせるスタイルを持った心が躍る時計たちだ。特に今年見た時計のなかで最も筆者の心に刺さったのは、アトリエ・デ・クロノメトリのAdC31だった。この時計は銀座の老舗アンティークウォッチショップ、シェルマンの50周年を記念して特別に製作されたモデル。ディープブラックのグラン・フーエナメル文字盤に18Kイエローゴールドのバトンインデックスを配し、針には太いドーフィン針を合わせている。ちなみに通常エナメルダイヤルは銅のベースメタルプレートで作られる場合がほとんどだが、こちらはそのベースメタルプレートにも18KYGを使用するこだわりぶりで、37mmの段差付きのラグを持つ18KYG製ケースはハンドメイド。往年のパテック フィリップのカラトラバを思わせるスタイルだ。そしてなんといってもムーブメントである。搭載する自社製キャリバーのM284は、ブランド曰く、ジュネーブ天文台クロノメーターのような、1940年代のヴィンテージキャリバーのスタイルにインスパイアされたものだという。まさに筆者の好みのど真ん中だ。あぁ、もしこの時計が今自分の腕の上にあったら、もうほかの時計は要らないかも?

アトリエ・デ・クロノメトリ AdC31、1650万円(税込予価)

牟田神 佑介、エディター
ルイ・ヴィトン タンブール オトマティック

ルイ・ヴィトン タンブール オトマティック
改めて卓上横にあるトレイを見てみると、見事にツール感の強い無骨な時計ばかりが並んでいる。仕事で時計を扱うようになってからしばらく経つが、自分で気になるのは一貫してスペックやタフネスを強調したスポーツウォッチで、2023年も新生インヂュニアやオリスのプロパイロットX、ロンジンのフライバッククロノなどが(消化される気配のない)私的なウィッシュリストに追加されていった。時計は飽きが来ず、丈夫で、実用的であればあるほどいい。それが少し前までの時計に対する好みだった。

だが今年は、そんな心境に少し変化があった。先日発売されたHODINKEE Magazine Japan Edition Vol.7の撮影で滋賀を訪れた際、そこでいくつかのファッションメゾンの時計を撮影した時のことだ。焼杉板の壁が並び、石造りの水路が流れる古い街並みを、クラシックな装いに身を包んだモデルがひとり行く。その震えるほどの旅情のなか、手首にはルイ・ヴィトン タンブール(この時は、PG製のモデルだった)が巻かれていた。新生タンブールに関する情報はすでに記事で知っていたものの、実物が放つメゾンならではのエレガンスに僕の目は釘付けになっていた。

ルイ・ヴィトン タンブール オトマティック
ファッションメゾンが高級時計を手がける意味については、アンソニーが今年の初めに記事にした。ときに既存のマニュファクチュールを買収し、ときにノウハウを持つグループと提携しながら、各社ファッションメゾンらしい発想を伝統的な時計製造技術をベースに形にし続けている。新生タンブールも、そんな伝統とセンスのハイブリッド感を味わえる時計だ。既存タンブールのデザインコードを薄いブレスレット一体型のパッケージにまとめ上げつつ、内部には著名なムーブメントメーカー、ル・セルクル・デ・オルロジェとの共同開発による自社製Cal.LFT023を搭載した本格的な高級機である。だが結局のところ、僕がヤラれたのはそんな蘊蓄ではなく、着用する人物のスタイルをも演出してくれるメゾンの格式にあるように思う。できるなら、長いホリデーの相棒に、このタンブールを連れて旅に出たい。あの時の写真のように……、とはいかないだろうが、少しは僕の佇まいもしゃんとして見えるはずだ。

これまでの僕の時計コレクションはロレックスのサブマリーナーに始まり、カルティエのタンクやオメガのスピードマスター、A.ランゲ&ゾーネのランゲ1など、ブランドのアイコンと呼べるような王道の時計を中心に構成してきました。どれも素晴らしい時計でとても満足していますが、僕の興味に変化が出てきました。

そのきっかけは、今年Watches & Wondersのために初めてスイスを訪問したことです。ビッグブランドの新作の数々を見たあと、スイスでの滞在を1周間ほど延長して、レジェップ・レジェピやカリ・ヴティライネン、デビット・カンドーの工房を訪問したことで、より小規模で時計を生産する独立時計師やインディペンデントブランドに強く引かれました。なかでも僕が今とても好きなのがサイモン・ブレット(フランス語読みだとシモン・ブレット)です。

サイモン・ブレット クロノメーター アルティザン
サイモン・ブレット クロノメーター アルティザン
コンプリケーションとイノベーションのムーブメントメーカー、クロノード社の創設者ジャン・フランソワ・モジョン氏のもとで働き、前衛的なMCTウォッチやMB&Fのプロジェクトマネージャーであるサイモン氏が立ち上げたブランドのデビュー作は非常に独創的です。直径39mm、高さ10mmのチタン製ケースにトレンブラージュ仕上げが施された印象的なデザインのダイヤルが配され、“天文台”針からインスピレーションを得た時針や先端を丁寧に曲げた針などのディテールは見事です。特に仕上げの質の高さには目を見張るものがあり、手間をとことん追求することができるインディペンデントメーカーならではの良さがあります。1年めにしてすでにブランドのデザイン言語を形成できているのは素晴らしいポイントで、GPHG2023でのレヴェレイション賞の受賞は当然のようにも感じました。

普段よりもずっとゆっくりと時間を過ごせるホリデーにこの時計をじっくりと堪能できたなら、どんなに素晴らしいかと想像しますが、すでに長いウェイティングリストがあると聞いているので、せめて夢で見るしかなさそうです。

タグ・ホイヤーは、グラスボックス カレラの新作を発表。

今回は、ティールグリーンのサーキュラーブラッシュダイヤルを備えた「ダート」の新バージョンだ。私たちHodinkeeは、まだ別のダートに好感を持っていることも否定できないが、タグ・ホイヤーの伝統的なスタンダードモデルにグラスボックスを用いたことで、タグ・ホイヤーはまた一歩前進と言える。

TAG Heuer Carrera Chronograph “Dato”
タグ・ホイヤーは、ブランドの歴史をすべて踏襲し、作動していないときにクロノグラフ針が日付を隠してしまうことから嫌われた不運な「デイト・アット・12」の代わりに、9時位置に日付表示、3時位置に30分積算計というレイアウトを採用した。文字盤の他の部分はすっきりとしており、見る角度によってブルーやグリーンへと色合いを変えるサーキュラーブラッシュ仕上げが施されたティールグリーンの文字盤が映えている。外周には、ロジウムメッキとポリッシュで仕上げられ、ファセットが施されたインデックスが配され、スーパールミノバのドットがアクセントに。さらに時針と分針にもスーパールミノバが施されている(ただしクロノグラフ針には施されていないため、暗所では計時できない)。

TAG Heuer Carrera Chronograph “Dato”
ポリッシュとサテン仕上げのステンレススティール製ケースに美しいファセットを施したラグを備え、サイズは39mm x 厚さ13.8mm。ステンレススティール製のディプロワイヤントバックルが付いたアリゲーターストラップが付属する。もちろん、グラスボックスデザインであるため、ドーム型クリスタルを備えクロノグラフ秒針が経時する様子をさまざまな角度から見ることができる。

TAG Heuer Carrera Chronograph “Dato”
内部に搭載された自動巻きCal.TH20-07(あなたもよく知っているだろう、時、分、秒、クロノグラフ、デイト表示を備えたアレだ)は、なんと80時間のパワーリザーブを誇る。このTH20-07は、コラムホイール式の垂直クラッチ式クロノグラフで、新作ダートの文字盤と日付のレイアウトに合わせて改良されたものである。

この新しい “ダート”は81万9500円(税込)で、すぐに購入可能だ。

TAG Heuer Carrera Chronograph “Dato”
我々の考え
最初に謝っておくが、この文字盤の色を写すことは非常に難かった。色相は光の加減で変化し、サーキュラーブラッシュ仕上げは特定の照明条件下でしか現れない。とはいえ、この色に近いグリーンを見るのはこれが初めてではないので、参考までに2021年のカレラのスペシャルエディションを振り返ってみて欲しい。

グリーンという色は万人向けではないかもしれない。グリーンを推す一番の理由は実用的なことで、製品ラインナップの穴を適切な方法で埋めることができ、黒や白の文字盤よりもモダンであることだ。しかしこの時計のケース、風防、プッシャーのデザインは、それだけでも十分にモダンである。白や黒の文字盤であれば、過去から現在までの伝統というギャップを埋めることができたかもしれない。しかし本機は人目を引き印象的であることは確かであり、それこそがタグ・ホイヤーの真骨頂なのである。

TAG Heuer Carrera Chronograph “Dato”
グリーン文字盤のクロノグラフといえば、タグ・ホイヤーは、42mm x 14.33mmの301万9500円(税込)のグラスボックス カレラ クロノグラフ トゥールビヨンも発表した。もしこのモデルがお好みなら、そういう選択肢もあるわけだ。正直なところ、私が個人的に買うには少し高すぎるし、トゥールビヨンのフチが文字盤の底を少しつぶしているようにも見えるが、まあ、あなたのトゥールビヨンというボートが浮かべのなら何でもいいだろう。

Heuer Dato Carrera
約80万円という価格帯でいて、この時計の仕上げは素晴らしいと言える。すべてが整ってきちんとしており、クロノグラフのプッシャーは(私の好きなデザインではないにもかかわらず)いじりがいがある(これが、クロノグラフを使う際の唯一の基準だ)。グラスボックスのデザインも決して飽きることがなく、あのグリーンのフランジは物理学と光のトリックによってさまざまな角度から読み取ることが可能。液体で視界を変化させ、歪みの少ないディスプレイを見ることができるレッセンス製の時計のようなものである。

TAG Heuer Carrera Chronograph “Dato”
Heuer Dato Carrera
ここ数年、タグ・ホイヤーがカレラのデザイン言語を確立し、それを繰り返していることは素晴らしいことだと思う。ヴィンテージモデルのようなノスタルジーはないものの、アルノー氏が率いているデザインの時代であることを強く感じさせるのは確かだ。フレデリック・アルノー氏がLVMH Watchesの指揮を執るようになったいま、彼が手掛けたデザインの後端を見ることができるだろう。ブランドがこれからどこへ向かうのか、興味は尽きない。

TAG Heuer Carrera Chronograph “Dato”
基本情報
ブランド: タグ・ホイヤー(TAG Heuer)
モデル名: カレラ クロノグラフ ダート(Carrera Chronograph “Dato”)
型番: CBS2211.FC6545

直径: 39mm
厚み: 13.86mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ティールグリーン(サーキュラーブラッシュ加工が施されたティールグリーンの文字盤、60秒/分のクロノグラフスケールが配された同色のフランジ)
インデックス: 3時位置に「アズレ」グリーンのミニッツクロノグラフカウンター、ロジウムメッキとポリッシュ仕上げの針 、ロジウムメッキのファセット・ポリッシュ仕上げのアプライドインデックス
夜光: スーパールミノバ®をアワーマーカー先端と時針、分針に採用
防水性: 100m
ストラップ/ブレスレット: ブラックのアリゲーターストラップ。サテン仕上げとポリッシュ仕上げのスティール製フォールディングクラスプ、バックルにタグ・ホイヤーのクレストマーク、ダブルセーフティープッシュボタン

Heuer Carrera Dato
ムーブメント情報
キャリバー: TH20-07
機能: 時、分、秒、デイト表示、クロノグラフ
パワーリザーブ: 80時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 33
クロノメーター認定: なし
追加情報: ラグtoラグ 46 mm

TAG Heuer Carrera Chronograph “Dato”
価格 & 発売情報
価格: 81万9500円(税込)